1 あなたの本当の幸せのために。私は。
天寿 てんじゅ
あなたの本当の幸せのために。私は。
天寿はなぜこの世に自分が生まれたのか? そんなことをずっと考えていた。それは、とても難しいことだった。(考えても全然、答えがわからなかったし、誰も天寿が納得できるようなことを答えてはくれなかった)
私はなんでこの世に生まれたのでしょう?
この世とはなんでしょう?
私とはなんでしょう?
小さなとき、大きめの椅子に座りながら、足をふらふらと動かして、天寿は思う。背が伸びて、床にちゃんと足がつくようになってからも、天寿はそんなことを考えていた。
天寿はとても頭のいい子だった。
生まれたときから、とても物分かりが良くて、すぐに家族の中の、そして小さな街の中の、小さな噂になった。
天寿のことを『神様の子』という人もいた。(それくらい天寿は頭がよくて、それに頭がいいだけじゃなくて、明るくて、そして、とても優しかった)
天寿は女の子で、生まれたときから、とても可愛らしい女の子で、やがてすくすくと成長して、とても美しい少女になった。
天寿は今、十四歳になった。(無事に十四年間生きてこられた。それはきっと奇跡だと思った)でも、本当に美しかったのは、その顔や体の形や仕草や言葉遣いなどではなくて、『その天寿の目には見えない心』だった。天寿は本当に優しくて温かくて綺麗な心を持っていた。
今のところ、天寿は自分よりも頭のいい人間に実際に出会ったことがなかった。(ネットなどでは、この人は自分よりも頭がいいのかな? と思う人もいた)
天寿の目にはこの世はあまり幸せなところには見えなかった。
悪いことばかりが目に映った。
そんな心を締め付けられるような風景を見るたびに、天寿は、……、私は、ううん。私たちはなんのためにこの世に生まれてきたんだろう? とそんなことをまた考えた。
天寿は頭がよくて、いろんな勉強がすぐにわかってしまって、飛び級のようにどんどんとさきの勉強をしていった。
小学校の低学年のころまでは普通にみんなと一緒に小学校に通っていたのだけど、途中から、小学校には通わなくなってしまった。天寿はどうしても、小学校の教室の中に、自分の居場所を見つけることが、(あるいは、作り出すことが)できなかった。
友達も誰もいなかった。(みんないい子ばかりだったけど、どうしてもなれなかった)
だから天寿は小学校にはいかなくなって、不登校の子供になった。
天寿の家族はそのことを残念に思っているみたいだったけど、でも、同時に、それはしかたのないことかもしれない、と思っているみたいだった。(お昼ご飯や晩ごはんのときに、なんとなくそんな風におもっているのかなって、もぐもぐとご飯を食べながら天寿は思った)