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みよちゃんの夢  作者: ♪西谷武♪の小説世界♫


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6/17

 それからぼくの生活は一変した。

 毎日早朝三時に目覚めるとまず小説を朝六時まで三時間執筆し、自室に浮かんだ夢の入り口からみよちゃんの夢世界に侵入する。その時刻はそろそろみよちゃんが目覚めるときではあるが、ぼくは夢の出入り口が消滅する可能性などは露ほども考えなくなっており、唯一、家族がぼくの部屋に無断で入るおそれのみを警戒していた。それで、みよちゃんの夢の不思議を経験した彼女の七歳の誕生日に町のホームセンターまで出かけて、そこで購入した南京錠とその鍵、それに蝶番などを駆使して部屋のドアを滅多なことでは開けられないようにしたのだった。

 夢世界へ行くときにはドアの外に、

「小説執筆中につき進入禁止!」

 なる文言を朱書きした紙を忘れずに貼った。

 そうした配慮が功を奏して、ぼくは青空予備校の毎日を着実にこなし、浪人中のみよちゃんとともにQ大学合格に向けて一歩一歩近づいていくのだった。

 そして季節は移ろい梅雨も終わり、真夏の太陽が照りつける暑い日が続いたある朝のことだった。ぼくが珍しくいつもより一時間早い午前二時に目を覚まして小説を書いていると、二時半ごろに新聞配達のバイクの音がした。

「そうか、いつもぼくが目を覚ますよりも三十分近く前に新聞屋さんは届けてくれているんだな」

 心の中で感謝しつつ、階下へおりてゆく。一階の廊下のライトとポーチ灯を点けて玄関の鍵を開ける。突っかけを履いて表に出る。郵便受けまで数歩あるいて新聞を手にする。家に戻る……

「……なんだろう、これ。間違って配達されたのかな」

 その新聞にはこう書かれてあった。

 ――夢新聞、真夏号

 興味をそそられたぼくは、それを新聞屋に届けずにそのまま、読むことにした。

 一面には大きくこんな見出しが躍っていた。

 ――夢野博士、夢融合に成功

「夢融合? 何のことだろう」

 記事を詳しく読んでみる。

 ――昨年十一月より夢世界での研究を本格化させていた夢野博士がこの夏、一つの大発明を成し遂げた。夢融合炉がそれで、この機械は夢を見ている人から取りだした夢の事象を現実世界と融合することができる。

「ふーん……、夢にまつわる発明ッてことだな」

 ぼくは新聞を読むときには一面のあと、いわゆる三面記事から読む習慣がある。がさがさと音を立ててページを繰ると次の見出しが瞳に飛びこんできて、アッと声を上げた。

 ――みよちゃんの夢、ついに現実となる

「みよちゃんが新聞に載るなんて」

 驚いたものの、これは夢新聞だ。みよちゃんのことが出ていたとしても不思議はない。ぼくは心を落ち着かせてから記事に目をやった。

 ――想像力旺盛なみよちゃんの夢はついにこの夏、夢野博士の夢融合炉と結合し、独自の現実世界を構築するに至りました。彼女の兄で小説家のタツマ喜六さんはこの希有な体験を自作の「みよちゃんの夢」という作品で発表する予定です。

「みよちゃんの夢」

 ぼくは紙面を飾るその言葉を今さらのように繰り返した。

 この暮らしがはじまった二月から数えて、すでに半年が経過している。充分あり得ることだ。みよちゃんの夢世界は独自の現実世界に、アナザーワールドになってしまったんだ。そしてあの、ぼくの部屋の夢世界の出入り口こそ、何のことはない、真の現実世界とみよちゃんの夢世界とを結ぶ架け橋であったのだ。

「待てよ」

 ぼくは気づいた。

 夢新聞が届けられたということは、今ぼくのいる世界はみよちゃんの夢世界だ。ぼくはいつの間にあの、架け橋をくぐってしまったのだろう。

 ぼくは慌てて二階への階段をのぼった。そして勢いよく部屋のドアを開ける。

「ない、ない、ないぞ。夢の出入り口がなくなっている。みよちゃんの夢との出入り口が消えてしまっている!」

 ぼくがいるのは現実世界じゃなく、みよちゃんの夢世界だったのだ。

 いつの間にそんなことになったのだろう。ぼくは家族の様子をそっと確かめる。

 父も母も主寝室で寝息を立てていた。問題はみよちゃんだ。

「この世界がみよちゃんの夢世界だとすると、そこにいるのは……」

 案の定、ぼくの部屋の隣室で眠るみよちゃんは七歳ではなく、十八歳のみよちゃんだった。取り乱したぼくは慌ててみよちゃんを起こす。

「みよちゃん、起きてくれ。大変だ」

「……う、うーん、お兄ちゃん、どうしたの」

「世界が入れ替わった」

「えっ」

「つまりここは、ぼくが本来いるはずの現実世界ではなく、高校生や浪人生や、新婚ほやほやのみよちゃんがいる世界で、つまりここにはみよちゃんが二人も三人も存在していて、それが現実となってしまって」

「お兄ちゃん、落ち着いて。夢でも見たの」

「夢じゃない。ああ、そうか」

 ぼくは何かを納得した。

「これはひょっとしてみよちゃんの夢じゃなくて、ぼくの、タツマ喜六の見る夢なのか」

 もう一度布団に潜ればおかしな夢も解決するだろうと思って、ぼくはそんな願いを抱きながら、自分のベッドに帰るのだった。



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