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第4話:愛する人

 セドリック様は、脇から湧いてくる有象無象には目もくれず、低段のあたりを探しておられます。背を伸ばした立ち振る舞いは、たとえ戦場に出られてもすぐ見つけられるでしょう。


 わたくしは我慢できませんでした。ラファエルに断りを入れて、愛する方の元へと急ぎます。


「……セドリック様! わたくしはここです、ルイーズはここです!」

「おお、ルイーズ。今回は遅れてきてしまってすまないね。……そのやりきれない目、さては他の男からは注目もされなかったのじゃないかな? ……僕はそんなことしないよ。他の人がどんな目で見ていようと、僕はルイーズしか入らない」

「セドリック様……!」


 何という花咲くお言葉なのでしょう! 霜が降りた冬の畑にも、彼がくればたちまちお花畑に生まれ変わりそうです。優しくほほ笑むそのお姿は、太陽にも負けません。


 この会場から二人で羽ばたけたら、どれだけいいことでしょうか。権力やお金が煮込まれた空気から解き放たれて、二人だけの時間を過ごしてみたいものです。……ラファエルが一人で帰ることになるのは心苦しいですね……、どうしましょう……。


 一段高く積まれた舞台には、宝石の散りばめられた座に制服を纏った貴族方が腰をかけられています。パーティーを催してくれる方であり、わたくしたちの生命線を受け持っているお方でもあります。


 わたくしの手が、温かな肌を感じ取りました。


「……君の手は、どうしてこんなにも温かいんだい? ……もしかして、僕への思いかい?」

「そ……そうですとも! セドリック様がわたくしを丁重に扱ってくださっているように、わたくしもあなた様が一番だと思っていますのよ!」


 さすがに詰まってしまいました。セドリック様がわたくしの思いにまで言及してくださるとは! 外を覆ってくれていた暖気が、心にまで流れ込んできた気がします。これはもしかして……両想いというモノではありませんか!?


 それにしても……わたくしの手はお気に召してくださったのでしょうか……? 『温かい』とは言ってくださりましたが、農作業で傷ついたボロボロの手のひらですよ? 普段は土にまみれ、作物を刈り取り、直接柄を掴むのですよ? わたくしは男性の手に見られてしまわないか不安で不安で……。


 視界が渦を巻いてきたところで、またわたくしの身体に熱が加えられました。繋がれた手に、何か柔らかいものが触れたのでございます。


「……僕はこの覚悟だ、ルイーズ。君と会うたびに、僕の時間が染まっていくんだ……」


 持ち上げられた手の甲に、セドリック様の唇が触れていました。マシュマロを乗せたような弾力が、たちまち心臓まで流れてきます。


 セドリック様に口を告げられたのです! 愛の印はほっぺた、おでこ、口と別れていた気がしますが、彼がするのならそこが正解の場所なのでしょう。腕をもう一本作って、額縁に保管しておかなくては! ……いや、お屋敷がいつ崩れるかも分かりません、いっそのこと土中で永遠の象徴とするのが良いかもしれませんね……。


「ルイーズ、君がどんなだったとしても……、僕は離さない。今ここで、婚約の約束をしよう。そうしてしまえば、僕が心変わりすることもなくなるから」


 今、何とおっしゃられました? 結婚? 婚約? セドリックの夫? 生活を育んでいくパートナー?


 あまり光を放たないシャンデリアが本気を出したのか、部屋がいっそう明るくなりました。錯覚でもいいのです、セドリックの彩られた瞳がくっきり見られるのであれば。


 わたくしの心を差し出してしまってもいいかどうか。そんなもの、答えはきまりきっています。


「……もちろんです、セドリック様!」


 わたくしと彼の焦点が、ぴったり合った瞬間でした。

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