短編4
「ねえ、あたしのこと好き?」
「んー普通だよ。嫌いじゃないけど好きでもない」
「なにそれ」
そう言って彼女は笑った。
自分としては真面目に答えたつもりだったのだが笑われてしまった。
ふーむ、なんとなく自分としては面白くない。
「由梨は僕のこと好き?」
由梨。小坂由梨は一瞬目をパチクリさせ、その後キョトンとした。
なんでそんなこと聞くの?そんな顔をしている。
「大好きで大嫌いに決まってるじゃん。なんでそんなこと聞くの?」
実際に聞いてきやがった。
--大好きで大嫌い、いつも通りの答えに清々しい彼女の笑顔。
ああそう、と僕は生返事で言葉を返した。
「なによー自分から聞いておいて生返事なんかしちゃって」
「あー、ごめん」
「別にいいよっ、許さないから」
「許さないのかよ」
思わずツッコむ僕。 こんなこと滅多にあるもんじゃない。
「今度なにか奢ってくれたら許してあげなくもない」
「回りくどい言い方は人に嫌われる」
「いいよ、君があたしを嫌いならなければね」
「僕にも嫌われるぜ」
「嘘つき」
はっきりと断言するように由梨は言う。
僕は苦笑する。
「嫌いにだってなるだろう、人間だもの、ずっと好きなんてありえない」
「でもあたしのことは嫌いにはならないでしょう?」
「まあね」
--たとえなにがあろうとも、由梨がなにをしようとも、僕が由梨を嫌いになることはない。
自分の意志でそう決めたのだ。
それが僕の彼女にたいする罪の償いなのだから。
「じゃあいっそあたしのこと好きになればいいのに」
「自惚れるな」
「むぅ」
いじける由梨。これを可愛いと思ってしまう辺り僕もまだ甘い。
本人には絶対言ってやらないが。
「で、これからどうする?」
「人生?」
「今日」
「どうしよっか。学校ももう終わっちゃったっし、放課後は何をしようかと考える日々。めんどっ!」
「面倒くさいなら僕は帰っていいよな。それじゃまた明日」
「ちょっ!ちょっと待ってよ!もうちょっと一緒にいようよ!」
……学生服のえりの後ろ部分を掴まないで欲しい。
素直に呼吸が出来ないんですけど。
「……」
「なんとか言ってよ。……それともあたしと一緒は嫌?」
決して嫌じゃないけどお前がえりを掴むから口から言葉がでないんだよ。
--これはもしかしたら僕には死亡フラグがたっていたりするのだろうか?
若干17歳にして友達の女の子に誤って絞殺される。
明日の新聞の見出しが決まってしまった。
「…………」
「そっか嫌なんだ……。ごめんね。あたし君の気持ち考えもしないで好き勝手なことばかり言って。嫌だったら嫌って言ってくれても良かったのに……。ううん、別にあたしは気にしてないよ、君があたしを嫌いにならなければそれでいいから。……でも、やっぱりちょっと淋しいかな」
「…………」
なんだかもの凄くシリアスな空気になっているが元をただせば由梨が僕のえりから手を話せば済むという、案外どうでもいい図である。
--流石に限界だったので手を振りほどいた。
「触れられるのも嫌なのね」
「違うから被害妄想は止めろ。由梨がさっきからずっと僕のえりを掴んで離さないから喋れなかったんだよ」
「あぁ、どうりで顔が青白いなと」
「思っていたなら手を離してくれよ」
本当に僕を殺す気だったのだろうかこいつ。
「さて、じゃあせっかく君が生き返ったことだし、あそこにでも行ってみようか!」
「生き返ったって、別に死んだわけじゃないけどな」
「そいじゃ行ってみようー!」
「……了解」
僕と彼女は歩き出した。