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その日は朝からずっと雨が降っていた。
図書館につくと、天寿は赤い傘を畳んで傘入れの中に入れて、少しだけ雨の日の猫みたいに体を揺らして、雨の雫をはじいてから(周りには誰もいなかった)天寿はいつものように図書館の中にはいっていった。
図書館の中はとても温かかった。
天寿はいつもの自分の席(もちろん、天寿のもの、というわけではないのだけど、毎日、その席に座って天寿は本を読んだり、勉強をしたりしていた)に行くと、そこに一人の少年が座っていた。
初めて見る少年で、年齢はきっと天寿と同じくらいの(もしかしたら、少し年下かもしれないけど)中学生くらいの整った顔をしている、少しかっこいいな、と思うような顔をした小柄な少年だった。
白い帽子をかぶっていて、紺色のセーターにデニムのズボンをはいている。椅子には脱いだ紅茶色のコートがかけてあった。
少年は天寿の席に座って、もくもくとなにかの本を読んでいた。
今日みたいに、誰かが天寿の席に先に座っているということは、たまにあったので、天寿はその席のテーブルをはさんで反対側の席に座って、本を読むことにした。
ネットのニュースでは、またとても悪いニュースが流れていた。
その悪いニュースを見て、天寿は、……、『この世はなんで、こんなにも苦しいところなんだろう』? どうして、みんな幸せになれないのだろう? 死んでしまうのだろう? といつものように思った。
天寿は席を立って、図書館の中から本を選び、それを借りて、元の席に戻って、本を読み始める。(少年はまったく時間が動いていないみたいに、同じ姿勢でずっと本を読んでいた)
天寿は本を読み始める。
図書館の席には、いまのところ、少年と天寿の二人しかいなかった。(いつもすごくすいているのだ。それに今日は平日のお昼を少し過ぎたばかりの、さらに人の少ない時間だった)
天寿は少年に話しかけたいと思った。
でも、お邪魔かなと思って、我慢していた。我慢していたのだけど、我慢しきれなくなった。
天寿は本を閉じると、じっと少年を見る。少年は本を読んでいたのだけど、少しして、ふと自分を見ている天寿の視線に気が付いて、顔を上げた。
「こんにちは」と少年と目と目を合わせて、天寿は言った。
すると、その少年は声を出してはくれなかったけど、小さく頭を下げて、天寿にちゃんと返事をしてくれた。
少年が返事をしてくれて、天寿はすごく嬉しかった。
それから天寿はまた、いつものように本を読み始めた。
……、でも、なんだか、落ち着かなかった。
どうしてだろう? いつもはこんな気持ちにはならないのにな、と天寿は(自分の気持ちを)とても不思議に思った。