3
「夢みたいな出来事だったな……まさに夢だったわけだけど……どこまでが夢で、どこからが現実なのかわからなくなるような……」
ふと気になってぼくは時計を見た。まだ午前四時過ぎだ。みよちゃんは寝ているのだろうか。隣の部屋をのぞいてみると案の定、みよちゃんはすうすう寝息を立てていた。うっすらと笑みを浮かべている……
「おやあ? 笑ってるぞ」
今度は本当に将来の旦那さんと出会っているのかもしれない。誕生日を迎えた早朝、みよちゃんはその夢で明るい未来を祝福されたのだ。
みよちゃんの将来の旦那さんはどんな人なんだろう。興味津々のぼくはもう一度、みよちゃんの夢世界に入れないものかと、小さくなって鼻の穴から侵入する方法とか、その他諸々の物語じみた方法を色々と試みたがどれもこれもうまくいかない。やはり執筆中にまどろんで幽体離脱し、すぐ近くの部屋にいたみよちゃんの夢に入り込むなんてのは、簡単なようでいて、実現のむずかしいことなのだ。
ところが。
自分の部屋に戻ったぼくは信じられないものを目撃することになった。なんと、みよちゃんの夢世界から脱したときの出口が、部屋の真ん中にぽっかりと、そのままの色彩、夢の色をたたえた模様を描いて大きく口を開けたまんまなのだ。
夢の出口……イコール夢の入り口でもあるのではないか……ぼくはまたその出入り口が閉じてしまうことを案じつつも、ふたたびみよちゃんの夢世界に足を踏み入れてみることにした。
そこは先ほどの青空予備校とは打って変わった景色が広がる、夢ならではのカラフルな世界だった。
一面七色の花々が咲き乱れ、空はどこまでも青く澄み渡っている。その空に遠い汽笛のようなのどかな音を立てる飛行船が浮かび、
「本日、大売り出し! 太鼓判だよ」
などという、何のセールなのか意味のよくわからない言葉が書かれた垂れ幕を風になびかせている。ふっと気づけば地上には観覧車やジェットコースター、サーカス小屋みたいな大きなテント、そしていくつもの屋台が立ち並び、その中にあって異彩を放つ魚屋が、真っ赤な鯛を店先にぶら下げて客寄せの声を威勢よく辺り一帯に響かせている……
その声の主は年若い青年であった。ぼくよりも五、六歳は若そうな……アルバイトだろうか。まだ魚をさばいたりはさせてもらえないのかもしれない。なぜかその場にある小さな釣り堀で、釣り糸を垂らしながら大きな声を上げている。
と、青年が何かの手応えを感じたようだ。客寄せの声がパッと止んだ。しなる釣り竿。かなりの大物がかかったらしい。
「大きいぞ」
青年は魚を釣り上げるべく、身体を反らして必死に釣り竿を握っている。
「あ、あれは!」
今度はぼくが驚かされる番だった。
なんと釣り糸の先にぶら下がってきたのは魚でもなんでもない、高校生のみよちゃんだったのだ。見事、みよちゃんを釣り上げた青年は、
「初めまして。おれ、これからあなたの恋人になるトビオっていうやつなんだけど、トビオってトビウオと似ているだろう。それできみは魚屋の夢を見たんだな」
などと言って高校生のみよちゃんを釣り堀の池からすくい上げたのだ。
トビオか……、ひょっとするとあの男がみよちゃんの将来の旦那さんになるのだな。
客寄せの声は大きくて清々しく曇りのないものだった。それでいて優しそうな声。ぼくは一応、その事実に安心して夢を辞したのだった。




