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フェニックス・マンVSユニコーン・マン~大いなる者と追跡者~  作者: SAND BATH
プロローグ:日常・変身!
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ヒーローなんてほど遠い日常。

 波風を立てないことが最善だと思っていた。周りに影響を与えないことが正しいと思っていた。優しい人間であること、他人をひたすらに許しつづけることが、良い男であるということだと思っていた。


 アニメや特撮、時代劇。テレビでやっていた。そこで描かれる正義のヒーローたちに憧れたのだ。敵を裁き、仲間を助けるヒーロー。残虐な敵は容赦なく打ち倒すものの、裏切った仲間に対しては許しを与える。


 許せる男になろう。あのヒーローのように。


 残虐な敵には容赦しない、ヒーローの冷徹な側面を追い求める努力を怠ったままであるということは、彼は自覚していなかったが。


 痛い目をみなければ学ばない。これが人間社会の洗礼であるということは、心優しい両親は、ついに教えてくれなかった。

 

 両親に教わらなかったことは、学校で教わることになる。



 やり返せば波風が立つ。言い返せば周りに影響が出る。優しい人間であるなら、小言のひとつくらいは許してやれ。夢想を追い求める自分が己をそう叱咤する。


 だから、巧は無礼な言葉を許した。


『お前、ぼっちなんだな。おい、ぼっち。コミュ障。誰にも相手されないなら、俺が友だちにしてやるよ。なあ、良い話だろ』


 大和田猛に出会って最初に言われたのがこれだった。睨みつけようとも思ったが、猛は笑顔だった。なんの悪気もなく言っている。悪気がないなら、これはきっと悪ではない。ヒーロー物でいえば、悪に利用されてしまう小ずるい男のポジションだ。


 だから許した。あのヒーローのように。


「うん。ありがとう。いいよ」答えてしまった。


 一度でも許した瞬間エスカレートしていくということは、ヒーローも教えてくれなかった。


『この野郎。馬鹿親に甘やかされてっから、こうなるんだよ。お小遣い減らしてもらえや。な?』


 殴られ、財布からお札を1枚、抜かれた。それがほとんど毎日つづいた。学校の敷地内で行われるいじめではなかった。猛は2人の“友だち”を引き連れ、学校に入る前の通学路で行為に及ぶ。


 誰もいない公園で拘束し、好きなだけ殴って、最後に財布からお金をとる。すぐに習慣になった。


 何も買っていないのに減っていく小遣い。両親、特に母親に金遣いが荒くなったと小言。笑って頭を下げて、減額は勘弁して、と頼み込む。


 そんな高校生活が毎日つづいて、部活も勉強も何もしないまま夏になってしまった。


 憧れていたものになりたかった。せめて、優しい男には。


 現実は無情だった。優しい男ではなく、単なる操り人形、あるいはサンドバッグがひとつできあがっただけで、ヒーローとはほど遠い、虫の如き弱小な人間が僕なんだと、巧は自覚するしかなくなった。


 これが、巧が学校から教わったことだ。


 殴られて、お金をとられて、ひとり公園に仰向けになって、猛とその取り巻き2人の笑い声が遠く聞こえる、そんな清々しい晴天の日に得た、絶望的な自覚だ。 

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