第2話:既読スルー
貴族にとっての恒例イベント、それがパーティーです。地元の酒場で愚痴を言い合っている平民と違って、手を取って踊り、マナーを守って食事を楽しむ、いたって普通のパーティーになります。
わたくしですか? わたくしももちろん参加しますよ、はい。公爵家のような派手ドレスは着られなくとも、お母さまが眠りの時間を削って合わせてくれた桃色の晴れ着があります。これを『みずぼらしい』だの『安っぽい』だの口にするお方は、残念ながら心は沸き立ちません。向こうからしてもそれがいいのでしょう。
今日がパーティーだとお母さまにも伝えていましたから、今日の分の農作業はなし。これ、楽でいいですね。これから『毎日パーティーがある』と伝えておきましょうか……。やっぱり、勘当されるのが恐ろしいのでやめておきます。
夕暮れを目で追っていたら、後ろから土を蹴る音がしてきました。この王国にしては珍しい、黒に整えられた好青年です。
「……ああ、ルイーズ。筋肉痛じゃないかい? 僕は……全身が痛くて踊るどころじゃないんだけど」
「ラファエル、あなたは休めなかった……みたいね。わたくしの家も、あなたの家も、苦しいのは一緒、ってことになるわね……」
「それはもう、仕方ないさ……。貧乏もの同士、頑張っていくしかないよ」
ラファエルが差し出した拳に、わたくしも拳を添えました。彼の方がやや大きいですね。彼には負けたくないのですが、性別の差だけは諦めなければなりません。
彼の一家、メナール男爵家も似たような境遇です。古ぼけたお屋敷を住処にしていますが、実質は周りの畑で食べていく自給自足の生活です。最下層ではないので、ラファエルは時々王宮へと招致されていますが……。大まかには変わらないでしょう。
ラファエルは肩を一回転させ、後方を指さしました。馬を二頭連れた馬車が、土埃を巻き上げて走ってきていました。
「……ラファエル、あんな豪華な馬車があるなら、もっと前から出しなさいよ……!」
わたくしが彼に文句をぶつける間もなく、空気をのせた馬車は目の前にやってきました。枠は木でできていますが、若者二人なら十分乗れそうな大きさです。
駆け寄ろうとして、腕が強く引かれました。
「ルイーズ!? そんな悲観しなくても。セドリック様と結婚するのが夢じゃなかったのか? いつもニッコニコだったじゃないか」
ラファエルのツッコミを受け取る余裕はありませんでした。
あの無人馬車は、わたくしがいないかのように走りすぎていってしまったのですから。
底辺貴族とはいっても、わたくしは男爵家のひとり娘。考えることもできない馬けらにまで蔑まれる理由はありませんわ! それとも、およそ令嬢とは思えない服装であったから? 次見つけたら馬肉スープにしてさしあげます。
「……おーい、ルイーズ……? 目が怖い、目が。落ち着いて、まだパーティーの前なんだから……」
「……それもそうでしたね。セドリック様に乱れた姿はお見せできませんものね……」
古くからの付き合いである彼に促されて、わたくしはようやく冷えることができました。お礼のひとつも渡せる財力はありませんが……。
お屋敷の玄関が開き、新たな足音がでてきました。お母さまでした。
「あらルイーズ、今日もラファエルと一緒に行くのですか? ……バカバカしい夢物語を描いていないで、いっそラファ……」
「ラファエル、さっさと準備しますわよ!」
外側からクギを打ち付けた方が良かったですね、これは。お屋敷が崩れる心配も減って、一石二鳥なのではないでしょうか。
わたくしたちは、結局いつも通り馬を取りにいくことにしました。ロマンチックでもなんでもない、灰色の馬です。




