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第9話:吹っ切れ

 わたくしがゴーダン公爵家に切り捨てられてから数日。光と熱を恵んでくれる太陽は、変わらずわたくしたちにエールを送ってくれています。


 ラファエルから聞いた暴言は、それはそれはほっぺたをつねりたくなる酷いものでした。


『俺は君と生きていくよ。君はやることなすことを全て肯定してくれるし、ドレスもうっとりするほどきらびやか。保留していたあ奴とはまさに格がちがうね』


 彼が新しく手に入れた女性がどなたかは存じ上げませんが、魂の格ではわたくしが何倍も上回っていますよ! ひたすらに愛をささげたわたくしと、むさぼって使い捨てにしたあなた、神々はどちらを天に招待したいとお思いになられるか!


 セドリックは『はい』とだけ返事をする伴侶を欲していたのでしょうか。命令を忠実に実行するのが召使い以外にも必要だった彼は、哀れだというほかありません。


 彼の外見は、さまよってきた虫を絡めとる網だったのです。お母さまは正しかった! 身分の溝は、愛で埋まるほど浅くはありませんでした。投げても投げても、お返しはきませんでした。わたくしの声は彼に届かないでしょう。


「ルイーズ、今日はいつもより力が入っていますね……。裏切られた力をドブに捨ててはもったいありません、そう、土に向かって発散してしまいなさい」

「お母さまの言う通りには切り替えられません! お母さまも、一回恋心を盗み取られてしまえばいいのですよ! そうすれば、わたくしの仕事がどうしてはかどっているのかもわかります!」


 セドリックのことは、消そうとしてもなくなってくれませんでした。愛の結晶から恨みの呪符へと移り変わった気持ちが、消すことを許さなかったのです。


 分かりましたわよ、貴族の世界で恋を満たそうとするわたくしがバカだったのです。身のほどを慎んで、作物を収穫する生活に専念しろ、という天からのお告げだったのです。ご先祖様に抱いていた疑問が、今解けました。


 権力世界になど、もう関わりたくありません。『お上手ですね』『お美しいですね』と心無い言葉の挨拶をするくらいなら、汗水たらして働く方がよっぽど格好いい。


 昼前の耕しを終えたわたくしは、その場で地面を強く踏みしめました。


「……それでも、成り上がってやりますわ! ……甘い言葉ばかり並べておいて、あのセドリックとかいうクズ男だけは許しません! スキを投げつけてやりましょうか、愛の代わりに!」

「……ルイーズ! 王都の者がいたらどうするのですか!」


 ……今のは爆発させすぎましたわ。失礼しました、お母さま。このセリフは墓場まで持っていきます。


 休憩でお屋敷へ入ろうとしたわたくしの目は、着飾った服をした男性を捉えました。ラファエル? まさか、彼が昼前にやってくる時は家が立ち行かなくなった時です。


 わたくしは、マルシャン家を継ぐ者。男性に対しても、毅然と対応しなくてはなりません。


「そこのあなた、何処からいらっしゃった方でありますか? この土地は代々マルシャン男爵家が治めてきた土地、高貴な方でも荒らすことは許されませんよ?」


 その男性は、両手を高く挙げました。敵意はなさそうです。


 近づいてきた彼は、軽く会釈をしました。


「……これは失礼しました。私は、イヴァンと名乗る者です。その美しい黒髪をお持ちのあなたが、ルイーズ様でございましょうか?」

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