二人目の攻略対象(ヘタレ王子)
結局何とも言えない顔で私がケーキを食べ終わるまで部屋にいたヴィルバートは、おずおずと差し出したお皿を持って出ていった。先は長い。
今度こそリアを呼ぶためにベルを鳴らす。お呼びでしょうかと朗らかに笑う彼女によってヴィルバートが下げていった室温がやんわりと上がった気がする。錯覚である。
「リア、私の婚約者って…」
そう切り出した私に、リアの眉がほんの少し困ったように下げられる。
「フェリシア様の婚約者様はアルヴィン・オルレアン様、王位継承権第一位でいらっしゃいます」
やっぱりそこは変わってないよね。
第一王子アルヴィン・オルレアン。優しくて優秀だけど少しヘタレで、傍若無人なフェリシアに疲れ果てながらも聖女を無碍にできず強く言えなかった王子が、ヒロインと出会ってからただ優秀なだけでは国を、聖女となったヒロインを守れないと気が付き、王としての強さを手に入れていく――みたいなストーリーだったはず。ヴィルバートが黒、アルヴィンは白のイメージカラーだった。
でもどうしてそんな顔をするんだろう。そんな疑問が顔に出ていたのか、リアが言いづらそうに口を開いた。
「その…フェリシア様とはあまり…関係が良好とは言い難く…」
さっきまでは穏やかに話していたリアがこの濁し様。既に想定の5倍は不仲と見て良さそうだ。
「ごめんなさい、言いづらかったよね。教えてくれてありがとう」「いえ何でもおっしゃってください、いちばん大変なのはフェリシア様ですもの」「リア…」
ちょっと泣きそう。ヴィルバートからのブリザードを浴びたあとだからか、リアの暖かさが沁みる。
「それで、出来たらアルヴィン殿下にお会いしておきたいなぁと思って、ほら仮にも婚約者なら記憶喪失とかも説明しておいたほうがいいかなと思って…」「まぁ…!」「無理ならいいの!」「いえ!決してそんなことはなく…その、王子殿下は婚約者の令嬢と1ヶ月に1度必ず会うのがしきたりでございます。」「…え?そうなの?」
「はい。ただ、3ヶ月前のお茶会でフェリシア様が「ここに来るとイライラするのよ!」と叫ばれてティーポットを王宮の侍女に向かって投げ壊してから…まだお呼びがかかっておらず…」
申し訳ありません!と勢いよく頭を下げるリアには同情しかない。声真似上手だね。
「むしろごめんね…色々と…」「とんでもないことです!」
となれば自分からコンタクトをとるしかない。入学式まであと2ヶ月しかないことを考えても、こういうことは早いほうがいい。
「アルヴィン殿下にお手紙は書ける?」「もちろんですわ、お忙しいでしょうからお返事は少しかかるかもしれませんが」「もちろん!じゃあ書いたら渡すね」
貴族っぽい謝罪文を書くか悩んだけれど、結局こねくり回した言葉のかわりに誠意をたっぷり込めておいた。髪とか剃ったほうがいいかなとリアに聞いたところ、ここにはない文化だったようで白目をむいていた。
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