人生大逆転
俺の名前は佐藤信也。いやだったと言うべきか。
それは鏡に俺の今の姿を写すと、長い髪をポニーテールでまとめ、サラサラした髪が揺れる。
顔は小柄でパッチリとした目、弾力がある頬、ぷっくりとした唇が揃って可愛らしい顔がある。
服はセーラー服を着ており、胸元は少しだけ膨らんだ胸に、ほっそりとしたウエスト。
下はスカートに隠れているが、膝下から延びる細くて白い足が見える。
そう、今の俺は女子中学生。どこから誰から見ても、普通の少女しか見えないだろう。
俺がこの少女になったのは数週間前のことだ。
俺はとある会社で営業をやっている……いや、やっていたのが正しい。この日、上司に解雇を言い渡されてしまったからだ。
足取りは重く、落ち込みながら自分が住んでいるアパートに戻っていた。
その途中、横断歩道があり、信号待ちをしていたら、その隣に自転車に乗った少女が止まった。
その時の俺は、その少女に対してなんとも思っておらず、ただ、これからどうしようか、としか思っていなかった。
信号が青になり渡っていたら、クラクションと同時に衝撃が来た。
一瞬の出来事で理解が追い付かなかった。
「……っ! あ、ああ……って、ええ!」
衝撃の次に痛みが来た思ったら、なぜだが知らないが、俺は交差点のど真ん中で浮いていた。
「俺死んだ!? いやいやまてまて!」
冷静になろうと思い、周りの状況をよく見る。
トラックが急ブレーキした後が残っており、俺が渡っていた横断歩道と逆の歩道に、俺の体が倒れていた。
どうやらトラックの信号無視で、俺が渡っているときに突っ込んできたみたいだ。
不運だと思いながら、俺は俺の体の前まで行った。
「うわ……」
体の状態を見ると、つい声を出してしまった。
それは、頭から血は流れているし、着ていたスーツはボロボロになって赤く染みになっている。さらには、自転車に下敷きになっていた。見た目はもう死んでいるような感じがしたからだ。
「嘘だろ……って、自転車?」
もう一度辺りをよく見ると、俺の体から少し離れた先に先ほど横にいた少女が倒れていた。
近くで見ると、俺とは違い、気絶しているが外傷は足が少し擦りむいただけで他は対したことは無さそうだ。
「俺とは違い運が良い子なんだ……」
そう考えると、なんだか無性にイラついた。
これから未来がある幸運な少女と、これから未来なんて無い不運な俺。
その不公平を感じた俺は、おもむろに少女の体に手を入れた。
何かを掴んだ感覚がして引っ張り出すと、少女の幽体が出てきた。
無理やり引っ張ったせいか、その少女の幽体は目を覚ました。
「え? な、なに? これって、私?」
「落ち着いて聞け。君はトラックに引かれてしまったんだ」
「……あ、そうだ。私トラックに跳ねられたんだ……」
青ざめるように下を向く少女。しかし俺には関係ない。
俺は少女の手を掴み、俺の体の真上に持ってきた。
「え……ちょっと何をするんですか!?」
「ふふふ、悪いけど君には俺の体に入ってもらうよ。そらっ!」
「ちょっ……やめ……いや!」
抵抗するが、無理やり押し込んだ。
すると俺の体がピクッと反応して、目を開けた。
「……あ、え……うううう」
どうやら全身から激痛が来たようだ。まあ、その大怪我だしな。
俺はその痛みに震えてる俺の体を横目で見ながら、少女の体の上まで移動した。
「へへ、おじゃましまーす、っと」
少女に重なるように俺は入っていった。
するとすぐに重力を感じて、閉じていた目を開けた。
「…………ふふ」
少し笑みを浮かべながら、体を起こした。
自分の体を見ると、少女が身に付けていた服を着ている。本当に少女になることができたみたいだ。
「やった……声も違う!」
体や声の違いを感じた俺は、どんどんと少女になったことを実感していく。
「あああ……ううう……」
うめき声が聞こえて、そっちを向くと、俺がいた。
うめきながら倒れている。残念ながら、あの少女は、俺の体から出れないみたいだ。可哀想に。
「おい、君! 大丈夫か? すぐに救急車が来るからね」
「あ、はい」
男の声が聞こえ、気が付くと周りに人が数人いた。
起き上がった俺を心配そうに見つめている。その視線には、交通事故にあった可哀想な少女の姿しか写っていないだろう。
密かにニヤリと笑い、俺はわざとゆっくりと倒れる仕草をした。
すると、近くにいた女性が慌てて、俺の体を支える。
「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。少し頭痛くて……」
「いいのよ。ゆっくりと休みなさい」
「ありがとうございます……」
女性は休ませるように膝枕をしてくれた。いい匂いもするし、頭から柔らかい感触もする。いい気分だ。
それから間もなく、救急車がやって来て二人とも近くの病院に搬送されたのだった。
こうして俺はこの少女の体を手に入れることができた。
数週間の検査入院のお陰で、少女の記憶を手に入れて、口調も仕草も自然とできるようになった。
両親すら、騙せているんだから大丈夫だろう。
「さてと、今日から俺が女子中学生。張り切って行くか!」
元俺の体は詳しいことは知らないが、生きていもあの状態じゃ障害は残るだろう。
まあ、どうだっていい。
なぜなら俺は健康な可愛い女子中学生だからだ。
「うふ、行ってきまーす!」