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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勘違いのもたらしたもの

作者: ポテチ

まさに青天の霹靂だった。

「2組の岩村君、同じクラスの宮本さんと付き合うことになったらしいよ」

「えー、ショック……密かに狙ってたのに」

私は不意に聞こえてきたクラスメイトの会話に、思わず立ち上がってしまう。

「川端さん、どうかした?」

「ははは、な、何でもないです、はい」

平静を装って再び座るが、実際のところ私の精神は崩壊寸前だった。

嘘だよね、うん、何かの間違い。

特に根拠があるわけでもないが、必死に自分に言い聞かせる。

だって、あの子そんなこと一言も言ってなかった。

もし、事実なら真っ先に私に報告してくれる筈だよね?

「それって確かなの?」

「間違いないよ。だって……キスしてるところをこの目でみたんだもん!」

「ホント!?キャー!!」

なんですと?

キス?ちゅー?ベーゼ?

ナニヲイッテイルノカワカラナイゼ

「しかも、ディープな奴」

その言葉が聞こえて来た刹那、私は教室を飛び出していた。


キーンコーンカーンコーン

授業開始のチャイムが鳴り響く。

「とてもじゃないけど、授業受けるような気分じゃないわ」

ベンチに腰かけて力なくうなだれる。

先程の会話に出てきた宮本とは、私の小学校からの大親友の宮本瑠璃子のことである。

もう4年の付き合いになるが、彼女に対する私の好意は未だ天井知らずに上昇中。

はい、ぶっちゃけ彼女に恋してます、狂おしいほどに。

ルリが視界に入れば見惚れ、声を聴けば心拍数は上昇し、芳しい髪の香りをかげば卒倒寸前に。

一言で好きと言い表せるレベルなど、とうの昔に越えている。

もちろんいくら愛していようとも私は女でルリも女、同姓間の恋愛がそう簡単に上手くいくとは思ってはいなかった。

だから会話したり、一緒に出掛けたり、プレゼントしたり、少しずつ好感度を上げる努力をしていたというのに……

こうも突然、どこの馬の骨とも知れん奴にかっさらわれるなんて全くの想定外だ。

誰だよ、岩村って。

どれだけ思い返しても、ルリの口からそいつの名前を聞いた覚えがない。

そんな話題にも出ないような奴に告白されたからって、ルリが即OKするだろうか、いやありえない。

せめて私に相談ぐらい……

「ユキちゃん、こんなところで何してるの?」

「ル、ルリ!?」

えっ、えっ?

もう、授業は始まっているのに、優等生のルリがどうしてこんなところに居るのさ。

「うちのクラスの前通って何処か行くのは見えたんだけど、授業始まっても戻ってくる気配がなかったから、抜け出して探しにきたんだよ」

うっ、見られていたか。

流石ルリ、目敏い。

「調子悪そうだけど、どうかしたの?」

どうやら端から見てもわかるくらい、絶望が表にでてしまっているらしい。

とはいえ、原因が原因なだけにストレートに言うことはできないのだが、

「私には言えないようなことなのかな?」

泣きそうな顔でそんなことを言われると、私は黙っていることなどできず、ぼかして伝えることにした。

「ちょっと嫌なことがあって」

「そうなんだ。良かったら話してみて?話すことで気分が軽くなることもあるし」

ルリにだけは話せないよ。

だけとそう言ってしまうと、ルリをさらに悲しませてしまうことが目に見えている。

それはいけない。

うん、名前さえださなきゃ、理由を言っても大丈夫だよね、きっと。

「失恋、しちゃったんだ」

「ええ!?」

「!?」

ルリの驚き方が予想外に派手だったので、思わず私もびっくりてしまった。

「ユキちゃん好きな人居たんだ……」

「うん」

「今までそんなこと一言も言わなかったから、気づかなかったよ」

「まあ、表に出さないようにしてたから」

本人の前でそんな話ができるほど、私の神経は図太くないんです。

「そっか、ユキちゃんが失恋、ね。ふーん」

気のせいだろうか、ひょっとしてルリ……喜んでる?

えっ、何故?

私が失恋したのが嬉しいとか?

ううん、ルリはそんな子じゃない、でも……

「ふふ。うふふ」

表情には出さないように頑張っているみたいだが、笑い声が漏れてしまっては隠し通せるわけがない。

何なのよ、一体。

私はルリのことでこんなに心を痛めているというのに、当の本人はそんな私の姿を見て笑ってるとか。

流石に怒りを覚えずにはいられなかった。

「そんなに人の不幸が面白い?」

「え?ち、ちが……」

「そんな様子で否定したって、説得力ないって」

ついつい語気も荒くなり、責めるような口調になる。

「ユキちゃ……」

「私、もう行く」

これ以上一緒に居てもイライラするだけなので、その場を去ろうと思い立ち上がったのだが、

「ぐすっ、本当に違うの。お願い、ひっく、話聞いてよぉ」

涙ながらに服の裾を掴むルリを見て思い止まった。

理由はどうあれルリを泣かせてしまった。

その罪悪感から無条件に許しそうになるが、今回ばかりはことがことなだけにそうするわけにはいかない。

とはいえ、そのまま無慈悲に去ることも出来ず、

「わかった、聞くよ。だから、落ち着いて」

とりあえずもう一度座ってルリと話すことにした。

「うん……」

ルリはポケットからハンカチを取り出して涙を拭くと、申し訳なさそうな声で話始めた。

「ユキちゃんの話を聞いて喜んだのは否定しない。でも、決して不幸を喜んだからじゃないの」

「じゃあ、どうして?」

「こんなこと言ったら軽蔑されると思うけど……その、失恋したってことは、ユキちゃんは今フリーなんだな。そう思ったら、嬉しくて」

「はぁ?」

意味がわからない。

どうして、私がフリーだとルリが喜ぶことになるの?

「えっと、つまりね、フリーなら私にもチャンスあるかなー、って」

頬を赤らめて俯き、消え入りそうな声でルリはそう言った。

つまり、どういうこと?

頭が混乱して、上手く考えがまとまらない。

だって、ルリはなんとかっていうクソ野郎と付き合うことになった筈だよね?

でも、今の言葉からすると、私の勘違いでなければ……

「それって、その、そういうこと?」

私の問いにルリは小さく頷いた。

そっか、やっぱりそういうことか。

嬉しいなー。

……

…………

……………… マジで?

うわっ、やばい、めちゃくちゃ嬉しい!!

ルリへの恋心を抱き続けて4年、ついに報われたのだ。

「ルリ!」

「ユ、ユキちゃん!?」

気付いた時には既にルリのことを力一杯抱き締めていた。

「嬉しいよ、私もルリのこと好き!ううん、愛してる!!」

「本当?」

「こんな大事なことで嘘なんかつくわけないでしょ」

「だよね。ぐすっ、嬉しいよぉ」

「ちょっとルリ、大丈夫?」

急に力が抜けて倒れそうになるルリの体を慌てて支える。

「ごめんね、安心したら力抜けちゃって」

そう言って微笑むルリ。

やばい、ちょー可愛い。

「!」

って、気付いたらめちゃくちゃ顔が近いんですけど!?

ルリの目が、鼻が、口がすぐ目の前に。

そう、 それこそもう少し近づいたら唇が触れてしまいそうなくらい……

「……ユキちゃん」

そう呟いて目を閉じるルリ。

これって、つまり、オッケーってこと?

夢にまで見たその瞬間が、今!まさに!

さっきから微かに頬を撫でるルリの吐息によって、すでに崩壊寸前だった理性では、私のたぎる欲望を押さえつけることは不可能だった。

少しずつ近づく二つの唇、それが重なろうとしたまさにその刹那。

「って、大事なこと忘れてた!」

コンマ数センチのところで、私は先程まで頭を悩ませていた事を思い出した。

「ルリ、同じクラスの岩村とかって奴に告られて付き合うことになったんじゃないの?」

そう、このことをうやむやにしたままじゃいられない。

なんとしてでも、ルリの口から真相を聞かねば。

「岩村君?そういえば誰かと付き合うことになったとか聞いた気がするけど、私ではないよ」

「ホントに?」

「うん。私は出会ってからずっとユキちゃん一筋だもん」

嬉しいしいことを言ってくれるじゃない。

でもそうだとしたら、クラスメイト達のしていた話は何だったのだろう?

もう、幸せ過ぎて半ばどうでもよくなっていたが、これからの為にも、事の真偽ははっきりさせとかなくちゃ。

「でも、私はっきり聞いたんだ『岩村君が同じクラスの宮本さんと付き合うことになった』って」

キスの現場うんぬんの話はしなくていいよね、うん。

「ああ、そういうこと」

ルリはどういうことかわかったらしく、続けて説明してくれた。

「あのねユキちゃん、うちのクラスには私の他にもう一人宮本って名字の子がいるの」

「……マジで?」

「マジです」

つまり、岩村君と付き合うことになった『宮本』さんはルリじゃない方の『宮本』さん、と。

なるほど、そういうことだったのか。

あれだけ落ち込んだのに、実際はただの早とちりだったなんて……

「はぁ、よかった」

思わず安堵の声が出た。

何にせよ、これでルリが誰かと付き合っているという可能性はゼロ。

これで何の気兼ねもなくルリとキスできる、そう思ってルリを見てみると、何故か少し不機嫌そうだった。

「でも、おかしいと思わなかったの?私、今までどんなことがあっても必ずユキちゃんに報告してたよね」

どうも、疑われたことがお気に召さなかったらしい。

いや、おかしいとは思ったんだ。

ただ、あまりにもショックで、悪い方へ悪い方へ考えてしまった。

理由を話そうと思ったが、ルリを疑ってしまったことは間違いなく私の非である。

なので、

「疑ってごめんなさい」

言い訳するのは止めて、素直に頭を下げて許しを請うことにした。

「許して欲しい?」

「もちろん」

その為ならなんだってする覚悟はできている。

「なら……」

どんなことを言われるのかと思って、ドキドキしている私にルリが出した条件は、

「さっきの続き、して?」

うん、断る理由無し!

私は再び目を閉じたルリと、口づけを交わしたのだった。

ありふれた設定ですが、急に頭の中に浮かんできたので、つい書いてしまいました。最後まで読んでいただいてありかとうございました。

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