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第14話:邸宅

 幸せに包まれた翌日。わたくしは、イヴァン様のご邸宅へと案内されました。あちらこちらに埃の目立つ実家とは比べるまでもありません。書庫から寝室まで、チリひとつも落ちていませんでした。


「ルイーズ、ここが君の部屋だよ。なにを置いてくれてもいい。責任は、私が取る」


 そう胸に手をささげる彼からは、輝くオーラが出ていました。宝石は店にいけば目に入れられますが、彼の姿はそうはいきません。プライベートの様子を知っていることは、独り占めにしてしまいたいです。


「あの、イヴァン様……。寝室も別なのでしょうか……?」

「いっしょだよ、ルイーズ。……かしこまった言葉遣いをやめて、『イヴァン』と呼んでくれて構わない。公式の場はいつも通りでいいから」


 彼のウィンクは、世の女性を死に至らしめる効果があります。歴史に残る毒薬ですが、わたくしはそれでも受け止めます。彼の最期のひとときまで。


 イヴァン……? 口を変形してみますが、どうにもうまくできません。『様』が付いていないと、心が拒否してしまいます。一時も離れたくない彼のお願いなのに、どうしてわたくしは意地を張っているのでしょう。


 でもでも、イヴァン様……ではありませんでしたね、……イヴァンは想いを込めて『ルイーズ』とお呼びくださっています。夫と妻の間に上下関係をつくりたくない意気込み、愛し合う対等な関係でありたいお気持ちは伝わってきました。


「ありがとうございます、イヴァン……。ありがとう、でも構いませんか?」

「むしろそうしてほしい。私は……側にいてほしい人にへりくだられるのは好きではないからね」


 一言一言が、蛇口から溢れ出した金塊です。言葉を並べて行動の伴わなかった例の男とは、重みが違いますね。わたくしの幸せをきちんと考えてくださっています。


「……ああ、そうだ。ルイーズが望むのなら、一家やご友人を招待することもできるよ。ここに住まわせるには窮屈だから……、私がじきじきに屋敷を買う」

「一家やご友人……、いいのですか!? ……約束してくださいますか?」

「もちろん。何があっても、面倒は最後まで見る。ルイーズも、ね」


 公爵家の嫁の母になったことで、お母さまは生活の心配をしなくてもよくなりました。が、お屋敷に一人残される予定でした。


 イヴァンが提案してくださったことで、またお母さまとも気軽に会えるようになるのです! せっかくご友人も、と誘ってくださっているのだから、ラファエルも呼びましょう。彼とわたくしは、二人で一人の仲ですから。


 イヴァンの瞳がやや崩れて、もっちりとしただ円になりました。


「……ルイーズ、君の心にある傷はまだ癒えていないみたいだ。私の言葉に、すこし怯えているね……。ここではもう、騙されることなんか心配しなくていい」


 彼にはわたくしの心がすべてお見通しです。彼のいいところを刻んでいく隠しごと日記、できなくなってしまいましたね……。


 彼の手が、わたくしの髪を緩慢にとかしていきます。丁寧に、ていねいに……。

わたくしの肌がぞくぞくするのを感じます。彼に触られていると、ひとりでに幸福が生まれていくのです。


 窓から採り入れられた太陽の暖かさと見分けがつかなくなってしまいました。

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