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第8話:追い打ち

 婚約者だと思っていた男性から告げられた、あまりにも唐突な婚約破棄の知らせ。わたくしを庇ってくれる者は、あの場所に誰一人としていませんでした。孤独には耐性があると思ってきましたが、四方八方から弓を向けられると身体が崩れそうになってしまいました。


 行きは馬車で連れられたのが、帰りはだだっ広い獣道を足で帰らなくてはなりませんでした。せめて鳩がいれば、まだラファエルか誰かに馬を持ってこさせられたのですが……。日頃畑中を動き回っていなければ、道草にかぶりついて冷たくなっていたかもしれん戦。


 所作が緩やかで、気さくに声を掛けてくださっていた方が、どうして……。トゲのついた静かな声で、わたくしの心は傷だらけになってしまったのですよ!


 足を棒にして体力の尽き果てたその日は、ベッドをに潜ることしかできませんでした。わたくしが女性であるから、お母さまも泣きわめく声をお咎めになられなかったのだと思います。


 パーティーで先導してくださったセドリック様は、澄んだ蒼い目をしていられました。呼び出された、夢を打ち崩された部屋の色ではありませんでした。


 もしかして、偽者が……? 本物のセドリック様は奥深くに監禁されていて、なりすました男が公爵家に馴染んでしまったのでは……? 家族の違和感にも気づかないようなゴーダン公爵は、どちらにせよ貴族失格です!


「……おーい、ルイーズ! 僕はきちんと帰ってこれたよ!」


 窓の外からは、聞きなじみのある声が飛んできました。勇気ある親友が、わたしの影武者として二たび潜入してきてくれたのです。


 わたくしの言われのない悪名は、王国中に届いているでしょう。『マルシャン家の小娘がセドリック様を取り込もうとした』と流れて、男爵家の維持すら怪しいかもしれません。


 招待状こそ運ばれてきましたが、参加すればセドリック様と鉢合わせるのは必然のこと。王宮から逃れられなくなってしまうでしょう。


 彼を待たせるわけにはいきません。わたくしも、真実とやらが知りたいですし。


「ごめんなさいね、ラファエル……。わたくし、セドリック様にお会いするのが怖くて怖くて……。王都の風景を思いかえすだけで、通りが血みどろに見えてしまいます……」

「いいんだよ、困った時はお互い様、だろ? そのうちルイーズが手伝いに来てくれれば、それで十分元は取れる」


 軍隊に捕らわれる危険と農作業はつり合ってくれません。彼の無償の漢気には、金銀財宝の類よりも価値があります。ああラファエル、恩返しのできないわたくしを赦してくださいまし……。


 わたくしを宥めるように付き添ってくれているラファエルも、あまり目線を上げてくれません。


「それで、頼んでいたことですけど……。セドリック様、パーティーにいらっしゃっていましたか? 偽者ではありませんでしたか?」

「偽者、かどうかは分からなかったけど……、別の公爵家の娘といちゃついていて……、とても話しかけられる雰囲気じゃなかったのは覚えてる」


 Tu m'as fait rêver |de nos fiançailles, et ensuite tu as donné ton cœur《絶対に許さない》 à une autre ?! |Dois-je te tuer de mes propres mains... ?!《介錯してさしあげます》


 ……おおっと、魂を悪魔に売るところでしたわ。ラファエルはむしろ恩人、当たるなら彼ではなく王都の貴族たちにです。


 それに、貴族の娘といっしょだったとしても、社交辞令もあるでしょう。家のつきあいですから、無下にしては印象が良くないというものです。破棄させられたといっても、婚約という忠義を示してくれたセドリック様が、まさかそんな……。


「でも、何を言ってたかは聞き取れた。……ルイーズ、キミが望むんだったら……、僕が手足を縛りあげるよ。キミの性格はよく知ってるからね、せっかくの称号を投げ出してほしくはないんだ」


 わたくしは固まってしまいました。世界を一分巻き戻して、ラファエルの言葉が変化するのを待ちたいくらいです。


 腐ってもわたくしは貴族の娘。一時の感情で家族に、お母さまに迷惑をかけてはいけません。この場所を追い出されたら、いったいどうやって食べていけばいいのでしょう! 落ちぶれた元貴族の流浪話で、良い噂を聞いたことがありません。


 ラファエルと目を合わせ、ゆっくりとうなずきました。マグマに落とされようとも耐えきってみせます。


「……あの娘かい? 手元においてやってきたけど、君を見つけられたから。真に愛しているのは、君だけさ。あいつも、男爵の子が公爵の子との婚約を信じるなんて、いかにも男爵の子らしいな……」


 ラファエルが言い切る前に、わたくしは拳をてのひらに打ち付けました。骨にまで響いてくる衝撃を感じました。

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