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2014.7.16

 思い立って今日から日誌を付けてみる。

 ラストのページが「かゆ うま」なんぞと終わらぬようにはしたい。


 今、とにかく市販の小説を読んでいる。わたしの住む市町村は立地条件的なものだろうか古本屋と喫茶店に恵まれており、良質の小説を安価で手に入れられるのだ。そして読む時間の確保が出来た時には、ゆっくりと浸り込める美味しい珈琲を出す喫茶店も数軒ある。最近はドリップ式のインスタントにも良い製品がたくさん出ているのは承知しているが、それでもやはり喫茶店で飲む珈琲は格別な味がするものだ。さざめく店内に客はやはり少ないほうがヨロシイが、まったく居ないというのはちと寂しい。波打ち際の寄せては返す潮の音に似たあのざわめきが何か心を落ち着ける効果を持っているのだと思う。


 さて、最近までに読んだ本の題名をここに羅列してみても構わないのだが、そんな事に意味など見いだせはしないのでやめておくとして。もっとも最近に読み終えた小説を上げておこう。


『青年のための読書クラブ』桜庭一樹著


 248Pの中編小説。中身は一話ごとに登場人物が入れ替わる連作の構成。こないだ読了したサリンジャーの短編集『ナイン・ストーリーズ』収録の一篇「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」でも思ったんだが、はて、「描写」とはなんぞや?

 ちょっと本編からそれぞれ引用してみる。


『この年、二〇〇九年の聖マリアナ学園は平和と滅びの気配に満ちていた(そう、その二つが同時に存在することもあるのだ!)。不景気や少子化など、暗い空気に包まれた寂しい九〇年代を経て、二一世紀になってからはずっと静かな凪の空が学園を覆っていた。学園に波乱はなく、政変も悲しみもなく平和であるのに、不思議な、滅びの風とでもいったものがゆっくりと吹き続けていた。王朝末期の都市にも似た、満たされたあきらめの空気がそこかしこを重たく覆っていたが、表向きはしかし平和そのものであった。』 "青年のための読書クラブ"


『本当に優れた芸術家はたいていそういうものだが、ヨショト氏のデッサンの教え方も、芸術家としてはまぁまぁだが教える才能だけは優秀といった連中の域を一歩も出るものではなかった。生徒のデッサンの上にトレーシング・ペーパーを重ねて原画を修正してやるコピー式実技指導、それと生徒のデッサンの裏に書き込むコメント――この二つを併用するわけだけれど、これによって彼は、まずまずの才能を持った生徒に、豚だと分かるものが豚小屋だと分かるものに入っているように描くことは結構教えることができる。いや、いかにも絵にあるような豚がいかにも絵にあるような豚小屋に入っているように描くことだって教えられなくはない。しかし、美しい豚が美しい豚小屋に入っているように描くにはどうしたらよいか(そこの技術をちょいと郵便で知らせてもらいたいということこそ彼の生徒たちの比較的ましな連中が何よりも渇望している焦点のはずだが)、これを教えることはしゃっちょこ立ちしたって金輪際できることではない。つけ加えるまでもあるまいが、なにも彼は、意識的ないし無意識的に才能の出し惜しみをしているわけでも、才能の浪費を慎重に警戒しているわけでもない。要するに彼には人にくれてやろうにもそんな才能の持ち合わせがないのだ。』"ナイン・ストーリーズ"


 これ、文章の分類的には『説明的文章』だよね? 『描写』ではない、はずだよね?

 わたしはやっぱりまだ描写というものが理解出来ていないのかも知れない。けれど、この二つの文章がまったくもって小説らしい小説の文章であるというくらいは解かっているつもりだ。つまり、上記の二つの文章は小説を漫画として例えた場合の「下書き状態の文章」というものでは決してないのだ。説明的文章はよくない、とよく言われるのはひとえに、「漫画的下書き状態の説明文」に関して言うべきで、こういう完成された小説的説明文には適用されないのだと思うのだが。


 その範囲は?

 そう聞かれるとこれもまた明快なラインなどというものはなく、恣意的に、読者の感性によるとしか言いようがない。昨今、人の作品を読んで批評なんぞする立場に立っていると、こういうラインで迷ってしまう事が多々ある。別に指名されてやってる事ではないのだからとは言うものの、例えばラノベにおいてなら、下描き状態的説明文でもあるケースにおいてはセーフだったりはしないだろうか?

 一般文芸、エンタメにおいてはアウトでも、ラノベではセーフ、逆にラノベではアウトになる一般文芸的手法というものもあるわけだから。(これを書いてるこの形式の段落付けはアウトに近い)

 まっとうなはずなのに面白いもんだ。


 とにかく、自身としてはもう一般文芸に的を絞ってしまったのだからラノベに色目使うのはきっぱり止めようと思うわけだ。


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