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第15話:噂

 王都に身を移してから、一か月が経ちました。お母さまやラファエルも王都のしきたりに慣れ、貴族らしい服装で街中に出歩くようになりました。


 わたくしはイヴァンに連れられ、ルロワ家に割り当てられた仕事を教えこまれました。公爵家に入りましたからには、政治にかかわらなければならない。そう彼に告げられました。


 当たり前のことです。高貴な男性と婚約だけをして、邸宅でぐうたら生活をする☆☆☆に誰が愛を向けるのでしょうか。仕事もできて、家庭も持つ。上流階級の使命です。


 貧乏暮らしの経験は、ここで生きました。成人してから農具をふるってきたわたくしに、高々数時間の仕事などお茶の子さいさいです。男の方々が休憩を取りに出ていく中、わたくしはイヴァンとふたり書類に集中していました。


 わたくしについていた悪評も、イヴァンの尽力と仕事の出来栄えで、耳にすることはなくなりました。婚約式への道のりでは『悪女』『追放されろ』とヤジが飛んでいましたが、それが今では『ルイーズ様万歳』に変わったのです。現金な人たちですね。


「いい天気ですね……。お屋敷で泥だらけだった頃は、作物が育つくらいにしか考えていませんでしたけど……」


 かつてのわたくしは、下ばかり向いていました。種を踏みつけていないか、耕していない場所はあるか……。空に浮かぶ不思議な形の雲など、記憶にも残っていません。


 夜になると、おとぎ話さながらの星空が出迎えてくれます。イヴァンとふたりで夜に外出して、思わず声をあげてしまいました。


 今日は、王都で貴族会議が開かれる大事な日。若くして実力を認められた次期公爵のイヴァンも、それに呼ばれて出発していきました。


 久しぶりのひとりきり。ラファエルを誘おうかとも思いましたが、たまにはのんびり過ごしてみたくなりました。


「……あら、こんなところに道がありましたとは……」


 わたくしは、草の生い茂る獣道を見つけました。


 王都は城壁で囲まれているので、魔界や地獄にはつながっていないはずです。クマやイノシシが出たことは一度もない、気にしないでとイヴァンにも言われています。


 すぐ近くの通りから、鐘の音が響いてきました。木の板に何かが貼り付けられたようです。


 ルロワ家の身がそうやすやすと群衆には近づけません。通り過ぎるふりをして、聞き耳をたててみます。


「……ゴーダン公爵家のセドリック様が左遷される……?」

「あのゴーダン家の……? 私の知り合いが見た限りでは、『あんなに惚れさせる人はいない』って褒めていたけど……」

「いやいや、俺の聞いた話だと『甘い言葉を並べるだけの女たらし』だって……」


 最後のお方、まごうことなき大正解です。『婚約』というエサをまき散らして、愛を吸い取りたいだけの醜い人間です。いつの日か、過去のわたくしと同じ生活をさせて……。


 セドリックが左遷されるのですか!? わたくしが力を持って、彼の極悪非道な行動を責める前に……。何が理由なのかは存じ上げませんが、いささか不完全燃焼です……。


 あの男は、わたくしが断罪してやりたいのに……。地方の領主になるのでは、とうていわたくしの受けた被害とつり合っていませんではないですか!


 気づかずに奥歯を噛みしめていたわたくしでしたが、前方からやってくる単騎の馬に意識を取られました。


 あやつです。地獄に叩き落すべき男です。イヴァンがいなければ、わたくしはガイコツになっていたかもしれません。


 たった今地位をおろされたセドリックでした。

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