第2話 シャルロッテという娘
アイラの手を引くシャルロッテ。
その歩みはまさしく頼れるお姉さん!
……かと思いきや、おやおや? 様子が変だぞ?
そうですこれが、シャルロッテという娘――
二人は石壁の廊下をずんずんと進んだ。
進むに進んだが、どこまで行っても現れるのは教室ばかりだ。教員がいるらしい部屋は出てこない。よくよく考えてみれば、ここは教室棟という名前の建物である。
おやおや、とアイラが不審に思ったころ、シャルロッテはおもむろに立ち止まって振り返った。
「ところでその、ダズリン先生ってのはどこにいるんだ?」
シャルロッテとはこういう娘である。
アイラは呆れた――呆れたが、一方ではそんなことだろうという察しもついていた。
「……ありがと、シャル。そんな気はしてたよ……」
アイラは肩を落として息を吐きながらも、どこか晴れやかな顔に戻りつつあった。シャルロッテのこうした前のめりな動きは、的を射ないことはままあっても、いつだってアイラを不安から引っ張り上げてくれるものであった。
「お、やっと笑ったなーアイラ。その方が可愛いぞ!」
シャルロッテは握っていた手を離すと、指でむにむにとアイラの頬をつついた。
「もう、冗談はいいの!」
頬を膨らませてその指を払いのけると、アイラは真面目な顔で考えを述べた。
「たぶん、先生たちの部屋は研究室棟だよ。前にレオ――じゃなくて、マルケルス先生が言ってた気がする」
このときアイラが名前を言い直したのは、彼女たちがこの教員と親交のあることが学院内で露わにならないようにとの配慮あってのことだったが――
「うんうん、レオちゃんが言うなら間違いないね」
シャルロッテはまるで怖いもの無しであった。アイラは思わずあたりを見回したが、幸い周囲に人の影はない。
アイラはそんなシャルロッテに気後れしないではなかったが、すぐに気を取り直して、今度は自分からシャルロッテに向かって言った。
「シャル、一緒に行ってくれる?」
「あったりまえだろー? あたしを置いてこうったってそうはいかないよ」
シャルロッテは歯を見せて笑いながら、握り拳を差し出した。アイラもはにかみながら、それに拳で触れる。
「へへ、ありがと!」
二人はすぐに踵を返すと、今度はアイラが前になって廊下を戻った。昇降口から外へと出ると、通路の向かいにある研究室棟を目指していく。
*****
彼女たちが初めて出会ったのは、実はつい一週間ほど前、アイラがここ王都へと上京した日の夜のことである。
アイラの他に新しく入る者のいない古ぼけた学生寮で、唯一先住していた一つ年上の少女が、このシャルロッテだった。
しかしシャルロッテは、現在アイラと同じく〈レブストル〉王立魔法学術院の第一学年に所属している。
それでは歳の計算が合わないか、というとそういうわけでもない。
つまり彼女は、元気いっぱいの留年生なのである。
これが実に二回目の一年生なのだが、一方で彼女は長い間不登校を貫いていたため、学院についてしっかりと覚えていることは、そう多くはない。
そんなシャルロッテがここまで陽気でいられるのは、ひとえにこのアイラという、全く弱気で涙もろく頼りなさげな少女の働きであった。
彼女は出会ってからわずか数日の間に、シャルロッテの抱える問題を解消するために労をいとわず奔走した。結局、彼女たちだけで解決できたわけではないが、その働きが二人の間の信頼と親愛をより深く結び、シャルロッテの本来の性情を日の下に現わさしめたのである。(この事件の詳細については、こことは別に語るところである。)
ともあれ、己の大きな支えとなってくれたアイラが夢に向かって頑張ろうというのだから、自分もまたその隣に居並んで、なにがなんでもアイラとともにここを卒業しようと、シャルロッテは心に決めたのである。
そうしたわけで、二人が今後病めるときも健やかなるときも、そして単位ヤバきときも、アイラに対して「あたしがいるぜ☆」という態度だけは崩さない。
それだけは彼女の中で確かなことになった。
シャルロッテとは、そういう娘である。
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