第10話 部活ってなんだかんだ楽しい。
入部届を出し、瀬戸口先輩に案内される。校舎の端にあるプレハブ小屋の部室に行き、部長が鍵を開けて入る。
部室内には植物関係の本があり流石の俺も興味が出る。俺は汚れてもいいように昨日帰宅したあとあるものを買いに行き、紙袋に入れており、机の上に置く。
「すげえな‥いろんな本がありますね。」
「色んな花を育てたいからね、勉強のために先輩達がおいてってくれたんだよ。」
大したもんだ。後輩思いの先輩しかいないって事は本当にいい部活なんだろうな。これは園芸用のスコップとか栄養剤か。
「いい部活ですね。楽しそうじゃないですか。」
「うん、楽しくやるのがいいし、綺麗な花を育てたい。文化祭の展示も少しは多めにしたいんだ。」
「いいっすね。んじゃ俺も気合い入れますか。」
いい先輩なら後輩の俺もしっかりやらないとな。瀬戸口先輩と話していると部員が入ってくる。
「こんにちわーっす。部長、あれ、新入生すか?」
「新入生が入って良かったですね!」
「あ、久川亮介です。よろしくお願いします。」
「俺は清水大地、よろしくな!」
「私は平本舞。よろしくお願いするわね?」
清水先輩は茶髪で活発そうな雰囲気で、平本先輩は穏やかそうで、水色のハーフアップの髪型のお淑やかな感じだ。優しそうな先輩でよかった。めんどくさいタイプはとことんめんどくさいからな。細かい事を気にするやつとか他人のミスを指摘してくるバカとか。
「遅れてすいません!あ…えーと君は…?」
「俺は久川亮介、同じ1年だ。今日から入部したんだよ。」
「僕は中村悠馬、よかった…1年生僕だけだったからさ、よろしく。」
1年生も入ってくる。柊とはまた違った中性的な大人しめのベージュ色の髪だ。あー1年生1人だったから同級生がいると安心するの気持ちわかるわ。俺前世であったからなその経験。
数分後、早坂と園山先輩が入ってきて全員簡単な自己紹介をする。
3年生の2人はライフデザインで、2年の清水先輩は総合進学科、平本先輩は美術科、1年の中村も美術科らしい。
「それじゃ、挨拶も済んだからやる事を教えるよ。ジャージに着替えてね。」
「了解っす。」
女子と男子に分かれて着替えてくる。俺が紙袋から『服』を取り出すと3人の目が丸くなる。
「え、えと‥久川君?」
「ジャージでいいんだよ?」
「いやいや、汚れるのを考えるとこれっすよ。便利なんすよコレ。」
そう、作業着に着替えるのだ。しかも工業用で綿100%のな!おい中村ァ!なんで目が丸くなってんだ!?
「え…それ作業着だよね!?なんで作業着に着替えてるの!?」
「ん?ポケット多い、破れにくい、動きやすい、汚れも気にする必要がない、コスパもいい、最高の服じゃないか!」
さらに頭にタオルを巻き、私物で買ってきたラテックスの手袋の上に軍手をする。完璧だ。これならトゲ対策も汚れ対策もバッチリ!
「う、うん?本当に1年生かな…?服装が完全に現場に慣れてる人だよ?」
「どう見ても手袋以外は土木作業の人だこの人!?」
「まぁいいじゃないですか!」
慣れてるんだよこの格好。作業着って良いのよ?マジで。
「ま、まぁいいけど…。顧問の先生が外で待ってるから行こうか…?」
「う、うん行きましょう。て言うかあの1年生雰囲気が高校生じゃないですよ!」
「同級生とは思えないよ!!」
いやまぁ前世は31歳だから否定できないのが悔しい。口笛を吹きながらドアを開けて、少し離れた花壇に向かう。流石に暑いから腕を捲り、シャベルを肩に担ぎ、先輩と中村は小さいシャベルを持つ。
結構大きめの花壇のある場所につくと先に女子達が待っており、若い女性の顧問の先生、おそらく他の学科だろう、初めて見る穏やかそうな人だ。銀髪で、緩やかそうな感じの明らかに男子に人気が出るタイプ。
そして女子達と顧問も目を丸くしている。
「久川君‥その格好は‥?」
「作業着?なんで作業着!?ジャージでいいのに!」
「き、君…?何その服装‥。」
「変すか?」
「違和感丸出しよ。」
女性陣からもつっこまれる。別にいいじゃない。利便性重視なの利便性。
「ま、まぁいいかな。私は顧問の緑川桜。久川君、早坂さん、よろしくね?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします…。」
「それじゃ、今日やること教えるよ。とりあえず雑草抜きからかな。」
瀬戸口先輩が指示を出してくる。野球部がボールを打つ音や陸上部の走っている音を背景に5箇所ある花壇の雑草を抜いていく。
「普通に膝つくんだね。汚れ気にしないの?」
「え?ああ、俺は気にしないっすよ。しゃがむと足痛くなるんで。」
「そこは慣れだよ〜、私は気にしちゃうな〜」
ほんとまぁ緩い喋り方するな園山先輩。可愛いな。
しかし意外ときついな。この体勢でずっと雑草引っこ抜くのか。
「ちょっと‥腰が痛いですね…」
「ええ、だけど大切なことなの。早坂さん、なんでこの作業をするのかわかる?」
「外観を整えるのと雑草の繁殖を抑えるため…でしょうか?」
「そうね。あと栄養も奪ってしまうからよ。花の成長を妨げるから、地道だけど大切なことなの。」
「それにね、病害虫の予防もあるんだよ〜。雑草にも病原菌やウイルスがあるからしっかりと除去しなきゃいけないんだ〜」
夏の日差しの中汗をかきながら引っこ抜いていく。昨日も抜いててまた伸びてるのすげえな。早坂は真剣に雑草を抜いていき、平本先輩が優しく教え、早坂はメモを取る。真面目ゆえだろう。
「久川君はなんで園芸部に入ったの?」
「あー、昨日いろんな部活を友人達と見学してたら偶然前を通りかかってね、せっかくだし。」
「へぇ〜入ってくれてよかったよ。そういや趣味とかあるの?」
趣味の話か、流石に女子がいるから下品なことは言えん。無難な趣味を言う事にする。前世じゃ競艇とか行ってたが流石に言えない。怒られるわ確実に。
「そうっすね、漫画、プラモとかゲームっすね。」
「へぇ〜プラモは何を組み立てるの?」
「戦車とか戦闘機、ロボットアニメの奴だな」
「お、僕も組み立ててるよ。ミリタリー好きだからさ。」
気が合うな。かっこいいもんなミリタリー系。いやしかし腰痛い。雑草抜くの大変だなこりゃ。
「今野菜って何育ててるんすか?」
「秋のために小松菜とほうれん草、人参、大根を、冬のためにキャベツを植えてるよ。あともう一つ忘れてたよ。秋の収穫のためにじゃがいももあるね。」
「めっちゃ本格的やないですか。売るんすか?」
売れたらちょっとは金儲けできるんじゃね?とふざけたことを思う。すると緑川先生が微笑みながら手を振って否定する。
「売らないわよ。部員のみんなに配るから。私は去年教師にになったばかりだけど、園芸には自信があるの。ここの実りはいいわよ?」
「マジすか。」
「ええ、先任の顧問が退職してね?私が後釜についたの。園芸は趣味でもやってるからいいけどね。趣味が仕事になるから良かったわ?」
「趣味を仕事に…ね。」
緑川先生が柔らかい笑みを浮かべ、雑草を引っこ抜きながら教えてくれる。趣味を仕事にか。羨ましい、前の世界じゃ何もかも上手くいかなかったからな。
「久川君、私の顔に何かついてる?」
「いえ‥何でもないっす…。」
羨ましいよ。勉強をしないで遊んでばっかの人間にはできねえよそんなこと。前の世界での失敗はしたくない。いじめられて、友達なんてあまり出来なくて、卒業した後もクソみてえな会社で働いて、安月給で全然貯金なんて貯まらねえ、独身になって、何のために生きてるのかわからない、そんな人生だったからな。
「久川君…?どうしました…?」
「大丈夫かい?」
「大丈夫っすよ。」
あんたらが羨ましいだけだ。俺は何度も人生やり直したいって思ってたからな。
くだらないことを考えながら、前世を思い出しながら額の汗を拭きながら作業する。冷たい缶コーヒー飲みてえ。
「雑草抜き終わったから次は水やりだね。久川君と早坂さんは僕と園山さんについてきて、畑の作業を教えるから。」
「何をやるんですか…?」
「追肥だね〜。肥料を撒いてくよ〜。」
園山先輩が肥料を持つと、「やりすぎないでね〜」と言いながらバランス良く撒いていく。3人の先輩は高圧の水スプレーを使ったりピンセットやテープで虫を駆除している。
「あげすぎると良くないんすか?」
「枯れちゃいます…。久川くん、あげすぎると根が焼けるんですよ‥」
「早坂さんのいうとおりだね。あげすぎると根が焼けて水分を吸えなくなるし、葉ばかり育って実や根が育たなくなるんだよ。」
人間で言う食い過ぎは良くないみたいなものか。しかしなんかこう…餌やってるみてえだ。
俺と早坂の2人で撒き終わると園山先輩が桑を手に持つ。
「次は中耕だよ〜。よく見ててね〜」
野菜の間を桑で耕していく。肥料が土の中に入り、小さい雑草も引き抜けていく。成程、作業を一つにまとめるのか。
「小さい雑草はこれで根を切れるし引き抜けるんだ。空気や水の通りも良くなるからね。」
慣れた手つきで耕す。俺と早坂も実践するがなかなか難しい。結構過重労働だ。早坂が辛そうにしている。
「早坂さん、大丈夫か?」
「は、はい…大丈夫です…。」
「無理するなよ、俺1人でもやれるから。熱中症は洒落にならないから無理せずにな。」
炎天下の中だ。流石に水飲まないとやってられないぞこれ。工場だって休ませるわ。俺が水筒のお茶を飲む。
瀬戸口先輩が早坂をみて緑川先生と話し合う。
「みんな休憩しましょ。日陰でゆっくりしてね?」
「んじゃ俺飲み物買ってきますよ。袋貸してください。」
「ありがとう。買ってきて欲しい人いる?」
瀬戸口先輩が部員達に声をかけてお金を受け取る。少し離れた自販機に向かい、頼まれた飲み物を買う。
「えーと、コーラ2本にサイダーに‥」
メモを読みながら押していく。服装が服装のため明らかに目立っているな。通りすがりの奴や周りの生徒が指を指してくる。
教師ですら業者呼んでたっけ?とか言ってるぞ。1人の生徒が声をかけてきた。
「あ、あの…職員室に用がありますか‥?」
「ん?いや俺生徒だけど。部活の休憩で飲みもん買いにきてるだけだぞ?」
「「「「「えぇ〜!!!??」」」」」
なんで驚くんだよ!1人で作業着着て学校にくる業者なんているわけないだろ、一人親方じゃなんだぞ!?
「どこの部活だ?」
「園芸部っすけど。」
「緑川先生は許可してくれたのか…?」
「ええ、まぁいいか。みたいな感じでしたけど。」
「そ、そうか。行っていいぞ。」
あ、はい。とりあえず教師に頭を下げ戻る。まだ生徒たちが指差してきやがる。中には俺のこと「本当に1年生?」とまで言ってきやがった。待てや!本当に1年生だっつの!
「全く、なんて失礼な!俺はおっさんか!」
「おっさんよ。その見た目確実に学生じゃないわよ。」
「うん、学生には見えないよね〜。」
酷い。遺憾の意を示すぞ。内心でぼやきながら日陰の下で飲み物を飲む。野球ボールを打つ音が心地よく、風が汗にあたり冷たく感じる。冷たい缶コーヒーを飲みながら運動部の活動を見る。
「私から見てもその格好は完全に土方のお兄さんよ。ところでどう?園芸は楽しいかしら?」
緑川先生がニヤつきながら俺を見てサイダーを開ける。
「はい、楽しいっすよ。虫とか酷いから虫除け後で買ってきますわ。」
「あら。それは部室にあるわよ。みんなつけてこなかったの?」
「すいません、新部員の事に夢中になって忘れてました。」
瀬戸口先輩が頭を掻いて謝ってくる。忘れてたんすか、2箇所蚊に刺されましたよ、痒いよ。
「すいません…痒み止めもありますか…?」
「あるわよ、今日はここまでにしようかしら、早坂さん疲れてるものね。」
「それじゃ部室に戻ろうか。久川君、早坂さん、うちの活動はこんな感じだからね。」
部室に戻り制服に着替える。すげぇ汚れ。まぁ作業着なんて汚れてなんぼだけどな。畳むのが面倒くさいのでそのまま袋に放り込む。
「お疲れ様ー」
「「「お疲れ様でしたー。」」」
さて帰ろう。部長が部室の鍵を閉め、蝉の鳴き声が響く中、俺と早坂、中村の3人で駐輪場に向かう。
「大丈夫か?少し熱中症になってるんじゃないか?」
「いえ…大丈夫です…体を動かしたの久々なので‥」
「無理しないで大丈夫だよ?保健室に行こうか?」
中村も心配しているようだ。保健室に行き、俺がスポドリを買ってきて、渡すとちびちびとのむ。どうやら作業に夢中になりすぎて水分補給を忘れていたそうだ。
10分くらい休み、早坂もそれなりに回復して校門までチャリンコを押す。
そろそろ夏休みか…何か予定立てないとな。夕焼けの空を見ながら、何をやるかを考え、中村と早坂に手を振り、駅に向かう。あー腹減った。飯食いてえ。




