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天寿と少年は一緒に図書館の中庭に歩いていった。
そこには屋根のある、白いベンチが置いてある休憩所があって、そこで二人で白いベンチに一緒に座って、自動販売機で飲み物を買ってから、(少年がミルクコーヒー、天寿がいちごミルクだった)静かに降り続いている雨の降る暗い空を眺めた。
「僕は新樹って言います」と新樹くんは天寿に自分の名前を教えてくれた。(どんな漢字かも教えてくれた)
「私は、天寿って言います」と天寿は自分の名前を(漢字でどう書くのかも言いながら)新樹に言った。(それから天寿は、新樹。新樹くんか。いい名前だな。と心の中でにこにこしながら、そう思った)
ざー、という静かな雨の降る音が聞こえる。
見ると、図書館の中庭には静かな雨が降り続いていて、葉っぱや小さな花や緑の木々がその雨をはじくようにして、濡れていた。
「さっきの席。もしかして、天寿の席だったの?」と新樹くんは言った。
その新樹くんの言葉を聞いて、天寿は驚いた。(新樹くんが天寿と天寿のことを名前で呼んでくれたことにも、……、驚いたけど)
天寿は最初、違うよ、と嘘をつこうとしたのだけど、新樹くんにはきっと私の嘘はつうじないと思って、「うん。いつもあの席で本を読んだり、勉強をしたりしている」と本当のことを言った。
すると新樹くんは「僕は今日が初めてなんだ。最近、この街に引越しをしてきて、図書館にやってきた。だから、あの席が天寿の席だって知らなかったんだ。ごめん」と新樹くんは言った。
「ううん。別に誰の席でもないよ。私がよく座っているってだけだから。だから、別にいいよ。新樹くん。まじめだね」と言って天寿は笑った。(それから、笑っている自分をふと思って、自分の機嫌のよさに、なんだかとっても恥ずかしくなってその顔を少し赤く染めた)
それから少し二人はお互いの話をした。
そして、新樹くんも天寿と同じ十四歳で、そして、やっぱり、天寿と同じように中学校には通っていない、不登校の子供であるとわかった。
「がんばって、いこうと思ったんだけど、どうしても『あの場所』に自分の居場所を見つけることができなかったんだ」とミルクコーヒーをストローで飲んでから、新樹くんは言った。
「うん。すごくよくわかる。私も同じだから」と雨降りの空を見ながら、天寿は言った。