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今日はみよちゃんにとって七回目の誕生日、つまり七歳になる日である。もしもこの国に生年月日を時刻まで正確に言う風習があったなら、みよちゃんは今日の午後二時ちょうどに七歳になる計算だ。そんな一日にみよちゃんの身に起きた出来事を、時系列にのっとって書き記してみようと思い、筆を執った。……ああでもない、こうでもないと悩んでいると、そのうち何やらみよちゃんが寝言を言いはじめた。夢でも見ているらしい。ちょっと失礼して、みよちゃんの夢をのぞいてみよう。ぼくは小さくなってみよちゃんの鼻の穴から体内に入り、今まさに夢を見ているみよちゃんの脳内へと進入した……
このとき、ぼくは何かがわかった気がした。みよちゃんの夢に登場する最初の場面を、ぼくは繰り返しているのだ。これから先、また一から夢をやり直すことになるのだ。
みよちゃんの夢は見たら最後、永遠に終わらない夢なのかもしれない。
ぼくは見てはいけないものを見てしまったのだ!
少し冷静になろう。ぼくはもう目覚めることはない、とすれば……
この夢世界こそがぼくにとっての現実世界だ。
なんだ。何てことはないじゃないか。夢と現実が入れ替わっただけだ。
「なーんだ、そうかあ。あっはっはっは」
と、ぼくはここでおかしなことに気づいてしまった。
「と、いうことは、だ。ぼくと入れ替わりに、夢の中にいたぼくが現実世界に飛びだしているのかもしれないぞ。……いや、まさか、そんなことがあるわけ、ない。いやしかし、実際、現実世界にいたぼくはこのとおり夢世界の囚人と化してしまったわけだから、充分あり得ることだぞ」
あるいは。
「現実世界にいたぼくは夢の中だけの存在となり、誰かがぼくのことを夢見てくれないかぎり、存在すらも消失してしまった、そんな、存在のない存在になったのではないか」
「何をごちゃごちゃ考えているの」
気がつくと七歳のみよちゃんを筆頭に、中学生、高校生、浪人生、そして新婚さんという総勢五人のみよちゃんがぼくのことを見下ろしていた。みんな宙に浮かんでいる。
「ここが夢ならぼくも飛べるかな」
ぼくのつぶやきに新婚さんのみよちゃんが答える。
「わたしねぇ、じつは離婚したの。あなたと結婚するためよ」
みよちゃんは続ける。
「だからその手始めに、わたしと一緒に飛びましょ」
「飛べるかな」
「だってここは夢だから、飛べるわよ」
「よし、飛ぼう」
ぼくはゆっくりと足先を大地から離す。
夢だから飛べる。みよちゃんの夢。
ぼくは五人のみよちゃんとともに宙に浮かぶ。みよちゃんが言う。
「次なる夢主を捜しましょ。その人にわたしたちが結婚する夢を見てもらうのよ。それまでキスはおあずけ」
妹だったはずのみよちゃんは以前と設定も変わり、いつしか大人びた魅力が加わり、すでに妹ではなくなっている。ぼくは夢で出逢ったみよちゃんにいつの間にか恋していたのだ。
夢と恋。誰かの歌にありそうな文句だ。ぼくは適当なメロディーを口ずさみながら、来たるべき誰かの夢世界に登場するときを願って、五人のみよちゃんとともに夢の中、光射す空の下へとその身を溶かしてゆくのだった。
ぼくらは夢と消えた……
あとに残ったぼくのメロディーは、ひょっとしたらどこかの誰かの夢の中にでもひらめく、そんな「名曲」の一つかもしれない、われながらそう思わせる旋律だった。
(了)
もう少し長くしようかなとも思った作品でしたが、これはこれでいいと思い完成としました。お読みいただきどうもありがとうございました。




