白霧町が拓く時
「……はー」
意外性のあまり溜め息しか出ない。
親父の仕事の都合で引っ越した『白霧町』なんて幻想ちっくな名前の町。
『ボール行ったぞー!』
『あ痛っ! ……顔面セーフだよ!』
最近の小学生は強くなったんだな。
とまあ、こんな風にどこを見ても普通の町と変わらない景観になってる。
「期待はずれだな……」
てっきり漫画みたいな町かと思ってた。
まあ町って位だから、特に大きな店もない本当に田舎町みたいだけどな。
『この町は初めて?』
後ろから聞こえた幼い声。
その方に振り向くが姿は見えない。
『もうちょっと下よ』
言われるがままに下を見る。
そこには、オレの肩くらいまでしか無い身長の長い黒髪を持った少女がいた。
「あんたは?」
「名前を聞いてどうするの?」
「いや、まあどうもしないけど」
「元気無いみたいだけど何かあった?」 無表情のまま少女は言葉を紡ぐ。
恐らく心配してるんだろうけど、表情が冷たい感じなもんだから答えにくい。
「引っ越したばかりだから」
「そう。この町は良い所でしょう?」
「あー、まあ良い所かな」
それを聞くと少女は優しく笑った。
何が嬉しいのか、それともオレの薄いリアクションがおかしかったんだろうか。
「反応薄いんじゃないの?」
「あー、良く言われる」
「耳でも遠いの?」
「いや、別に」
オレは耳が悪いわけじゃない。
ただ、不安なだけだ。
昔から感情を表に出す事が苦手で、人から無愛想なヤツだと誤解されてた。
そいつが、引っ越した町でも繰り返されたりすんのかと心配なんだよ。
「分かった」
「ん?」
「感情を出さないタイプなんだ」
「……何で分かったんだよ」
「なんとなく」
なんとなくで済ませるのかよ。
「なんとなく心配だね」
「誰を?」
「アンタのこと」
「心配することなんか無い」
「その態度が心配なの」
オレの顔をじっと見上げる少女。
心を見通されるような、精巧に整った顔立ちに似合ってる青い瞳が見える。
「背が高いってば」
「いや、君が低いんだよ」
「ちゃんとユリって名前があるの」
「黒服黒髪でユリって名前か」
「放っといてよ」
肌の色は白いんだけどな。
「それより、あんたの名前は?」
「別に良いじゃんか」
「ダメ」
「……高梨スバルだ」
「スバルって星の名前じゃない? なら暗くならないで。もっと輝いててよね」
「言われると思った」
「言うつもりだったから」
そうだったのかよ。
「そろそろ帰るからね」
「ああ」
「……市原ユリは帰るからね」
どうして二回言うんだ。
「……止めるなら今のうちだからね」
止めて欲しかったのかよ。
「……ノリの悪い人」
「最初から言ってただろ」
「ま、良いや。そろそろ五時だし」
「五時になるとマズいのか?」
「うん。姿が消されちゃうから」
なるほど、姿が消される。ってえ?
「意味が分からないんだが……」
「うん。説明してないから」
「なんで」
「めんどくさいし」
ちゃんと説明しといてくれよ。
「消されるって何だ?」
「ダメ。もう行かなくちゃ」
ユリは早口に言うと布を出した。
それを大きく広げ、オレの視界から自分の姿をかくす様にしている。
「あ。待っ……」
言い終わるよりそれは早かった。
布が落ちると同時、ユリの姿は消失。
それを持ち上げて避けると、コンクリートの地面には一枚の手紙が落ちていた。
[業務連絡失礼します! この町には私みたいな幽霊が沢山いるかもしれません。
白霧町と言われる訳、説明します。
霧が出るんですよ。夕方辺りでしょうか。それに幽霊は耐えられないんです。
だから急いで消えました(汗)
暇そうだったので話しかけましたが。
もし悪くなかったら、またスバル君に会いに行っても良いですか?]
オレは、手紙をそっと懐にしまった。
どうやら、白霧町では何か普通じゃない出来事が起きちまうみたいだな。
退屈しなそうだ。
心を開こうとしないスバル。
気まぐれな少女・ユリ。
……世界観が伝われば幸いです。




