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宇宙空間の真空なんて気にならなかった。極低温だってものともせずに進んだ。神さまの地図によれば、この先に三匹の子豚が待ち構えているのだ。ぼくは隣を飛んでいるぼくに、真空であるのにもかかわらず音波を用いて話しかけた。
「三匹の子豚っていうのは、あの有名な三匹の子豚かな?」
「ここもまたみよちゃんの夢世界だとするのなら、なんの不思議もない事実だ」
「夢って偉大だなあ」
「たしかに。何でもありだものね」
「ここへきて、ぼくは仮にこの夢から覚めなくてもかまわない気がしてきたよ。夢の中に墓標を立てるのさ。そして日々、夜を迎えて夢を見る人々の来訪を受けて、人々の夢から悪夢が消えるように祈ってやるんだ。夢世界の神さまってとこだな」
「だけどこの世界には、ぼくらに地図を与えてくれた神さまがすでに存在しているよ」
「そうだった。おや? 変な音が聞こえてくる」
「うん。何だろう。ぶうぶう、ぶうぶう、言っているよ。これは……三匹の子豚ってやつじゃないかな」
ぼくらの眼前にさっきとはまた別の星が見えてきた。……と「はてな?」の小型ロケットはぼくらを乱暴に振り落とした。どさりと音を立てて落ちた先は……なんだか柔らかい。おまけにピンク色とも肌色とも表現しうる色を帯びている。ぼくらは直感した。
「豚の背中だ」
「巨大な豚だ」
「上を見て! あそこにもピンクの……」
「豚が浮かんでいる」
それは豚の三連星なのか、宇宙を放浪する豚の兄弟なのかはわからない。なんにしても今、ぼくらは三匹の子豚ならぬ三匹の巨大豚のうちの一匹の背中にいるらしいのだ。ぼくは頭の中の神さまの地図を見る。
「早くここから離れろ! 神さまの地図によれば到着後、三分で豚が爆発すると書いてあるぞ」
直後、三匹の豚は針で突かれた風船のように炸裂し、破片となって飛び散るものは無数の子豚となって宇宙に発散した。新たな生命が、小さくて可愛らしい命たちが、みよちゃんの夢宇宙に誕生したのだ。
「みよちゃんは三匹の子豚の続編を考えたのかな」
「そうかもしれない。三匹の子豚に子どもができる話だね」
「……あれ? 見てみろ。豚の子どもたちが集まって道を作りはじめたよ」
「神さまの地図にはその道を歩めばゴールに到着すると書いてある」
「豚の道か。神さまはぼくらのことを豚のように考えているのかな」
「そうでもあるまい。ちょっとした冗談だろうさ」
「悪い冗談だなあ」
実際、悪い冗談だ。みよちゃんの夢をちょっとのぞいてみようと思ったところから、この悪い冗談ははじまったのだ。ついにはこんな、宇宙空間に作られた豚の道を歩く羽目となった。いたずら半分の心根がとんだ災難を招いたのだ。
「みよちゃん、怒っているのかもしれないよ」
「そうだね、神さまの地図にも、次は地球の門番に会い、みよちゃんへの謝罪の言葉を述べるべし、それが夢から解放される合い言葉となる、と書いてあるよ」
「地球の門番か。どんなやつだろうね」
「意外と地獄の閻魔大王みたいに、すごく怖い人なのかも」
「それは嫌だなあ」
「あ、見て。何かが見えてきたよ。その近くに浮かんでいるのは……あれは月じゃないか? ひょっとして地球に戻れたんじゃないのか」
「案外、早く着いたなあ」
「門があるよ。でも……誰もいない」
「いや違う。門自体が生きているんじゃないのか」
「きみが話すかい」
「いや、二人で一緒に、声をそろえて話そうよ」
「よし来た。……えー、このたびはみよちゃんの夢を踏み荒らし……」
と、門が言葉を発した。
「みよちゃんは今、不快な眠りに落ちておられーるっ」
「……はっ、まったく申し訳ない次第で」
「先ほど、彼女は決意した。うぬらを永遠に抹殺すーるっ」
「えっ」
その瞬間、二人だったぼくらは一人になっていた。
「この世界にはうぬらタツマ喜六は合わせて十七人いたのであーるっ、それらを一人にまとめたのであーるっ、これはみよちゃんの思し召しなれば彼女の深い慈悲によくよく感謝し、今後、二度と彼女の夢を蹂躙することのないよう、肝に銘ずるべーしっ、以上であーるっ、では、タツマ喜六よ、夢から覚めよっ」




