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5 雨上がりの夕焼けの帰り道。

 雨上がりの夕焼けの帰り道。


 図書館の帰りに、天寿は新樹くんと一緒に歩いて帰った。

 時刻は夕方で、図書館を出るときには、朝からずっと降っていた雨は上がっていた。(道の上には、ところどころに水たまりがあった)

 まるで世界を綺麗に洗濯をしたみたいだと天寿は思った。

 見える風景は、その全部がとても綺麗な橙色に染まっている。

 ……、いつもと同じ道。いつもと同じ風景のはずなのに、なんだかいつもとは違うところを歩いてるみたいな、そんな不思議な感じがした。

 新樹くんと一緒に歩きながら、そんなことを天寿は思う。

「ずっと降っていたけど、雨。やんだね」と夕焼けの空を見て、新樹くんは言った。

「うん。そうだね。よかった」と畳んだままの赤い傘を持ちながら、天寿は言った。

 天寿はずっとどきどきしていた。

 ずっと新樹くんに言いたいことがあった。

 でも、ずっということができないままでいた。

 それから、少し歩いて、やがて、二人は広い交差点にでた。

 そこで、二人の帰り道は別々の道になった。

「じゃあ。ここで」と新樹くんは天寿を見て言った。

「うん。さようなら」と小さく笑って、天寿は言った。

 新樹くんは天寿とは反対の道を歩き始める。

 だんだんと、新樹くんとの距離が遠くなっていった。

 きっとまた図書館で偶然、会えると思うけど、天寿は新樹くんとまた会う約束をしてはいなかった。

「あ、あの!」と天寿は新樹くんの紅茶色のコートを着ている背中を見て、言った。

 天寿の大きな声を聞いて、新樹くんはびっくりして、足をとめて、それからゆっくりと振り返って、天寿を見た。

 そのとき、きっと天寿はとても不安そうな顔をしていたのだと思う。

 新樹くんはゆっくりと歩いて、天寿のすぐ目の前まで、戻ってきてくれた。

「どうかしたの? 天寿。なにか忘れもの?」と新樹くんは笑顔で言った。

「あの、新樹くん。私と、……、お友達になりませんか?」と(新樹くんの笑顔を見て、気持ちを落ち着かせてから)天寿は言った。

 その天寿の言葉を聞いて、新樹くんは、きょとんとした顔をして、天寿を見た。

「だめ、ですか?」

 と、顔をもう半分くらい沈んでいる、(まるで顔を半分だけ隠しているみたいな)大きな夕日よりも真っ赤にしながら天寿は(勇気を出して、もう一度)言った。

 どうしてだろう?

 なんだか天寿は今にも泣いてしまいそうな気持ちになった。

 すると、新樹くんは、また(天寿を励ますようにして)にっこりと笑った。

「僕はこの街に引っ越してきたばかりで、まだこの街のことをよく知らないから、いろんなところを天寿と一緒に見られたら、すごくうれしいです」と新樹くんは天寿に言った。

 天寿は、その綺麗な瞳を大きくして、きらきらと輝かせて、じっと新樹くんを見つめている。

「だから、僕と友達になってください。天寿」と新樹くんは言った。

 その新樹くんのまっすぐな言葉が、優しい気持ちが、天寿の心の中にまるで福音のように響き渡った。

「……、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。新樹くん」

 と思わず、ぽろぽろと泣きながら、天寿は言った。

 そんな天寿に新樹くんはハンカチを渡してくれた。

 真っ白な鳥が描かれている、すごくいい匂いのするハンカチだった。

 そうして、天寿と新樹くんは友達になった。

 お互いに、生まれて初めての……、友達だった。


 君が君を大好きになると言うこと。


 天寿 てんじゅ 終わり

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