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女神の愛猫〜神獣リーゼロッテの日々徒然  作者: 天宮カイネ
第2章 10年の旅路編
8/10

2-4 味の楽園迷宮




 メルギアナの街を出てわりかしすぐの所に、目的地ーーー『味の楽園迷宮』はあった。

 子供達は皆、慣れた様子で迷宮内へと入ってゆく。それを横目に、私は迷宮の門の隣に立てられた看板を読んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーー

「味の楽園迷宮」

※この迷宮には特殊なことわりが存在します

ーーーーーーーーーーーーーーー


 何この注釈。いや、分かりやすいけれども。


「(とりあえず、入ってみましょうか。子供でも入れるくらいの難易度なんでしょうし)」


 "特殊な理"とやらが気になるけれども、それは入ってみれば分かるだろう。

 いざ、『味の楽園迷宮』へ。珍しい食材を期待しています!




「あー、特殊な理って、こういうことなの…?」


 はい、迷宮内からお送りしております、リーゼロッテです。現在私は、迷宮の1階層にて出てきた魔物…『ミニスライム』という、直径15cmくらいの丸っこいグミみたいなやつを倒したところです。ちなみにめちゃくちゃ弱かった。

 倒した直後、ミニスライムは"砂状になって"崩れて、あとには見慣れた球体…調味料の実が3個ほど落ちていた。…これ、このシステムには私、覚えがあるぞ。


「魔物を倒すとドロップアイテムが残る…完全にゲームの世界じゃないの」


 『鉱床の迷宮』の採掘ポイントとかも「ゲームっぽい」と思ったけれど、これはそれ以上だ。そもそも、なんでスライムから調味料が?とか考えてはいけない。スライムが薬草を落とすゲームもあった。つまり"そういうもの"ということだ。


「それにしても、ミニスライム…なんだか妙に可愛らしかったわね」


 ミニスライムは《隠密》を解いた状態で近づいても敵対してこない、ゲーム風に言うと"ノンアクティブ"な魔物だったのだけど。とても弱い上に、ぽよんぽよんとのんびり跳びはねているだけの無害な魔物だった。なんというか、罪悪感がすごい……


「でも、調味料の実は欲しいし……うん、割り切って倒しましょう」


 私の中で、罪悪感よりも食欲が勝った瞬間だった。ま、まあ迷宮内の魔物は一度出入りすれば復活するから、問題はないわよ。

 という訳で、ドロップした調味料の実を拾って《ストレージ》にしまい込むと、私は先に進むことにした。

 ちなみに、迷宮内は人工的な石造りの通路になっていた。道幅は広く、天井も高くなっていて、光源はないけれど全体的に明るい。それに通路は真っ直ぐに奥へと続いており、迷うことはないような構造だった。時々左右に小路こみちがあったりするけれど、どれもすぐに行き止まりに突き当たる親切設計である。

 《爪術》で爪を鞭のようにしならせてミニスライム達を屠りながら、ドロップアイテムを拾い集める。なんという作業ゲーム感。なお1匹あたりのドロップアイテム数は2〜5個くらいかな?おかげさまでこの短時間で調味料の実が大量に手に入っている。やったね。


 やがて1階層の最奥に着いたので、そこにあった階段を降りてゆく。


「ふぅん、2階層も景色は変わらないのね。魔物はーーー…んん?」


 視界に入ってきた光景に…私は思わず二度見した。

 そこにいたのは、クリクリお目目が可愛らしい仔牛だった。あとは、奥の方に仔山羊もいる。


「可愛い…え?アレを倒すの?本気で?」


 《隠密》がかかっていない状態で近づいてみるも、仔牛も仔山羊も当然のごとくノンアクティブである。せめて襲ってきてくれたら倒しやすかったのに…!!


「ふぅ、ちょっと落ち着きましょう。アレは魔物、アレは魔物……ていっ!」


 思い切って爪を振るうと、仔牛と仔山羊は呆気なくドロップアイテムを残して消えた。

 さて、落としたのは……、!?


ーーーーーーーーーーーーーーー

「ミルク(牛)」

・迷宮産の牛のミルク。とても濃厚で美味。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「チーズ(山羊)」

・迷宮産の山羊のチーズ。風味豊かで美味。

ーーーーーーーーーーーーーーー


 以上が《鑑定》の結果である。まさかの乳製品キタコレ。なお、ミルク…牛乳はガラスの小瓶に詰められており、チーズは木製の小箱に詰められていた。牛乳は2本、チーズは4箱ドロップしている。よし、牛乳もチーズも、もっと集めましょう。

 先ほどまでの動揺はどこへやら、もはや私の目には仔牛と仔山羊は牛乳とチーズに見えていた。罪悪感?何それ美味しいの?




 それから、しばらくして。通路の隅から隅まで狩り尽くして、私はホックホクで3階層への階段を降りて行った。

 ミルクは牛だけじゃなく山羊のものもドロップしたし、チーズも数種類がドロップした。白カビチーズや青カビチーズとかもあった。なんて素晴らしいラインナップ…。


「これは3階層も期待できるわね」


 3階層も、景色は変わらず石造りの通路だった。そこにいた魔物は…小柄な鶏と仔豚、仔牛、あとは……ゴマフアザラシの赤ちゃん。ここへ来てまさかのアザラシ。可愛いがすぎるわよ?


「ていうか、何をドロップするのかしら…?」


 とりあえず手前からビシバシ仕留めてゆく。微妙に視線を逸らしながらだけど。だってアザラシ可愛い…。

 そそくさとドロップアイテムーー今回は全部小箱だったーーを拾い集めて、ひとつずつ中身をあらためてゆく。


 鶏からは『無精卵』。

 仔豚からは『焼豚』。

 仔牛からは『ジャーキー』。

 アザラシからは『魚肉ソーセージ』。


 …魚肉ソーセージ??




 あのあと、3階層にいる全ての魔物を倒したところ、『ハム』や『ソーセージ』、『ベーコン』、『カマボコ』などがドロップした。なおカマボコはアザラシからのドロップである。アザラシ=魚肉担当…?


「…まあ、深く考えても仕方ないわよね。この迷宮は"そういうもの"だと割り切らないと、疲れるだけだわ」


 牛乳や卵などが迷宮でドロップするのは有り難いし、チーズや加工肉はそれぞれ豊富に種類があって、集めるだけでも楽しい。あと単純に、食べる時が楽しみでもある。


「さて、お腹も空いてきたことだしそろそろ帰りましょうか。4階層と5階層は、また明日ね」


 そういう訳で、私は『味の楽園迷宮』をあとにして帰宅したのだった。




 *




 翌朝。夜明けと共に起きた私は、朝食としてオムレツを食べたあと、意気揚々と『味の楽園迷宮』へ向かった。

 なお、1階層目から順繰り降りてゆく予定である。迷宮内の『転移魔法陣』で4階層の入り口まで降りても良かったのだけど、1〜3階層のドロップアイテムも集めたかったので、こうなった。


「これ、魔物を倒すよりも、ドロップアイテムを回収する方が地味に手間がかかるわね…欲しいからやるけれど」


 そんなことをぼやきつつも、私は危なげなく4階層へと辿り着いた。いや、『鉱床の迷宮』に比べたら有り得ないくらい難易度は低いけれどもね?いかんせん出てくる魔物が可愛すぎる…アザラシとか。もはや卑怯よね、あのフォルムは。可愛いがすぎる(2回目)。


「はてさて、4階層は……あれは、小さな木?」


 《鑑定》すると、『ミニトレント』と出た。石造りの通路の上を、150cm無いくらいの背丈の若木が這っているのは、なんというか奇妙な光景だった。

 そして当たり前のようにノンアクティブ。爪を振るって細い幹を斬り裂くと、ミニトレントはドロップアイテムを残して消えた。

 ドロップしたのは…ツタで綺麗に編まれたカゴに盛られた、野菜や果物達だった。普通ね…?カゴ付きなのは不思議だけれど、それを言ったら牛乳が入っていたガラス瓶とかも不思議だから、今さらだ。


「…あ、普通じゃないわね。なんか見たことないようなフォルムの果物?がある…それに、底の方に入っているのはナッツかしら?」


 《鑑定》すると、『マンゴスチン』、『パッションフルーツ』、『グァバ』と出た。ついでに『アボカド』と『ライチ』もあった。南国フルーツ?

 それと、カゴの底の方に入っていたナッツは、『アーモンド』や『クルミ』、『ピスタチオ』等など、前世で見知ったものが多かったけれど…そういえばこの世界に来てから、初めてナッツを見た。


「というか、この世界の野菜や果物って大きいわよね。食べ出があって良いけれど」


 今まで見つけた野菜や果物は、どれも可食部分が大きいものが多いような気がする。今しがた手に入れたばかりのアボカドやライチも、見覚えのあるものよりも明らかに大きいし。


「大きい上に、味も美味しいのよねぇ…美味しいに越したことはないけれど、不思議だわ」


 林檎のような大きさのライチをひとつ手に取り、爪で皮を剥く。そうして現れた白い果肉にかぶりつくと、独特な甘さが口内に広がった。うん、美味しい。


 ちょっとお行儀が悪いけれど、私は途中で立ち止まっては手に入れた果物をつまみ食いしつつ、4階層を進んで行った。ミニトレントの相手は気持ち的にも楽で良いわね。ドロップする果物は美味しいし。




 やがて通路の最奥へと着いたので、5階層へと続く階段を降りてゆく。おそらく次が最下層になるのだろうけれど、何がドロップするのかしら?美味しいものだと良いなあ。


 …結果から言うと、5階層ではある意味美味しいものが手に入った。ただし、今の私が美味しく感じるかは不明だけど。


「えー…これ、飲めるのかしら?」


 ドロップしたガラスの小瓶を、前足でつつく。なお小瓶の中身の《鑑定》結果はーーー『甲類焼酎』。つまり、お酒だ。


「私、そもそも猫だし、実年齢0歳だし……あれ?まだ0歳よね?」


 そういえば、最近ステータスを見ていない…というか、転生当初に見て以来、ステータスを開いていない気がする。


「ちょっと見てみようかしら…」


ーーーーーーーーーーーーーーー

名前:リーゼロッテ

種族:猫(神獣) 性別:雌 年齢:1歳


保有魔力:5650500/5650500


【固有スキル】

《念話》《人化》《魅了》《製作》

《鑑定》《ストレージ》


【一般スキル】

《全属性魔法》《爪術》


【称号】

《女神リベルセリノの愛猫》

ーーーーーーーーーーーーーーー


 いつの間にやら、私は1歳になっていた。あとは特段変わった箇所はない……いや、変わってるわね。気のせいでなければ、保有魔力がかなり増えている。前は380万ちょっとだったはずだ。


「まあ、保有魔力については今は良いとして。問題はこのお酒よ」


 《鑑定》さんによると、"雑味のないすっきりとした味わい。果実酒作りに向いている"、らしい。


「ともかく、ここまで来たからには他に何がドロップするのか確かめないと」


 まだ1匹しか魔物を倒していないので、今のところ手元にあるのはこの『甲類焼酎』だけである。

 ちなみに、このフロアに出てくる魔物は、『ミニドラゴン』という大型犬サイズのドラゴンだ。こいつも無駄に愛嬌があるしノンアクティブだけど、落とすものがお酒って…。通路の端にヘソ天で寝ているミニドラゴンとかいるけれど、実はアレ酔っ払いなのでは?


「しっかし平和ねぇ、この迷宮。最下層なのにボスもいないし…」


 ミニドラをサクサク狩りながら、私はぼやいた。そうして手に入れたドロップアイテムは、『乙類焼酎(芋)』、『ウイスキー』、『ブランデー』、『ジン』、『清酒』、『赤ワイン』等など、見事にお酒ばかりだった。


「確かに、こんなに平和な迷宮なら子供達だけでも入れるでしょうけど…お酒を拾わせるのは、なんだか教育に悪くないかしら?」


 しかも一番買取り金額が高いのが、この階層のドロップアイテムなのだ。ただし、液体の入ったガラス瓶はけっこう重いので、あの布袋いっぱいに詰め込むとそれなりの重さになりそうだけれど。街まで持って帰れるのは、精々が成人間近の子供達くらいだろう……あ、だから問題ないのかな?


「まあ、そんなこと私が考えることじゃないわね。これで色々と成り立っているんだもの」


 子供達は安全にお金を稼げて、大人達、というか街の人々は安定して食料品やお酒を手に入れられる。双方良しの関係だ。


「んー…外は今、何時くらいなのかしら。1階層から降りて来たし、もうお昼は過ぎているかもしれないわね」


 なお、4階層で果物をつまみ食いしていたおかげで、私のお腹は満たされている。むしろちょっとつまみ過ぎて、お腹が苦しい。

 うーん、腹ごなしに『味の楽園迷宮』をもう1周してこようかしら?卵と牛乳、もう少し欲しいのよね…。


「ま、何はともあれ、一旦ここから出ましょうか」


 一度出入りしなければ迷宮内の魔物は復活しないし、いつまでもここにいても仕方がない。胸の内でそんなことを呟きつつ、私は『味の楽園迷宮』を出たのだった。




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