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フェニックス・マンVSユニコーン・マン~大いなる者と追跡者~  作者: SAND BATH
エピローグ:日常・再・変身!!
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他者から破壊され、自ら壊しもした半生。

 その叫びは人のものとは思えないほどに低く、禍々しかった。同時に音程も外れている。音楽を司るアムドゥシアスがそのような無様な声をあげるはずもなく、それは間違いなくユニコーンが己の自我のもとに張り上げた声だった。


 敗北の悔しさが滲み出ている。それだけではない。見失っているのだろう。ユニコーンの自我、一角徹也という男子もまた、アムドゥシアス同様に無様さとはかけ離れた存在だった。だからこそ取り憑かれてしまったのだろうが、おかげで徹也は己の存在を歪められてしまった。


「お前は、そんな奴じゃない」


 お前は僕とは違う。化物にならなければ何も現実を変えられなかった僕とは違う。化物にならなくたって充分うまくやっていける。その力は逆に目障りになるだろう。


 だから、折ってやった。


 フェニックスは着地すると、動きをとめて叫びつづけている無様なそいつに向かって、思いきり拳を突き出した。


「目を醒ませよ。お前は普通なんだ。そんな力なんてなくても良い、どこにでもいる普通の(イケメン)なんだよ、お前は」


 拳は命中し、鎧のように硬く盛り上がった胸部器官に亀裂をいれてやった。騎士の誇りの証である胸部プレートが使い物にならなくなる。その事実を刻まれてようやく、ユニコーンはその声を鎮めた。


 フェニックスは、それでも満足できなかった。黙ったからといって許されるわけではない。己を見失わせる、その過ぎた力の根源を取り払わなければならない。そうでなくては、またいつ狂ってしまうか知れたものではない。


 追跡者の力を完全に摘出する必要がある。


 フェニックスは炎翼を左右に広げ、構えをとった。そして憎悪で燃えた両の瞳を、ユニコーンの背後――夜闇に同化する影に向けた。


 その意図を察知してか、ユニコーンは一転して呻き声をあげはじめた。


「やめろぉ!」

「何を?」


 ユニコーンは聡明だった。わざわざ口で言わなくても視線だけでフェニックスの意図を見抜く。フェニックスはその能力の高さを見せつけられて、瞳から漏らす憎悪の炎を暗くした。他人の気持ちが読めるなら、先生からの覚えもさぞいいことだろう。


「やめてくれ。これは俺の、これからの本当の俺の人生を、つくってくれるものなんだ」

「でも、今も呑まれかけた。妹を殺した次は、僕を殺そうとした。確かに僕は、お前にとってはお前の妹ほど大事な奴じゃないのかも知れない。お前の中じゃ、僕はどうせ殺したって構わない奴だって分類されてるのかも知れない。でも、殺される僕は、たまったものじゃないんだよ」

「ふざけるなよ、テメエ、バケモノのくせに」

「もうそれでいいよ。そういうお前は、化物じゃないんだ。もうこれから、化物じゃなくなるんだ。なあ、喜べよ」

「違う、それは俺が力を使いこなして、それで……俺の努力で、そうなることを目指すんだ。お前に押しつけられるものじゃない!」

「そうとわかってるなら、僕を殺そうとしたことを後悔してくれよ。これはその罰だと思えばいい」

「さっきから、ふざけやがって」


 口調こそいつもどおりだが、ユニコーンは一歩も動けない。黒炎による捕縛がまだ有効なのだ。フェニックスの封撃幽殺(バニッシュストライク)はまだ、終わってはいなかった。


 もう封撃幽殺とも呼べないほど長引いて本来の(フォーム)を失ってはいても、効力は変わらない。捕縛した敵を無力化し、あるいは殺傷するフェニックスの封撃幽殺は、殺傷の効力を取り外したことで遅延することになったが、いまやっと最終段階に到達する。


 フェニックスは、巧は、一歩踏み込んだ。さらに一歩、一歩と近づいていく。そして、ユニコーンの額――すでに折れている角の、無様に残った根元の部分に向かって拳を突き出す。横から、強かに打ち込んだ。


 一撃だった。一発で良かった。ユニコーンは今度こそ意識を失ったのか真後ろに倒れた。直撃の際のうめき声を漏らしてからは、何の言葉も発さなくなった。


 横から殴られたことで角の根元は粉々に粉砕されていた。真正面から殴っていたら陥没してユニコーンの額を破壊し脳に損傷を与え、間違って殺してしまう可能性があった。だから横からやった。


 蹴って折った追跡者の力の象徴を、拳で完全に破砕する。ユニコーンをユニコーンたらしめる権能と尊厳を破壊し、命を奪わずに打ち倒す。


 殺傷の効力が人間ではなく追跡者を排除し、一角徹也の体から引き離す。その証明として闇に同化していた影が消え、アマテラスがもたらす光に一角徹也が照らされた。


 ここに封撃幽殺は完成する。当然、大いなる者から課された試練もこれでクリアだ。


 そしてフェニックス――藤堂巧の、一角徹也に対する復讐もひとまずは完了といえた。


 フェニックスは天を仰ぎ見た。アマテラスがいるのであろう白い光の中心をみあげて、頷いた。


 それでもアマテラスの姿は、どこにも見えなかった。



 藤堂巧は工場の敷地のなかで仰向けに倒れた。現在時刻は不明だが、まだ空に朝日は昇っていない。アマテラスも去ったのか、夜の空はいつもどおりの闇と、わずかばかりの星をちらつかせるだけだった。


 ウカノミタマの領地である廃神社も消えていた。妖狐もいまは去っている。近くには一角徹也が倒れているが、気絶しているのか、ピクリとも動かない。だがよく見れば胸はかすかに上下しているから、生きているということはわかる。それだけで十分だった。


 いったい何分間、あるいは何時間、戦いづめだったのだろう。考えたくもなかった。一度倒れたら立ち上がることさえできなくなった。肉体はすでに限界を迎えていた。ひょっとしたら夜の冷気にあてられて風邪をひくかも知れないし、そのまま死んでしまう可能性も脳裏をよぎったが、それも含めてもう全部どうでも良いと思えた。


 この戦いで、一番気にくわない奴を二人も処分することができた。追跡者(バエル)魔人(アムドゥシアス)、あるいは、ひと柱(バアル)一人(ユニコーン)。あとはいじめを黙認した担任と、その関係の教師たちを抹消すればすべての復讐は完了するが、担当クラスの全員行方不明となったあの事件をうけて福原がすでに処分されているとなれば、もう殺さずに放置した方がより精度の高い復讐になるかもしれず、そうなるともう、巧が立ち上がる理由もなくなってしまう。


(やりきった。もう、ぜんぶ)


 このうえもない満足感が巧の胸を満たしていた。肉体の疲労も、全身の痛みも、何もかもどうでも良くなるくらいの多幸感が巧を恍惚とさせていた。もう人生なんてどうでもいい。


 自分の人生はすでに破壊されていた。それがわからないほど巧は馬鹿ではなかった。それはいじめのせいで、ということもできるが、その一方でフェネクスの力を借りて自ら犯してしまった罪の多さのせいで、破壊されたともいえた。自分の人生の一部は、誰でもない自分が破壊したのだ。


 今なら、それを認めることができる。


 まともな学校生活を送れなくなったのはいじめのせいだが、いじめの主犯を含めた生徒全員を殺したことで学校生活という概念そのものを人生から切り取ってしまったのは、巧自身にほかならない。


 学校生活から踏み外した挙げ句、学校だけでなく警察にも土をつけた藤堂巧という人間は、“組織”から追われるまでもなく社会の敵として認識されることになる。学校生活はおろかまともな社会生活すら平穏に過ごせない。いまこうして倒れたまま休んでいられる時間が、人生最後の休息になるかも知れなかった。


 現実はやはり、つまらない。そう結論せざるを得なかった。腐っているといってもいい。


(僕は僕の手で人生を……)


 夜空にむかって手を伸ばす気力もなければ、いつも心に唱えてきた奮起の文句も、いまはその先が出てこない。どれだけ手を伸ばしても望む現実には届かない。どれだけ切り拓いたところで、他人に認められなければ狩られてしまう立場に陥るのが人の社会の、暗黙の掟だった。


 もとはといえば組織の脅迫から両親を守るために戦いに繰り出した巧だったが、ひょっとしたら今ごろは警察が家にやってきて、両親を連れ去っているかも知れない。人の社会とはそれほどに、一度敵とみなした者には残酷なのだということは、学校側の対応と組織との戦いのなかで嫌というほど思い知った。


(お父さん、お母さん……くそ)


 そこに思い当たった瞬間、壮絶な怒りが巧を震わせた。それは鼓動さえ速めて、全身の気だるさを一瞬にして吹き飛ばした。頭のなかを真っ白にスパークさせるとともに、肉体の限界を認識していた脳機能もまた麻痺を起こしたらしく、全身を縛っていた気だるさが消し飛んだ。


 巧は立ち上がった。ふらつくが、問題はなかった。一歩を踏み出し、顔をあげた。巧はそして、口もとをゆがめた。呆れたのだ。


 組織のメンバーと思われる目出し帽をかぶった戦闘員が、十メートルほどの間隔をあけて包囲していた。そのなかには魔書騎士(グリモナイト)はいない。下っ端の奴らだけで十分と判断したのだろう。


「なめるなよ、ニンゲンどもが」


 絞り出すように吐き捨てた。巧はその背中から炎の翼を迸らせると、再びフェニックスに変身した。一刻もはやく両親を守らなければならない。あのあたたかな家庭……唯一の居場所まで社会にとりあげられてしまったら、もう僕が生きる理由さえなくなってしまう。


 フェニックスは炎の翼をはためかせた。

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