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女神の愛猫〜神獣リーゼロッテの日々徒然  作者: 天宮カイネ
第1章(序章) 生活基盤構築編
3/10

1-3 迷宮にて




 迷宮の入り口である門を潜ると、広い洞窟のような空間に出た。不思議なことに、光源はないのに辺りが明るい。私、つまり夜目の効く猫の目からだと人より明るく見えているはずなので、人から見ると薄明るい、といった感じなのだろう。

 そして、岩で出来ている壁のあちこちから鉱石が突き出している。あからさまな採掘ポイントに、私は「ゲームっぽいな」という感想を抱いていた。


「分かりやすいから良いけどね。ってや!」


 《爪術》スキルを発動させて、近くの鉱石に向かって斬撃を飛ばしてみる。すると、鉱石はいとも容易く"斬り落とせた"ので、その威力の高さに呆然としてしまった。


「ええ…?魔法よりも強いじゃないの…」


 ちなみに色々と試してみたところ、《爪術》はかなり便利なことが判明した。各属性や毒などを付与したりできるほか、なんと長鞭のようにしならせつつ振るうこともできるのだ、これ。…爪とは?


「ま、まあ便利なのは良いことよね」


 色々試しているうちに、近場の鉱石は全て刈り取ってしまったので、奥へ進むことにした。道中、大きなカマキリや大きなモグラのような魔物に遭遇したけれど、全部私の爪の餌食になった。…あ、いや、カマキリは風魔法で斬り飛ばしたんだけどね?ちょっと触りたくなかったから…。


 そうして、早々に1階層の『安全地帯』に到着した私は、《ストレージ》の中に『鉄鉱石』や『銅鉱石』が沢山入っているのを確認して、ここで休憩しつつ《製作》に励むことにした。


「まずは…そうね、インゴットを作ろうかしら?その方が使い易そうだし」


 ということで、大量の鉄鉱石を地面に取り出すと、それに向かって《製作》スキルを発動させた。するとあっという間に、目の前に『鉄のインゴット』の山が出来上がった。…山?


「思ったより多いわね…?」


 鉄のインゴットは、元になった鉄鉱石よりも少し少ないくらいの量だけど…それでも、明らかに多い気がする。…まあ、多い分には良いけれど。

 とりあえず鉄のインゴットを《ストレージ》にしまい込み、次は『銅のインゴット』を作る。同じく山になったそれらを一旦《ストレージ》にしまうと、私は次に作る物について考え始めた。


「いま必要なのは、包丁に鍋、フライパン、お玉…かな?菜箸と食器は木で作った方が良いだろうし…」


 タライを作った時に余った木材があるので、それで菜箸や箸、スプーンやフォーク、皿やカップなどを作る。それから、鉄で包丁と鍋、お玉を作り、最後に鉄と銅でそれぞれフライパンを作った。ちなみに銅のフライパンは長方形の卵焼き器型にしてみたのだけど、これ、使う日は来るのかしら?

 それと、各器具の持ち手は木材で覆った。そうしないと熱いからね。使う前に気づいて良かった。


「あとは……んー、焚き火台とかいるかしら?」


 思いついたので、とりあえず作ってみる。材料は鉄だ。五徳と焼き網も作ってから、まるでソロキャンプね、と独りごちる。テントはないけれど、私には魔法による《結界》があるし。


「あとは、食材が手に入れば料理が出来るわね」


 この『鉱床の迷宮』は、浅い階層では良質な鉱石が手に入るのだけど、11階層以降は環境がガラリと変わるらしい。本から得た情報によると、高品質な野菜や『調味料の実』などが手に入るとのことで。


「この『調味料の実』っていうのが、不思議なのよね」


 調味料の実は、人間の大人の拳大の大きさをした木の実で、『ソルトの実』や『シュガーの実』、『コショウの実』、『アカカラシの実』などのほか、『ショウユの実』や『ミソの実』、『ダシの実』などもあるらしい。使い方は至って簡単で、実を殻ごとすり潰して粉末状にし、それを調味料として使うとのこと。

 さらにこの世界には『アブラの木』という、世界中の何処にでも生えている低木があり、これはなんと根以外の部分ーー葉や花、実、枝や幹ーーを温めると油になる、というトンデモ植物だった。もちろん、温める時は主に湯煎で温めるとのこと。樹木全体が油なので、火をつけるとすぐに燃え尽きてしまうらしい。


 閑話休題。そういう訳で、私は11階層以降を目指すことにした。2〜10階層は、《隠密》で姿と気配を隠し、ついでに《飛翔》も使ってさっさと通り過ぎることにする。


「(洞窟の上の方を飛んでいると、魔物を全部スルーできるのは楽よね)」


 たとえ通路が複数の魔物に塞がれていたりしても、魔物達の頭上を飛び越えて行けば全く問題ない。それに地面を走るよりも格段に速いので、私はそう時間をかけずに目的地である11階層へと辿り着いた。


 11階層は、温暖な気候の森林地帯だった。日の当たらない洞窟は少しばかり寒かったので、急激な気温の変化に驚いてしまった。


「(でも、寒いよりは暖かい方が良いわね)」


 今の私は猫だし、日陰よりは日向が好きみたい…というか、燦々と降り注ぐ日光を浴びていると無性にお昼寝がしたくなってくるのは、もしや猫の習性?なのかな。


 それはともかくとして。私は目の前に広がる恵み豊かな森を探索すべく、《隠密》をかけたまま低空飛行で飛び始めた。するとそうしない内に、大きなウサギがもしゃもしゃと草を食んでいるのを発見した。


「(お、第一村人…じゃない、第一獲物発見!)」


 《鑑定》してみると、ウサギは『ラージラビット』という名称で、そのお肉はポピュラーな食用肉であることが判明した。というか、《鑑定》結果に"肉質は柔らかく、美味"って書かれているのがシュールすぎる……まあ、遠慮なく狩るんですけどね!美味しいお肉は大歓迎だ!

 ラージラビットを《爪術》でスパッと仕留め、解体は後回しにして丸ごと《ストレージ》へと放り込む。周囲にもう何匹かラージラビットがいたので、それらも同じく仕留めて回収した。そうして狩りをしながらも、アブラの木や調味料の実を見つけては採集してゆく。


 やがて少し開けた場所に出て、そこに植わっていたものを見て私はテンションを上げた。


「(トマトにナス、キュウリ、キャベツ…あとは、あれはジャガイモに、サツマイモかしら?あ、キノコもある!至れり尽くせりね…!)」


 はい、全力で収穫しましたよ。最初に見えた野菜以外にも、ホウレンソウやアスパラガス、ニンジン、タマネギ、カボチャ等など、多様な種類の野菜達が等間隔で植えられていた。うーん、迷宮って不思議。でも正直有り難いのでヨシ。

 それに迷宮の良い所は、一度迷宮を出れば中の状況がリセットされる所だろう。つまり、迷宮を出入りすればこの野菜畑も復活するということだ。次のために残す、とかしなくても良いのはとても楽だよね。


 さて、心ゆくまで野菜等を収穫したあとは、お肉の調達をメインに動いた。大きな黒いオンドリ『ブラックルースター』、大きな白いメンドリ『ホワイトヘン』、迷彩柄のウシとブタ『メイサイウシ』と『メイサイブタ』、立派な角を持ったシカ『オオツノジカ』などを、片っ端から仕留めてゆく。なお《鑑定》結果は皆、"美味"だ。

 ちなみにあとから知ったのだけど、この世界の魔物のお肉は総じて美味らしい。というのも、魔物は血液の代わりに魔素ーー魔力の素ーーが体内を巡っており、血抜きが必要ないのだとか。ご都合ファンタジーかな?助かるけど。


「そろそろ解体しようかしらね…」


 11階層の入り口付近にある安全地帯に戻ってきた私は、仕留めた獲物を1体ずつ取り出しては、四苦八苦しながらなんとか解体していった。ここでも《爪術》が大活躍だった。私の爪、万能ツールか何かなんだろうか?

 とりあえず、《ストレージ》にお肉と魔石ーー魔物の"核"である魔力の結晶ーーをしまい、毛皮も《製作》スキルで鞣したあとでしまう。それから、安全地帯の中に拠点を作ることにした。

 まずは魔法で土を成型し、テーブルと椅子、寝床を作る。そしてテーブルにその辺の葉から《製作》したテーブルクロスを掛けて、椅子と寝床に鞣した毛皮を敷いた。

 そこから少し離れた場所に焚き火台を置き、その傍に土製のキッチンカウンターを作る。カウンターの上に木製のまな板を置いて、包丁などの調理器具を取り出して、と。


「うん、準備完了」


 さあ、お料理の時間だ。《人化》スキルで猫耳幼女の姿になり、エプロンを《製作》して装着する。エプロンを付けただけで、ちょっと料理上手になった気がするよね。


「あくまで気がするだけ、だけど。…さて、やりますか」


 手始めに、油と調味料の準備から。アブラの木を湯煎で溶かし、出来上がった油を鉄製の保存容器に注いでおく。調味料の実は《爪術》で削り、粉末状にして、こちらは木製の容器にそれぞれ詰めてゆく。これで、油と調味料は準備オーケーだ。


 なお、本日のメニューは『ラージラビットのポトフ』だ。なんと調味料の実の中に『コンソメの実』があったので、お手軽に美味しい煮込み料理を作れるのだ。

 刻んだ野菜やお肉を水と一緒に鍋に入れて、じっくり煮込んでゆく。味付けは、コンソメと塩コショウで、と。


「そろそろ良いかな?お味は…あっつ!」


 味見しようとして、自分が猫舌なことを知った。うん、まあ猫だものね…。念入りに冷ましてから味見してみると、無事美味しく出来上がっていた。なんというか、ホッとする味だ。

 木製の器にポトフを盛って、残りは鍋ごと《ストレージ》に入れる。包丁やまな板なども全て魔法で水洗いして乾かしてから《ストレージ》にしまった。


「そろそろ冷めたかしら……うん、ちょうど良い熱さね。いただきます」


 テーブルに着き、ポトフをゆっくりと味わう。我ながら美味しく出来た…というよりも、素材が良いのだろう。私は特に料理上手って訳ではなさそうだしね。

 …というか、普通にタマネギとか食べちゃってるけど、大丈夫そうね?さすが神獣。


 さて、食事のあとはお風呂だ。《ストレージ》からタライを取り出して、お湯を張る。《人化》を解いて猫に戻り、ざぷん、とお風呂に浸かった。


「ふぅー……朝焼けが綺麗ね…」


 この迷宮の時間経過は外界と連動している。そして、今は夜が明けたところだった。夜通し作業をしていたけれど、テンションが高めだったこともあり、眠気とかはなかったのだけど……お風呂に入ったら気が緩んだのか、今とても眠い。寝落ちしそうだったので、お風呂からは早めに上がることにした。

 魔法で身体を乾かしタライを片付けたあと、寝床に潜り込む。敷いてあるラージラビットの毛皮は、ふわふわで気持ち良かった。そしてものすごく眠気を誘われる。

 ああー…おやすみなさい……ぐぅ…。



 次に意識が覚醒した時には、太陽は真上近くまで昇っていた。つまり今は昼前。寝床で身体を伸ばしながら、今日の予定を考える。

 迷宮にやって来た主な目的ーー調理道具の作成ーーは達成した。ついでにお肉や野菜、調味料などの調達も出来た。ただ、数が心許ないので、今日は次階層へと進んで食材集めに励もうと思う。それと料理のストックも多めに作っておきたい。




 ーーーそうして、迷宮の中で過ごし始めて、およそ1ヶ月…30日ほどが経った。私は『鉱床の迷宮』の最下層である50階層に来ており、今しがたこの迷宮のボスである『ビッグアイアンゴーレム』をサクッと倒したところだった。

 ボス部屋の奥に進むと、そこにはミスリルの鉱床が多数あったので、とりあえず《爪術》で全て刈り取った。…やってから思ったけど、私の爪ってミスリルも抵抗なく斬れるのね?人に向けたら大変…というか、凄惨なことになりそう…。


 それはさておき、勢い余って迷宮を踏破してしまったけれど、そろそろ迷宮から出た方が良いのかな?……資源を散々荒らしたので、一度迷宮の外に出て、迷宮内の環境をリセットした方が良いだろうとは思うけど。

 なんせ、《ストレージ》の容量が無限かつ時間停止機能があるのを良いことに、鉱石も木材も、野菜や調味料の実なども採れるだけ採ってきてあった。もちろん魔物のお肉や魔石、毛皮なども大量にある。外界でやったらたぶん生態系が狂うほどに乱獲したので…。


 ちなみに、木材は住居などを建てるために必要かと思って大量に採集しておいた。ついでに窓ガラスの材料となる珪砂なども採集してある。

 今のところ住居を建てるのは、ベレドナ大森林の奥地、人の足では到底辿り着けないような場所にしようと思っている。というのも、本で得た知識によるとーーーベレドナ大森林は大陸の中央に位置する広大な森であり、ネイデンシアのある『アーレンス王国』を含む6つの国が大森林を囲むように存在しているらしい。そして、ベレドナ大森林自体は何処の国にも属していないとのことだった。

 これを知った時、私は思った。「ベレドナ大森林の一番奥に住居を構えたら、容易に他人に干渉されることはないのではないか」、と。つまりそこは、この世界では現人神扱いされそうな"神獣"である私、リーゼロッテの安寧の地となりうる場所、ということだ。…ちょっとカッコ良く言ってみたけど、ようは『人目を気にせず、安心して眠れるお家』だ。現状、私は根無し草なので、活動拠点という意味でも自宅は欲しい。


「(それに、自分で好きなように家を建てられるっていうのも、楽しそうよね)」


 それもこれも、全て《製作》スキルというチートな能力があるおかげだ。改めて、便利な能力達を授けてくれた女神様に感謝の祈りを捧げておく。


 …さて、そろそろ迷宮を出ようかな。目指すはベレドナ大森林の最奥だ。




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