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夢融合炉はQ大学構内にある。別に何かの施設と違って、放射線をばらまくとか、汚染水をまき散らすわけではないので、夢野博士の監督の下、Q大学の敷地内に建造されたのだ。その夢融合炉前まで、ぼくはここが夢世界であることを利して空を飛んだり、色々と現実世界では考えられないズルをしてたどり着いた。夢とは便利な世界なのだ。
しかしその一方で夢は恐ろしい牙をむくときもある。悪夢がそれだ。時の首相・夢山総理は悪夢を訪問していたというが、ここがその悪夢ではないことを祈るばかりだ。なぜなら夢新聞の「タツマ喜六さん死去」という記事は悪夢のはじまりを告げている気がするからだ。ぼくはすでに夢野博士から教えられていた手順に則って夢融合炉の操作を開始した。
まずは炉の本格始動、そして夢山首相に会って悪夢についての話をうかがい、それらを踏まえた上でぼくの死亡なんていう、馬鹿げた事態を阻止するのだ。気づけばぼくは夢新聞に書かれていたことをすべて実行に移そうとしていた。ぼくの死亡という記事を除いて……
夢融合炉を本格始動するには夢野博士が所持しているエンジンキーが必要だった。ぼくに知らされていたやり方では炉の試運転しかできなかったのだ。ぼくは夢野博士の所在を求めて夢世界をさまよいはじめた。
「……もう、彼女はいるわけがないけれど……それにまだ朝の四時前だ。彼女が深夜営業の飲食店で働いているとは思えないけれど」
わずかな期待を胸にぼくが向かったのはQ大学からほど近いところにある、あのハンバーガーショップ……深夜バイトで彼女が働いているかもしれないと思ってのことだった。
「いらっしゃいませ」
その声はしかし彼女のものではなかった。当たり前だと思いつつコッテリバーガーセットを注文する。
「ドリンクはホットココアで」
レジの女性が復唱する声を聞きながら、ぼくの耳は幻のように彼女の言葉を思い出していた。
――どうしてわかったんです、わたしの名前。
そうだ、この女性の名前ももしかしたら……
「あなた、ひょっとしてみよちゃんッていう名前じゃありませんか」
「……違います」
変な男だと思われただろう。夢の中とはいえども恥ずかしい気持ちがこみ上げてきて、さっさと二階の座席まで移動した。
「こんなことをしている場合じゃないぞ。早く夢野博士に会わなくっちゃ」
いつも家族から指摘されているすごい速さで、コッテリバーガーとポテトをむしゃむしゃと食べ終わると、しまいはホットココアをこれまた喉を焼きそうになるほどのスピードで飲み干した。
「夢野博士はどこにいるのだろう」
博士はよく、研究室で寝泊まりしている。ぼくはQ大学に戻ると夢科学研究室のドアをノックした。




