第11話 夏休みが近づいてくる時のワクワク感は異常
夏の日差しを窓際で浴びる中、教室中がざわついている。夏休み2日前だ。この空気久々だな。40日以上の休みとか最高だもの。無職のプーになれば毎日が日曜日だけどな、金入んねえけどよ。楽しそうに見えるだろ?無職は辛いよ。経験したからな。1ヶ月間だけだけど。
「新しい水着買おうかな。」
「プールとか海行きたいよね!」
「学校終わったら見に行こうよ!」
女子達がキャッキャと話している。海か、前世でバイクで海沿いの道路をかっ飛ばしたのが懐かしい。カタログを取り出し、何かしら指をさして見ている。気に入ったやつとかあるんだろう。これがいいとかデザインが〜とかそんな感じの話をしてる。
「久川は何かする予定あるのか?」
「あー特にないな。部活の役割当番で木曜に水やりとか雑草の除去とかあるけど。短期バイトでも探してるんだけどなー。」
「園芸部って大変なんだね〜。まぁアタシもバイトあるけどさ。月火土だけどね。」
「休みとって俺たちも出かけないか?バイト代出すからバーベキューとかやりたいしね。」
バーベキューをやりたい。平賀の提案に島村の顔が緩む。来たいんだろうなバーベキュー食いたいんだろうな。
「バーベキューもいいけどアタシは海に行きたいなー!夏やすみだしね!プールでもいいけど海の方がいいよね。」
「あー、ならネットで調べて日帰りできるオートキャンプ場調べるか?海水浴場が目の前にあるオートキャンプ場があった気がするんだよ。」
スマホを取り出して検索する。隣の県で車で3時間か。
「やっぱあった。しかしどうするよ?水着とかだけならいいが、バーベキュー用品とかあると電車じゃ迷惑かかるぞ?」
「うーん、車で行ければいいけど。姉さんに相談してみようか?」
「姉さんいるのか。」
姉がいるとなれば多少は安心だ。車じゃないと荷物的な意味で大変だからな。あと2年経てば免許を取れるが、今はとった時でも原チャリとバイクだけだ。車に乗せてもらうだけでもありがたい。
「ああ、確認してみるよ。」
「よかったー!いついくか予定決めようよ!」
「だな、部活の方も他の人に頼めばなんとかなるだろ。俺が代わりの日に行けばいいし。」
「了解。んじゃうまく調整するか。」
平賀と島村が頷き、夏休みの予定を立てることにする。
「私もいいかしら?」
「勿論、一ノ瀬さんなら歓迎だよ。」
「僕と早坂さんもいいかな?」
「うん!みんなで行こうよ!」
やっぱりいつものメンバーになるか。バイトとか部活とか、みんな忙しいけど、夏休みにこうやって集まって遊ぶなんて、前世じゃありえなかったから楽しみだ。
「それじゃあ、明日終業式終わったらみんなでショッピングモールモールに行こうよ!」
「いいですね…。何を買うのですか?」
「勿論水着だよ!新しいの欲しいし!」
「み…水着ですか!?」
早坂の顔が赤くなる。
「あら、海に行くのよ?」
「そ、その…小学生の頃しか海水浴は行ったことないので…それに…泳げないから恥ずかしいというか…」
顔を手で覆い本気で困惑している。耳まで真っ赤になり、口もモゴモゴしている。
「恥ずかしがることないわよ、みんなで楽しみましょ?」
「私が早坂っちに似合う水着を見つけるからさ!ね、いいでしょ?」
「は、はい…。」
「僕も新しいの買おうかな。だいぶ古くなってるし」
「俺もだな。それじゃ明日行こうぜ。」
いつものメンバーが互いに顔を見合わせ頷く。んじゃ明日はたのしむか。買い物をね。女子側が長くなりそうだけど。
翌日、ハゲ頭の校長のありがたく無駄な演説を聞き終えて、教室に入り担任が問題を起こさないように。と伝える。
俺?体育館で校長の無駄に長い演説は爆睡して聞いてませんでした。興味ないもの。
ショッピングモールに行くため、自転車通学の俺と早坂はこの日は駅からバスに乗ってきていた。いつものメンバーとバスに乗り、雑談しながら向かう。
バスを降り、水着売り場に向かう。
「アタシこれにしよっかなー、あ!このデザインと色もいいかも!」
「私はこれにしようかしら。黒が好きだから。」
島村が水着を手に取り、一ノ瀬は顎に手を当てて考えている。
「…よ、よくわからないです‥」
「大丈夫大丈夫!アタシに任せてよ!昨日も言ったじゃん!似合うの選んであげるよ!」
早坂の手を優しく握って、早坂に似合うやつを選んでいる。
「おう平賀。お前これなんてどうだ?」
ふざけてブーメランタイプのを指差す。柊が吹き出し、平賀が固まる。
「アホか!こんなの着れるかよ!?絶対買わないからな!」
「馬鹿な、俺のセンスを侮辱するか貴様!」
「俺は自分で選ぶわドアホ!」
俺と平賀が罵り合うが、柊は笑いながら選んでいる。
「僕はこれにしよ。オレンジ色の。」
柊は無難にサーフパンツタイプのを選んでいる。俺もそうする。つか俺もそのタイプがいい。
「何サーフパンツ選んでんだ久川、お前がブーメランタイプ買えよ!!」
「くたばれドアホが!」
「うるせえ数学30点!」
「何をやってるのあなた達‥」
一ノ瀬が呆れながらため息をつく。あれ、もう選んだのか?
「あれ、もう選んだの?」
「まだよ、色々あるから悩んでるのよ。それに…あの2人が楽しそうでね、眺めることにしたの。可愛らしくて。」
一ノ瀬が島村達を見る。早坂に島村が本気で似合う水着をコーディネートしている。顔は笑いながらも真剣だ。あいつすげえ、変わりすぎだろ。
「歳の近い姉妹みたいよね。私も選んであげようと思ったけど大丈夫そうだし、早坂さんも楽しんでる。私も島村さんに選んでもらおうかしら?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる。まるで長女が妹達を揶揄う感じの、だがちょっと遊び心のある笑みだ。
「いいんじゃねえか?あいつオシャレに詳しいしな。」
「私も自信あるわよ。…まぁ島村さんには劣るけどね。じゃ、私も混ざってくるわね。」
一ノ瀬が立ち上がり、売り場に向かい、俺は椅子に座りながら3人の会話を眺める。島村が冗談で派手なデザインの水着を見せて早坂が顔を真っ赤にして大袈裟に手を振って拒否している。一ノ瀬は面白さに微笑み、ほかの水着を選んであげている。
「なあ柊、俺もお前にファッション教えてあげようか?似合う服装教えてあげるよ。」
「え、いいの?」
「ああ、あの2人をみてるとちょっとな。言い方悪いけど教えたくなってきてよ。」
平賀が柊を誘う。見た目からしてオシャレに気を遣ってそうだもんなお前。私服がポロシャツジーンズの俺と違ってよ。そりゃモテるよ。
しかしまぁ男はすぐ終わるが女子のショッピングは長いな。
「久川、お前は?」
「んじゃ俺も行くか。島村、俺たちは服見に行くわ。」
「わかったー!」
男3人で服売り場に向かう。さて、どんな服を選びますかね。
「あ、これいいかな?」
「いいねー。これに黒色のズボンとか似合うと思う。」
「めっちゃ似合ってんなぁおい!」
柊が照れながら試着する。ライトブルーのショートスリーブポロシャツ、白のカーディガン、薄灰色のクロップドパンツ。中性的な見た目にフィットした見事なセンスだ。すげえな平賀。
「これだったら街中歩いても恥ずかしくないよ。よし、次はお前だ久川。お前のいつもの地味な服装を変えてやる」
「ふっ、もう決めてあるぞ。」
グリーンのハーフパンツと黒のポロシャツを取り出す。
「これで充分だ。」
「またまぁシンプルだなお前!?」
「シンプルでいいんだよ。ダサくもなく、カッコ良くもない、無難なのがいいんだよ。」
冬だったら革ジャン着るんだけどなぁ。夏にあんなの来たら死んじまうよ。
「そうかな?久川君に似合う服装あると思うよ?」
「ああ。シンプルなのもいいけど、なんかこう、カッコつけたいと思わなのか?なんかこう、一手間加えようぜ?」
「ない。そんなつもりは全くない。」
「ないんかい。」
「まぁなんだ。俺はお前らみたいに顔が整ってるわけじゃないからよ。」
柊がそんなことないよ。という表情で見てくる。本当に優しいんだなお前は。だけどな、俺はそれでいいんだよ。昔色々あったからな。
「そんなことないのに…。」
「いいんだよ。それに、まあ昔色々あったんだよ。」
「そうか、悪かったな久川、気にしてることだったのか…ごめんな。」
「いいって事よ。」
ま、気にしてクヨクヨしたところで始まるわけじゃない。
「んじゃ服買ってあいつらのところ行くか。もう終わってんだろ流石に。」
「そうだね。一ノ瀬さん達の方に行こう。」
レジに向かい服を買う。…あいつら流石に終わってるよな?
一ノ瀬達の元に向かう。マジか、まだ終わってねえよ。
「柊、あいつらすげえな。」
「ほ、ほら、女性って買い物は長いっていうから。…ね?」
「何を選んでるんだ?」
3人で顔を見合わせる。水着コーナーじゃないところにいるが。
「あっ、ごめんごめん!早坂さんに似合う服を選んでてね。待たせちゃってる?」
「いや、大丈夫だ。」
「待たせてごめんなさい。私と島村さんで選んであげてるの。彼女、控えめだからソフトカジュアルが似合ってるのよ。今レジに行ってるわ。」
試着した姿の写真を見せてもらう。なるほどね、薄手のブラウス(コットンピンク)とボトムス(淡いベージュ)薄手のカーディガン(ラベンダー)か。間違いなく似合うな。
「俺はいいと思うが‥平賀、お前はどう思う?」
「いいと思うぞ。早坂さんは派手なタイプじゃなくて控えめな方が似合ってるからな。」
「うん、すっごく可愛いよ。早坂さんの柔らかい雰囲気が合ってるよ!」
いや大したもんだ。恐らくだが、島村は可愛らしさを、一ノ瀬は早坂の雰囲気に合わせた清楚さを2人で話し合いうまく融合させたのだろう。
「す、すいません…終わりました。」
「お疲れさん、だいぶ買ったね。」
「…はい…島村さんに私服を買いたいと伝えたら一ノ瀬さんと選んでくれたんです‥」
「夏休みだからさ、やっぱ可愛い格好でいたいじゃん!」
「…そ、その、ありがとうございます…。」
おー早坂さんの顔真っ赤だよ。俺からみても良いと思うんだけどなぁ。早坂がスマホを取り出す。
「…あ、すいません。お母さんからで…。夕飯はどうするのかと…」
「俺は食ってくけど…どうする?」
「私は連絡とってみるわ。」
柊達も頷き確認する。OKの返信が来たようだ。
「みんな大丈夫だって。」
「海楽しみだね!再来週だよね?」
「ああ。予定合わせなきゃいけないからね。そういや久川、バイト探してるって言ってたけどどうなんだ?」
「あー楽なの探しててよ、レジ打ちやりたくねえから品出し探してるけど見つからねえから適当なスーパー受けるわ。…ん?」
瀬戸口先輩からだ。
『アルバイト探してるなら家でバイトしてみない?僕の家、花屋をやっててさ、花の管理とかだけど。お客さんもいい人だよ。』
「どうしました…?」
「瀬戸口先輩から。実家が花屋らしくて、バイトしてみないかだって。」
「私もいいですか…?」
早坂が意外な反応をしてくる。あれ?親が厳しいんじゃないのか?流石にみんなが驚いている。
「え?早坂さん、親厳しいんだろ?いいのか?」
「その…お恥ずかしいですけど、皆さんと話すようになって…。学校のことを話したら親が謝ってきたんです。『今までごめんね。』って、勉強はしますけど…、やりたい事をやらせてくれるようになったんです。」
「良かったじゃん!ゲームとか漫画とかも?」
「やりすぎはだめですけど、許可してくれました…。成績は下げないようにと釘は刺されましたけどね。」
「あら、私が次1位とったらどうしましょ?」
「負けませんよ、一ノ瀬さん。」
一ノ瀬の軽口に珍しくジョークを叩き、少し赤くなりながら微笑んでいる。まぁ話を聞く限りは悪い親って感じではなさそうだったからな。そこで気づけるなら大したもんだよ。教育虐待してるクソッタレは自分の過ちに気づけないからな。つか小遣いをあんなにくれるだけでもいいと思うよ。うん。前世の俺、小遣い月二千円だったんだぞ。高校入ったらバイト速攻探したわ。
「そうか、良かったな早坂さん。俺から先輩に伝えとくよ。」
「ありがとうございます…。その…お互い頑張りましょう、久川君。」
「ああ。よろしくな。」
瀬戸口先輩に返信する。『もちろん大丈夫』と返ってきて、明後日からやることになった。一応明日は部活だからその後面接もどきをする感じだけど。アルバイトが見つかって良かったぜ。
「作業着も買うか?」
「フフッ…それは大丈夫ですよ…。」
苦笑いしながら否定することかー!…いや、うん。早坂の作業着姿は違和感しかねえ。
「何言ってるのよまったく。」
「ハハっ、相変わらず馬鹿なこと言うなお前。」
「花屋で作業着って、相変わらず面白い事を言うね久川は!」
「けど見てみたいかも、早坂さんの作業着姿!」
柊、お前まじ天使だよ。それに誰が馬鹿だ。アホといえアホと。
「言われすぎて泣くぞこの野郎!まぁいいや、明日面接ね。頑張りますか。」
これからは2〜3日に1話ずつ投稿になります。よろしくお願いします。




