彼が正直になったので
こうやって彼の顔を見るのは、半年ぶりだろうか。
侯爵家令嬢のエレオノーラは、ふと考える。目の前の彼、エドワードとはかれこれ5歳からの付き合いだ。侯爵家令嬢と公爵家子息。明らかに周囲の狙いが見える出会いの後、その狙い通りに婚約を結んだ私たちは、学園を卒業するとともに結婚することを定められていた。
学園を卒業するのは18歳。そして18歳といえば、今の私たちの年齢である。つまり、私たちは1ヶ月後に迫った卒業式の後、ほどなくして婚姻を結ぶ予定であった。
婚姻を結ぶ会場も、招待客も、お互いの衣装も揃え、あとは無事に卒業すれば万事問題ない状態であったはずだけれど、……さて、どうして彼はこんなに目を泳がせているのだろうか。
確かに私の容姿は良い。それはもう良い。初対面の人の時を止めるくらいには良い。中には直視できないと目を逸らす人間もいるけれど、彼は初対面の時から真っ直ぐに私を見ていたので、それが理由ではないだろう。
それにそもそも、彼も私に負けず劣らず容姿が良い。2人で並んでいれば、むしろ人が近寄らないくらいには同レベルに良いのだ。
半年ぶりに、わざわざお茶会を開いてまで会おうとしたのだから、何かしら話したいことがあるはずなのだ。ただ私に会いたいなどという理由であれば、そもそも半年もの間、婚約者とまともに会わないわけがない。
疑問が脳内を埋め尽くすが、今日は一日何もないので、別に話を急かす理由もない。そう思ってぼんやりと彼の方を見ていたら、ようやく心を決めたのか、真剣な瞳を私に向けて視線を合わせた。そんなに真剣な顔をして、一体彼の口から何が出てくるのかと思っていると、
「すまない。実は、他に好きな人がいるんだ」
「あら奇遇ね。私もよ」
「え?」
言っていることが理解できない、という顔を向けられる。
……しまった。彼が本当のことを言うから、つい私もつられて言ってしまった。別に言うつもりはなかったのに、やってしまった。
しかし、言ってしまったものは仕方ない。過去は変えられないのだ。どうせ、言うのが今か未来かの小さな違いである。だから開き直って、相変わらず呆けた顔をしている彼に、私は同じ発言を繰り返してあげる。
「だから、奇遇ね。私も、他に好きな人がいるのよ」
ゆっくりと、はきはきと、一音一音丁寧に繰り返してあげると、ようやく意識を取り戻したのか、はっと息を呑んでから、ゆっくりと両手で頭を抱え出す。
「嘘だろ」
「本当よ」
「なんてことだ」
「本当にね」
「知らなかった」
「本当?……ところで、あなたのお相手って、メロリンだったかしら?」
「誰だそれは。メリルだ」
「あら、大体合ってるじゃない。細かいわね」
「どこが細かいんだ⁉︎『メ』しか合ってないじゃないか!」
君はそういう大雑把なところが昔からあるよな、と彼は顔を赤くしながら言い募る。私はそれを見ながら、青くなったり赤くなったり忙しい人ねと思った。もう少し穏やかに生きたらいいだろうに。
……まあ、そんなことを言えばさらに怒ると分かっているから、口にはしないけれど。ちなみに、『リ』も合っていると思う。私は細かくないから言わないであげるけれど。
「で、そのメリランさん?は、……ええと、子爵家だったかしら?私、よく覚えてないのよね」
「だからメリルだ。……彼女は、男爵家だ。その、こういってはなんだが、君は彼女と同じクラスだと思うんだが」
クラスメイトの名前を覚えていないことを批判したいが、浮気相手の名前を覚えておけと婚約者に言うのは流石にばつが悪いらしい。歯切れの悪い言い方に、そう予想する。
……それにしても、男爵家ねえ。それはまた、なんというか。確実に、彼の家族は認めてくれないだろう。
彼の家族は、悪い人ではない。むしろ私にとっては良い人だ。昔から私のことを可愛がってくれるし、お菓子もよくくれる。私にとって、とても居心地の良いところではあるけれど、それはあくまで、『侯爵令嬢の私』だからの話だ。
彼のお父様は現国王の末弟であるし、彼のお母様は祖母が王女であった。我が国では血筋的に最も王家に近い、というより、彼は王位継承権を持っているので、もはや本物の王子様である。
だからというべきか、彼のご両親はなかなかに身分差に拘る人たちだ。息子のお嫁さん、つまり婚約者の立場となるのは、伯爵以上の家の者でなければ許さない、といった風に。
もしも彼が、親の心なんて関係ない!という性格であれば、そんなご両親の方針に反を唱えるのだろうけれど、彼は家を大切にしているし、公爵家の嫡男としての誇りも責任も持っている。なので、彼と彼女―――メラリンさんだったかしら―――の噂を耳にした時は、大層驚いたものだ。彼はご両親ほど身分差を気にしていないとはいえ、基本的には子爵位以下の下位貴族のご令嬢とは関わろうとしていなかったはずなのに、と。
「ところで、君の相手は誰なんだ?僕は正直、全く気づかなかったんだが」
恐る恐る、といった様子で尋ねてくる彼に、私はそうでしょうね、と頷く。私も気づかれているとは全く思っていなかったもの。
「ダミアンよ」
今さら隠すことでもないのでさらりと告げると、は?と彼の表情が固まった。本日2度目の表情に、今度は黙って見守ることにした。
「……ダミアンだって?」
数秒後に復活した彼が呆然と呟くので、「そうよ。ダミアンよ」と答えてあげる。
「ダミアンって……まさかとは思うけれど、あのダミアン?」
「あなたがどのダミアンを言っているのか知らないけれど、多分そのダミアンよ」
「男爵家の、僕と君と同い年の、僕と同じクラスのあのダミアン?」
「そこまで言うなら、家名で言えばいいじゃない。でも、まあ、そのダミアンよ」
彼が毎日一緒の教室で過ごしている、あのダミアンである。今日も、廊下で彼を見かけた時に後ろを歩いていたあのダミアンである。約一年前、落第阻止のために彼が毎日勉強に付き合ってあげていたあのダミアンである。彼を恩人だと公言していたあのダミアンである。
信じたくないのだろう。顔を真っ青にして固まってしまっている。気持ちは分からないでもないが、真実なのだから仕方ない。
彼もまた、私が嘘をつくなんて面倒なことをしないと理解しているから、私を疑う言葉を一切口にしない。
「……嘘だろ?恩人の婚約者と普通浮気するか?」
「そうね、しないわね。でもきっと、彼もあなたには言われたくないでしょうね」
そう言うと、そうだな、と一瞬納得したような顔をして、けれどすぐに「いや違うだろ」と納得しそうになった自分を否定した。
「僕はダミアンには何もしてないぞ」
「でもあなたも浮気してるでしょ。私から見れば同レベルよ」
「君も同レベルじゃないか」
「そうね。私たちみんな同レベルね。丁度よくっていいじゃない」
お互いが責められる理由を持っている泥沼の戦い。お互いを責めやす過ぎて、傷つけ合って終了だろう。なんて悲しい話だろうか。
「ところで、そのメリリンさんのどこが良かったの?」
「メリルだ。……どこって」
とはいえ、どうやら婚約者に対して語るのは気まずいらしい。口を閉ざして微妙な表情を浮かべる彼を視線で促すと、渋々語りだした。
「性格が良いところとか」
「一般的に、他人の婚約者と浮気するような人間を、性格が良いとは言わないわよ」
「……それは、まあ、そうだな」
少し考えた後、彼は同意を示す。
「あとは?」
他にもあるだろう、と続きを求めると、まだ続くのかと辟易した顔をされた。
「家族思いなところとか」
「本当に家族思いの人は、侯爵家に睨まれることはしないわよ」
「……いや、まあ、そうだな」
男爵家の人間が侯爵家に対抗しようとしたところで、お取り潰しの未来が待っているだけである。家族全員を路頭に迷わせる可能性を存分に高めておいて、家族思いはないだろう。
「あとは?」
「お菓子作りが得意なところ、とか?」
「へえ。たとえば?」
「ああ、ちょうど今日もらったんだが」
そう言って取り出したものを見て、私は一瞬の躊躇の後、口を開く。
「……ふうん。残念だけれど、それ、メジー菓子店のクッキーよ」
「え?」
きょとん、とする彼をほんの少しだけ気の毒に思う。けれど、事実は事実だ。ここは、現実を教えてあげるべきだろう。決して、追い討ちをかけてやろうだなんて考えていない。
制服の内側に手を入れて、あるものを引っ張り出す。
「ほら、一緒でしょう?仕方ないから、1枚あげるわ。食べてごらんなさいよ」
「ちょっと待て。君いまどこから出した?」
「令嬢の嗜みよ。追及してはいけないわ」
「そんな嗜みあってたまるか」
きっぱりと言い切られるが、適当に流して、まあ食べてみなさい、と勧める。
「…………同じ味だ」
呆然と呟く姿に、可哀想だと素直に思った。
「だいたい、真ん中に『M』のイニシャルがあるじゃない。おかしいと思わなかったの?」
「自分のイニシャルだと言っていたんだ」
「残念ながら店名よ。そもそも、他人に渡す食べ物に、自分のイニシャルを入れるなんて普通はしないでしょう」
そう言うと、彼は「確かに」と頷く。
どうして気づかなかったんだ、と落ち込んでいるエドワードを、私はとりあえず黙って見守ることにした。しかし、しばらく経っても回復しない姿に、いい加減暇だと沈黙を破る。
「市場調査力が落ちたんじゃないの?最近、いつ見てもメリロンさんの周りに誰かがいるでしょう。あなたたち、彼女に群がりすぎよ。あの時間を別のことに充てたらいかが?」
「それは……。エレオノーラも知っているだろう?彼女は平民から男爵家の養子になった関係で、貴族の作法がまだ分かっていないんだ」
仕方ない、と首を振る彼に、何言っているんだこいつ、という目を向ける。
「あれはただやる気がないだけでしょう。平民から男爵令嬢になって8年経つのよ?それなのに平民出の学園生より作法を知らないなんて、明らかにおかしいわ。それを置くにしても、彼女は貴族の8歳児より礼儀がなっていないもの」
「……そんなに酷いか?」
「酷いわ。だってこの前、私、彼女に足を踏まれたのよ。それなのに、謝罪の一つもされなかったわ」
「何⁉︎」
ガタリと慌てて席を立って、エドワードが私側へとやって来る。
膝を床につけて座り、心配そうに見上げてくる。
「大丈夫か?」
「まあ、多分ね。少し青くなったけれど、今はもう痛くないもの」
靴のヒール部分で踏まれたので、当時は痛かったけれど、もう既に3日経っている。さすがにそこまで強く踏まれたわけではない。
それにしても、侯爵家の娘の足を思い切り踏んでおきながら謝らないとは、彼女は大変肝が据わっている。
「そうか。……メリルにはきちんと言っておく」
「今さら謝りに来ても許さないわよ」
「それでも言っておく。許すかはエレオノーラが決めると良い。君にはその権利がある」
……まあ、誠心誠意謝って来たら許してあげるけれど、と心の中では思いつつ、言葉には出してあげないことにした。
とりあえず床に座り続けるのも何だから、ソファに座りなさいよ、と勧める。そうだな、と頷いた彼が元の位置へと戻っていったのを見て、再び口を開ける。
「だいたい、あなた、これからどうするのよ。男爵令嬢との婚姻だなんて、あなたのご両親はとても許してくれないわよ」
そう問うと、ウッと声にならない呻き声を上げられた。
「そう、なんだ。……色々とパターンを考えてみたが、全てにおいて、絶対に無理だという結論に至ってしまう」
頭を抱えながらの言葉に、私は「ふうん」と相槌を打つ。
「特に、彼女の家は、男爵家の中でも新興だ。とても許される気がしない」
「そうでしょうね」
他人事だとありありと分かる声色で同意を示すが、「君だって他人事ではないだろう」とジトリとした目で見られる。
はて、と首を傾げてみせると、
「ダミアンだって、男爵家だろう」
……ああ、と手を打つ。なるほど、そういうことね。
彼は同じ状況だと言いたいのだろう。とはいえ、心配してもらってありがたいけれど、私は特に悩んでいないのだ。
「だって私、ダミアンと婚姻を結ぶつもりはないもの」
「―――え?」
エドワードがピシリと固まる。
本日何度目か分からない姿に、意外とこの人って反応良いのよね、と思う。
少しずつ理解を広げているのか、ピシ、ピシ、と氷が解凍するように顔を小刻みに動かして私と目を合わせる。
「……なんだって?」
「だから、私、別にダミアンと結婚するつもりなんてないの」
「…………なんで?」
理解不能、と顔に書いてあった。
本当に分からないらしい彼に、仕方ないわね、と説明してあげる。
「よく考えてみなさいよ。侯爵令嬢として蝶よ花よと育てられた私が、男爵夫人として生きていけると思う?メリランさんのお家のように、商家上がりの裕福な家ならまだしも、ダミアンの家はそうでもないでしょう」
自慢ではないが、私は自分の身の回りのことを自分でしろ、と言われてもできない。いや、正確にいえば、身支度でも何でも、しようと思えばできる可能性もあるけれど、そもそもする気がない。
なぜなら、そういったものは侍女の仕事で、私たち主人はその仕事を奪ってはならないと教えられてきたからだ。
だが、ダミアンは違う。彼はむしろ、自分で全てを行おうとする。試験の点数が悪くて、エドワードに教えてもらうなどという展開になることはあれども、少なくとも、自分でしようとする意気込みはある。
それは、彼の性格もあるだろうが、そうならないといけなかった、という現実があったのも理由の一つだろう。ダミアンの家は、ここ数代、徐々に勢いを失っていっているのだ。どうやら、領地の方で色々と問題があったらしい。とはいえ、最近は少しずつ未来が見えてきたと笑っていたけれど。
「それは確かに、そうだけれど」
納得できないけれど、納得できるという複雑な表情を見せる彼。
ふふん、と笑いつつ、
「メリアンさんだってそうよ。彼女が公爵夫人として立つ姿、あなた想像できる?」
「それは……」
言葉に詰まるエドワードに、ほらね、と言う。
「男爵令嬢としてさえ、足りないのよ。あなたのことだから、折を見て彼女に貴族のルールやマナーを何度も教えているでしょう?それなのに、何も変わっていないわ」
「それは、そうだな」
「本当に彼女があなたとの未来を考えているのなら、あのままではいられないはずよ。あなたと共にありたいと願うのならば、もっと努力をしていないとおかしいわ。きっと彼女は、本気で変わる気がないのね」
「その、通りだろうな。本当のところは知らないが」
「そう。でも、仮に違うと言うならば、―――ふざけないで欲しいわね」
思わず出た低い声に、彼がぴくりと肩を上げる。
「私たちは、それこそ物心つく前から、貴族の子供としての心構えを繰り返し教えられてきたわ。将来人の上に立つ者として、必要な教育も受けてきた。恵まれているとは思うわ。けれど、努力をしたのも事実よ」
そうでしょう?と問いかければ、「ああ」と同意を示される。
「特に、僕たちは貴族の中でも上の存在だ。僕たちの判断1つで、何千人という人間の人生が変わる可能性だってある。だから、僕たちの行動は、僕たちの都合だけで決めていい問題ではない……だろう?」
「ええ、そうよ。だからこそ、私たちは努力をしてきた。努力をせざるを得なかった。それが、私たちが私たちであるための義務だったから。―――それを疎かにできる人間に、公爵夫人は務まらない。私は、そう思うわ」
はっきりと言い切った私に、彼はしばらくの間、言葉を自分の中に染み込ませるように目を閉じていた。そして一度重々しく頷くと、「……その通りだ」と真っ直ぐに私と瞳を合わせた。
意思のある声色に、……ああ良かった、と目の前の人物に気づかれないほど小さく微笑む。
それから、分かりやすく笑みを深めると、
「なにより、私、あなたの顔が好きなのよね」
「は?」
この学園で誰も見たことがないほどの呆けた顔を披露される。
「いや、今の真面目な話は何だったんだ?」
「あれは建前よ」
「建前」
「そう、建前」
「……なるほど」
何とも言えない顔で渋々納得してくれた。
微妙な表情の彼に、私は心外だ、と思う。
なぜかというと、
「あなたも私の顔が好きでしょう」
「大好きだ」
即答である。
迷いもなく即答である。
今までの微妙な雰囲気を投げ捨て、即座に肯定する姿は、とても人のことを非難できるものではない。しかも、自分の言ったことに対して、当たり前だと動揺さえしていない。
「よく考えてみて?私の顔が毎日見れるのよ」
「最高だな」
「それと比べて、メリアンさんの顔」
「普通だな」
つい30分前に、好きだと言っていた相手への評価とは思えない。これを同類と言わず何と言う。
「1か月なら君の顔がなくとも余裕で耐えられる。半年でもまあまあ耐えられる。1年も、頑張れば耐えられる。だけど、それ以上は耐えられないな。……うん。学園で度々君の顔が見れるから気づかなかった。これは盲点だったな」
そう言って、近年稀に見るほど爽やかに笑ったエドワードは、私の両手を握る。
「エレオノーラ。どうやら僕は、君と婚姻すべきらしい」
「メロリンさんはどうするの?」
「どうもしない。恋人にもなっていないから、解消が必要な関係も存在しない。強いて挙げるなら、関わりをなくすくらいだな。今思えば、僕は、僕の見たいように彼女を見ていたのかもしれない。……それに、一番大切な自分の価値観も思い出せた。これからはそれを忘れずに生きていこうと思う」
「ふうん。頑張って」
私の激励に力強く首を縦に振って、彼は扉を出て行った。
―後日談―
「ありがとうございました。エレオノーラ様に援助いただいたおかげで、無事、どうにか軌道に乗れそうです」
「それは良かったわね。私の方こそお礼を言うわ。ダミアンのお陰で、どうにか上手くいきそうなの」
「本当ですか?おめでとうございます。……いやあ、ここ最近、エドワード様から向けられる視線の温度差が激しくてですね。何かあったとは思っていたのですが」
「温度差?」
「はい。ですが、今のお話で納得しました。あれは、自分の婚約者に手を出した恩知らずへの怒りと、これから振られる存在への憐れみの視線だったのですね」
「なるほど。迷惑をかけたわね」
「いえ、これくらい想定内です。エレオノーラ様にしていただいたことを思えば、全く問題ありません」
「そう?」
「はい。思い返してみれば、……初めてエレオノーラ様にお声をかけていただいた時は何事かと思いましたが、結果的に見ると、エレオノーラ様が仰っていた通りになりましたね」
「ふふ。私たちは幼馴染だもの。彼の思考なら比較的読みやすいのよ」
「そうですか。……おや、エドワード様がこちらにいらっしゃるようですね。邪魔者はここで退散させていただきます。―――では、エレオノーラ様。我が家への資金援助、心より御礼申し上げます」
「あら、お気になさらないで。それに、あなたこそ、私のお相手役を引き受けてくださってありがとう。―――資金さえあれば、あなたのお家の事業は上手くいくって分かっていたもの。合理的で理性的なあなたの人柄、出資者として私は好きよ。もう資金の提供はできないけれど、応援しているわ。それと、領地にいる本物の恋人さんによろしく」
「はい!では、失礼します」
「ええ。ごきげんよう」
ありがとうございました。