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命さえ

作者: 守田

私は私であるがそれと同時に私は私を辞めた

私は私を許してやることができなかった

私はあくまで私であって私では無い

「お願いだから命さえ無事でいてください

体はいくら傷だらけでもいい

それを受け入れるから

命さえ命だけは綺麗なまま無事でいてください

お願いですから命さえ」


いつの間にか消えていた朝の涼しい時間。

茶碗蒸しになりそうなくらい蒸し暑く到底何かをしようと行動をする気にはなれない。

あぁ、もう夏休みだ。

周りの皆は海に行くだの夏祭りに行くだのデートに行くだのと満喫した夏休みを送るらしい。

かという私は、昼過ぎに起きて風呂に入り適当にご飯を作りエアコンの効いた涼しい部屋でゴロゴロだらだらとスマホをいじる。

会話をする友達はいる。

だが、一緒に遊ぶような友達はいない。

いや、違うな。

遊びに誘われることはある。それを断っているのだ。なぜなら、金欠だから。

それに、やめておこう。

自分が虚しくなるだけだ。

メッセージを開いても誰からも連絡は来ていない。

皆、数ヶ月前や1年前なんかで終わってる。


さて、何をしようか。


最後の夏休みどう過ごすかでも考えるか。

いやそれより、遺書の内容でも考えるか。

やはり、無難にお母さんお父さん、ごめんなさい、ありがとう。

がいいかしら。

家族に書いて、友達に書いて。

こうゆう時に、自分の交友関係に感謝する。ダジャレじゃないよ。

まだまだ、未来のある高校2年生が自ら命を終わらせるという行為。

訂正しよう。私に未来は無い。

ただの高校2年生が自ら命を終わらせるという行為。

この行為に名前をつけるとするなら、私は

「私は私である」

と名付けよう。


私が私であることを許して貰えるのであれば私は精一杯私として生きていきたい。


遺書


お母さん、お父さんへ

両親より先に死んでいく私を許してください。いや、許さなくてもいいよ。

叱ってくれてもいい。私は生まれてから17年間許されてきたから。

お母さん、お父さんの元に生まれて凄く嬉しいよ。幸せだよ。ありがとう。

私が死ぬ理由は墓場まで持っていくつもり。決して、学校が辛くなったとかお母さん、お父さんの元で育つのが嫌になったとかじゃないから。

お母さん、お父さん

ごめんなさい。

ありがとう。


みんなへ

これを読んでいるということは、私はちゃんと死んでいるんだろうね。

これ1回言ってみたかったんだ。

なんで死んだのとか色々と聞きたいことあるだろうけど、私はそれを全部墓場まで持っていくね。

みんなと出会えて良かった。

最後に一つだけ言いたい。

第一に自分のことを大切にして。

他人を気にするのは第二でいいから。

まずは自分を大切にして自分を生きて。

それじゃあ、またね。


こんなもんかな。

なんか内容薄いな。

いや、いっぱい書くと死ぬのが嫌になってくるからこれでいいんだ。

これで十分。


そうだ、最後に君に書いておかないとね。

君へ書く分は沢山書くか一言に収めるかすごく迷うな。

君に言いたい事がたくさんあるんだ。


あぁ、やっぱり嫌だな。


私だって生きていけるならまだまだ、図太く生きてたい。

簡単には死んでやらないって図太く生きてたい。

それに、欲しいものだって手に入ってないし、完結してない漫画だって読みたい。

もうすぐ始まる次のアニメだって見たい。

やってみたいことだってある。

焼肉だって食べたいし、キャビアなんかも食べてみたい。

やった事ないゲームだってやりたいし、宝くじも当ててみたいし、夜にタバコ吸いながら酒を飲みながら1人で歩いてみたいし、夜の海を眺めてみたい。

私はまだ死にたくない。


死にたくない


でも、自分の将来を考える度に気付く。

何も見えない。

自分が将来ちゃんと働いて税金を納めて、一人暮らしをして、仕事をしている姿が、見えない。

これがお先真っ暗というやつなのかも。

みんなは進学だったり、就職だったりやりたい事、未来が見えているのに、私は何も見えない。

私は、ただ自堕落に体たらくに過ごしているだけ。

みんなみたいに何かに突出した才能なんかない。

全てが平凡にも値しない能力。

そう。

嫉妬なのだ。

私は皆に嫉妬しているんだ。

嫉妬

妬み

僻み

劣等

私はどうしようも無い人間なのだ。

だが、こんな私だけど褒めて欲しい。

こんな人間として必要のない感情を抱いているのに、それを人に八つ当たらなかったことを。

私の中で治めていることを。

こんな私を許して欲しい。

私は私を許すことができなかった。


私は私であることを辞めた。


だけど、たった1人だけ、私を私として認めてくれた。

それが君なんだ。

君は私を私だと認めてくれた。

君は私を許してくれた。

君は私を生かしてくれた。

私は君に出会えて本当に良かった。



君へ


君は普段大人しいという言葉が少しだけ似合うような子で、不思議な子という言葉がほんの少しだけ当てはまるような子で、変わった子というのが良く似合う子だった。

私はそうゆう所に惹かれたのかもしれない。

学校が始まる1時間前に2人で街をぶらついた時、君はよく喋ってよく笑った。

私はそんな君を見るのが好きだった。

私は君と出会えて幸せだった。

ありがとう。




私は私であり

私は私を傷つけた

私は幸せ者だった

私は私を許し褒めることができなかった

私は私として生きていくことを諦め

私は私を辞めた



「今度一緒に海に行こう」


君から一言そう連絡が来た。

ちょうどいい。



「夏休みの課題終わった?」


「終わったよ」


「すご、まだ終わってないよ」


「君なら1週間で終わるでしょ」


「どうだろか」


「海綺麗だね」


「うん、君と同じくらい綺麗」


「ねえ」


「なに?」


「君と出会えて良かったよ

私は幸せ者だよ

ありがとう」


「まって」


「ねえ」


「いかないで」


「ねえ」


「幸せに生きてね」




ある人は人生は小説のようなものだと例えた。

ある人は人生は小学生の書いた作文のようなものだと例えた。

ある人は人生は不揃いなパズルと例えた。

私は人生を終わりのはっきりしないない小説と例えた。

私の小説は誰がどう読んでも、つまらない、面白くない、ゴミだと言う。

私には私の人生を華やかに言葉を飾り付けることが難しい。

だが、この蒸し暑い中私は1度だけ私を許した。


君は君であって君は君を許した


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