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第3話:パーティー

 馬に乗るのは、何回やっても慣れませんこと。こん棒でお尻をひっぱたかれている気がしてきます。ムチを入れてやらないと間に合わない辺境とあっては、定められた運命です。


 王宮の門には、ひし形の穂先をした槍兵が左右に立っていました。そこんじょこらの馬にまたがってきたわたくしたちは、さも滑稽に映ったことでしょう。


 こちらも、好きで粗末な格好をしているのではありません。強大な貴族一家に物資が集中しているから! 仕事もお給料もあっせんしてもらえないというものなのに。


 門の前で馬をとめ、わたくしとラファエルは深くお辞儀をしました。腹いせに木の門にぶつかっても、事態は何も解決しません。


「……わたくしはマルシャン男爵家のルイーズです。証拠は……、このペンダントでいかがでしょう?」

「こちらに寄っていただいて……、……確かに拝見しました」


 ラファエルも一言一句同じやりとりをしていました。


 わたくしたちは、身分を明かしてもなお低いままです。仕事とはいえ、敬意を払ってくれている番兵たちにはささやかな礼物を差し上げ……そんなお金はありませんでしたね、失敬。


 街に入り、わたくしたちは馬を走らせます。呑気に歩いてきた身分が高いだけの女どもと比べれば、これでも『貴族らしさ』を振りまいている方です。馬車は知りません。


 やっとこさパーティー会場へたどり着いたわたくしたちには、除外するような目線が突き刺さりました。ドレスを纏っているだけの狂人と思われたのかもしれません。いつも目にする連中であるのに、挨拶のひとつも交わしてきません。


 幸いなことに、セドリック様はまだいらしていない様子。彼は何事にもルーズなゆえ、わたくしたちが先でもおかしくはないのです。


 わたくしが愛するのは、あの澄んだ青い瞳をしているセドリック様だけ。髪の毛についたチリを優しく払ってくれる彼だけ。他の男性に接触しては、自ら穢れにいくことになります。


 ……とは言いましても、わたくしに話しかけてくる男性はこの宮殿に住む毒虫よりも少ないのです。生まれを知っているという理由もありますが、やはり修繕の跡が目立つドレスにケチをつけているのでしょう。


 ドレス姿で舞っているとき、横でラファエルにこう告げられたことがあります。


『……僕が仮にあのまるまる太った貴族の男だったら、ルイーズを選ぶ自信はないよ……』


 中身を全く見てくれていない赤の他人ならまだしも、子どもからの付き合いであるラファエルからです。その回はパーティーに行けなくなってしまいました。


 わたくしが部屋の中央で見回しても、男性は目すら合わせてくれません。禁忌の子として生まれたのと同罪なのでしょうか、わたくしは。いくらセドリック様に尽くしているとはいえ、心は痛みます。


 ラファエルに目をやると、床につきそうな真っ白のドレスをした女性と会話をしていました。が、テーブルから離れようとする女性を彼が引き留めている様子。女性はほつれた衣装にばかり目が行っています。手ごたえはなさそうです。


 その後もパーティー会場を泳いでいた彼は、食事がまだ残っているテーブルへと帰ってきました。横に女性はいません。隣がぽっかり空いてしまっています。


「どう、ラファエル? 『今日こそは身分の高い人と!』と意気込んでいたけれど……?」

「ああ……、この通り。……折角お金を払ってまで参加しているんだ、食事で元を取るよ。そこの丸焼きを口にしてみたんだけど、今日の料理人は当たりだね」

「だから女性に話しかけられない……という土俵に立てていないのが、ですわね……」


 自身の皿に料理を盛りつけていくラファエルを咎める気は起きません。セドリック様が万が一お休みになったのなら、わたくしもお残しが無いよう貢献しなければいけませんこと。


 招待状こそ届くものの、天が地獄に落ちない限りのけ者にされ続けるパーティー。それでも参加するのは、貴族の血が騒ぐのでしょう。セドリック様に会う前のわたくしもそうでしたが……。


 この会場の奥には段差があり、その先は位が高くなければ入れない空間が存在しています。お腹を肥やした独身貴族たちが、グラスをかわして談笑しているのです。


「……貴族だからって、偉そうにしていますわね……。この姿をもし国民に見せられるのであれば、ぜひそうしてほしいです……」

「……ルイーズ、僕たちも貴族だよ……。……むしろ、『こんなのが貴族か』って、存在自体が下げられることになる……」

「そうでしたね……。セドリック様との関係もおしまいになってしまいますものね……」


 この国は貴族が運営していますが、権力はどこにあるか分かりません。明日を生きるのにも精一杯なわたくしたち辺境の人間には、一切の情報が回ってこないのです。


 『不公平だ』と声も挙げられません。だってわたくしたちは貴族、下で呼ばれる所の『特権階級』なのですから。わたくしが平民の立場になったなら、この拳でぶちのめしてあげます。


 ラファエルと端で愚痴を漏らし合っていたところに、会場の扉がわずかに開きました。遅れた参加者がやって来たのでしょう。


 その方はサファイアの澄み切った目をしています。その名をセドリック・ゴーダンという、ゴーダン公爵家の長男です。この不釣り合いな格好のわたくしを拾いあげてくださった方でもあります。

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