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女神の愛猫〜神獣リーゼロッテの日々徒然  作者: 天宮カイネ
第2章 10年の旅路編
6/10

2-2 商業都市




 翌日。早朝からネイデンシアへと向かった私は、次の街へ向けて意気揚々と歩き始めて……いなかった。

 というのも、今は荷馬車の幌の上に乗って、次の街ーーー『"商業都市"ディアマルシェ』へと向かっているのだ。なお無賃乗車である。《隠密》で姿を隠したままだからね。


 そもそもの話、私はこの国の地理については本で読んだだけで、そこまで詳しくなかった。なので次の目的地を決めるべく、ネイデンシアのどこかで情報収集をしようとしていた先で、街の西門付近に留まっていたひと組の商隊を見つけたのだ。人や荷を積む複数の荷馬車と騎馬の護衛達で編成されたその商隊は、話を盗み聞いたところ「今から商業都市へと向かう」とのことだったので、こうしてこっそり便乗することにした…という訳だ。


 今のところ楽で良いのだけど、この移動方法の欠点は途中で《転移ゲート》を使えないことかな。置いて行かれてしまうからね。

 なので、食事は《ストレージ》に作り置きしてある料理や果物などで済ませることにした。お風呂については、夜に野営のために商隊が止まってから、少し離れた場所で懐かしのタライ風呂に入ろうと思っている。夜寝る時は、幌の上で《結界》を張る予定だ。


「("商業都市"ディアマルシェ、いったいどんな街なのかしらね?『商業ギルド』の総本部がある街だ、ってことは本に書いてあったけれど…)」


 荷馬車の幌の上でのんびりと毛繕いをしながら、私は次に行く街について考えていた。

 ちなみに、商業ギルドの『総本部』というのは、各国にひとつ存在する『本部』とは別モノだ。総本部は文字通りギルドの本部を"総括する"本部のことで、この大陸…『アテリス大陸』中のギルドをまとめているのが総本部なのだ。

 なお、商業ギルドのみならず、冒険者ギルドにも総本部はある。その場所は、『"迷宮都市"メルギアナ』というアーレンス王国内にある都市で…つまり、アーレンス王国内には2つのギルドの総本部が存在するということになる。

 また、ギルドは他にも『職人ギルド』と『学術ギルド』があるけれど、これらの総本部は別の国にある…と、いつか読んだ本に書いてあった。

 それらの情報を思い出しては頭の中でまとめつつ、私はゆっくり走る荷馬車に揺られて行くのだった。




 *




 "商業都市"ディアマルシェに商隊が到着したのは、ネイデンシア出立からひと月ほどが経った頃だった。小さな街や村に立ち寄り行商をしつつの道中だったので、これだけ時間がかかったのだろう。体感としては、街や村に寄るのを最小限にすれば20日間くらいの日程で着きそうな感じがした。

 途中、商隊の商人達が街や村で商売をしている間に、暇を持て余した私がやっていたことといえば…


 《転移ゲート》で帰宅して、《ストレージ》に入れておくための料理を作ったり。

 通ってきた街や村の名前と位置を紙に書き出して、簡易な地図を作ったり。

 街や村の中を見て回りつつ、人々の話を立ち聞きしたりして情報を集めたり。


 …等など、けっこう充実していたように思う。


「(さて、ディアマルシェに着いたけれど…さすが"商業都市"と言うだけあって、大きな街ね。ネイデンシアも大きいと思ったけれど、ここはさらに大きくて活気がある)」


 約ひと月の間お世話になった商隊と別れて、私はディアマルシェの街を歩き出した。ネイデンシアもそうだったけれど、この国の『街』は規模の大小に関わらず、しっかりとした石造りの外壁に囲まれている。もちろんここ、ディアマルシェもそうだ。なお『村』には外壁はなくて、木で出来た柵で囲っていたりするだけだった。

 外壁や柵は、主に魔物の侵入防止のためにあるらしい。あとは、治安維持のためとか。街へと入るための門では検問を実施しているから、危険な物や人が入り込みづらいのだろう。


「(それにしても、この街は綺麗だわ。店舗や家は色合いが統一されているだけじゃなくて、規格も決まっているみたいね…それに、ゴミとかも落ちていないし)」


 この街の建物は、赤茶色の瓦屋根と白い壁で統一されている。そして整然と敷かれた石畳の道には、一見するとゴミなどは落ちていなかった。

 歩きながらよくよく観察してみると、どうやらそこかしこに街の清掃を担う人がいるようだ。彼らはおそらく同じ組織に所属しているのだろう、みな簡素だけど清潔そうな制服を着ており、その姿を見た私は「まるで某夢の国のスタッフみたいだな」という感想を抱いた。さすがにあちらのようにリズミカルに踊ったり(?)はしないようだけれども。

 …というか彼らが付けている腕章、商業ギルドのマークが入っているわね?つまり彼らは、商業ギルドから派遣されている人達スタッフだということだ。なるほど…ますます某夢の国感が増したわね。

 まあ、それは良いとして。実は先ほどから、少し気になっていることがある。


「(あれ、冒険者よね?)」


 私の視線の先にいるのは、冒険者?と思しき、武具を装備した者達だった。なぜ疑問形かというと、彼らはみな、身綺麗かつお行儀の良い態度だったからだ。ネイデンシアで見た冒険者は、もう少しワイルドかつ自由な態度(※マイルド表現)の者達が多かった。

 だけどその疑問も、商業ギルド総本部……の、隣にある冒険者ギルドに赴いたら解決した。


「(なるほど。この街にいる冒険者は、ある程度の高い実力があって位階も信用度も高い、優秀な冒険者が多いのね。

 理由は、彼らは"商人や商隊の護衛が主な仕事だから"。信用に重きを置く商人達に認められなければ、この街では仕事が出来ない、と)」


 冒険者ギルドにて。『依頼ボード』の前で、冒険者に対する仕事の依頼票を眺めていた私は、そこに貼られた"護衛依頼"の多さに色々と納得した。

 ちなみに、位階の低い冒険者達用には、常設依頼ーー常に受注者を募集している依頼のことーーに"街の清掃作業"があった。依頼者は商業ギルド総本部となっていて、つまり私が見た清掃スタッフの皆さんの正体は、位階の低い冒険者だったという訳だ。


 まあそんなことよりも、私にとって重要なことがひとつある。


「(この街は、清潔だし治安も良いけれど…買い物が出来ない身としては、ちょっとつまらないわね…)」


 本通り沿いには大きなお店が、中通りには中規模なお店が立ち並び、裏通りには小さなお店がひしめき合っているのだけど…如何せん、私は無一文の猫なので、いまいちこの街を楽しめずにいた。景観の問題なのか、屋台や露店もないし、精々が通り沿いを歩いてお店の窓から中を覗くくらいしか出来ない。

 近郊には迷宮のようなアトラクション(?)もないし…今の私にとって、この街はつまらない場所になりつつあった。人にとっては良い街なんだろうけどね?猫にとっては退屈なのよ…。


「(モチベーション下がるわあ…もうこれ以上は、見て回らなくても良いかしらね…)」




 *




 さて、現在時刻はお昼すぎだ。ちょっと、いやだいぶ早いけれど、今日は帰宅してゆっくりしよう。


「んー、久しぶりに家でゆっくりできるわね」


 帰宅後、リビングで身体を伸ばしながら、そう独りごちる。ネイデンシアからディアマルシェへの旅の間は、ちょくちょく帰ってきてはいたものの、必要最低限のことーー《ストレージ》に入れておくための料理作成ーーしかしなかった。商隊の予定を気にしながらの気持ち的に忙しない日々だったし、今は"街を探索する"モチベーションも下がってしまっている。…この際、何日か休んでしまおうかしら?


「『鉱床の迷宮』で食材集めもしないといけないし…うん、少しだけお休みしましょう」


 そうと決まれば、ひとまずやることは……昼食の後に、昼寝だね。


「お昼は何にしよう…今ある食材は、お肉が多くて、お魚が少ないわね……ネギ塩豚丼とか、お手軽で良いんじゃないかしら?野菜は汁物で摂れば良いとして」


 という訳で、昼食のメニューはネギ塩豚丼と野菜の味噌汁に決まった。なおご飯と味噌汁は作り置きのものを出すだけだ。

 豚肉のネギ塩炒めをパパッと作って、どんぶりによそったご飯の上に盛りつける。あとは《ストレージ》から鍋に入った野菜の味噌汁を出し、こちらも器によそって、と。


「よし完成。いただきまーす」




 飯テロキャンセル。大変美味でございました。なんで豚肉とお塩ってあんなに相性が良いのかしらね?まあ美味しければ何でも良いのだけど。

 さて、お腹も満たされたことだし、お昼寝タイムだ。ベッドではなく、リビングの日当たりの良い場所に置いたジャンボクッションの上に丸くなる。


「ああーーー……」


 日光の温かさと、柔らかいクッションに埋もれる心地良さに、思わず声が出た。ついでに喉も鳴っている。ゴロゴロ。


「作って良かったジャンボクッション…サイコー…」


 ほんと、日向でのお昼寝って良いわよね。なんだか、モチベーションの低下とかどうでも良くなってくる…至高のお昼寝の前には些事よ、些事。これ以上アレコレ考えるのは、寝て起きたあとの私に任せるわ……おやすみなさい。




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