表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

今世はどうやらハードモード

「やはり記憶喪失、ということでしょうか…?」

「全く覚えていないわけじゃないんです、その、所々抜けているというか…」

「お嬢様が敬語を……!本当に記憶が無いのですね…おいたわしい…!」



たどたどしい私の言葉に涙を浮かべた彼女は先程私を介抱してくれた侍女だ。髪色こそ茶色でありふれているものの、大きなグリーンの瞳と小さな顔がかわいらしい。どことなく小動物みを感じさせるがフェリシア相手に話し方は穏やかで落ち着いている。


他の人はどうやらこの部屋を避けているようで、目が覚めてから私が会ったのは主治医らしきおじいちゃんとこの侍女だけだった。公爵家の一人娘が倒れたのに。これもフェリシアの人徳が為せる技なのだろうか、さすがだ、泣けてくる。


「ええとごめんなさい、お名前は…」「失礼しました!アメリア・オルコットと申します。フェリシア様からはリアと呼ばれておりました、敬語なんておやめになってください」「あ、ありがとうリア………リア、私が聖女になったのは12歳で合ってる?」「はい!フェリシア様は聖力測定で史上初の最高値を出され、最年少で聖女様となりました!」


(やっばり………あのフェリシア・リシャールなんだ……)



平凡な女子高生だった私が友達にそそのかされてのめり込んだ乙女ゲーム、「らぶきゅあ♡セイントスクールデイズ」。田舎男爵令嬢のヒロインが、15歳を迎えた貴族がこぞって通うミラルーツ学園で出会う多種多様なイケメンたちと恋に落ち個別ルートに入り、どのルートでも最終的には聖女となる典型的なシンデレラストーリーである。

この国では稀に、女性の左手の甲に薔薇の模様が浮かび上がることがあった。聖印と呼ばれるそれは、その人が紛れもなく聖女であることの証拠となる。



タイトルからして鼻で笑われそうなこのゲームがそこそこの人気を博していたのには理由がある。このゲームはとにかく作画が神だった。内容もストーリーも中の中であるにも関わらず、キャラの美麗さだけはずば抜けていた。かくいう私も攻略対象達があまりにイケメンだったためにプレイしていた一人である。悪役サイドのフェリシアも、聖女のイメージとは程遠いものの、それはそれは性格の悪そうな美女といった出で立ちだった。



フェリシア・リシャールは今代の聖女だ。ヒロインの手に聖印が現れるまでは、の話だが。イケメンを次々に落としちやほやされ、果ては自分の婚約者までもが夢中になったヒロインを許せなかったフェリシアは毎日のように執拗な嫌がらせを行う。

ある日は水をかけ、ある日は階段から突き落とし、またある日はナイフでスカートを切り裂いた。いくら公爵令嬢でも庇いきれないこれらの行為が揉み消されていたのは、偏に彼女が聖女であり、第一王子の婚約者だったからである。


だがそれも長くは続かない。フェリシアが18歳になり、卒業を目前に控えた2月。突然ヒロインの左手に薔薇が浮かび上がるのだ。この国の歴史上、聖女が同時に2人いた事はない。どういうことかと貴族達が騒ぎ出すと同時に、第一王子はどのルートでも(・・・・・・・)実に堂々とフェリシアを断罪する。



『フェリシア・リシャールは莫大な聖力を持って生まれながらその力を使うことを怠り、それどころか周りのものを痛めつけてばかりいたために神から見放された、今となっては偽物の聖女である』と。



聖女の力――聖力は発揮してから基本的に(・・・・)50年は衰えることなく、それ以降は緩やかに薄まっていく。そして完全に感知されなくなると、長くて100年、早くて5年以内に次の聖女が生まれる。

ゲームのフェリシアは12歳という若さで聖女となったこともあり、自分の聖力の強さに驕っていた。自分の能力は絶対のものだ、と。だがどんなことにも例外はある。今までそんな聖女がいなかったために知られていなかったことだが、あまりにその力が使われない場合聖力は体内で固まり、使うことができなくなるのだ。

12,13歳の時点では腹に穴が開いていようが足が折れていようが息さえあれば全てを治せるほどだったフェリシアの力は、断罪される18歳の時にはもう掠り傷も治せないほど衰えていた。


(確かヒロインはこんな感じで…)

直ぐ側のテーブルに置かれていた花に目をやり、何となく手を伸ばして力を込めてみる。すると小さな新しい蕾がつき、心なしか活き活きして見える。

「きれいですね…!流石ですお嬢様!」「あ、ありがとう…」

目を輝かせて拍手してくれるリアに微笑みながら、内心私は真っ青になっていた。

(嘘でしょ?!今の時点でもうこれだけしか使えないの?!)


本来フェリシアほどの聖力を持っていればこの花は天井を突き破るほど成長し、壁を壊すほど大量に咲く。こんな子供だましの聖力をプライドの高いフェリシアが人前で使うはずがない。そして更に聖力は固まりどんどん力が弱まって行き、フェリシアが生きているにも関わらず次代の聖女が生まれるという異様な事態に発展したのだろう。

(最悪の悪循環だ………)


というか今からこんな調子で、断罪までにどうにかできるのだろうか。死にたくない。痛いのも怖いのも中身平凡女子高生の私が全力で拒否している。

日本での前世の記憶は今世のものよりはっきりしているものの、名前や家族、死んだときの事はぼんやりとしか思い出せない。なんとなく優しい普通の家庭だったと思うけれど、高校生までの記憶しかない状態で転生しているということは若いうちに死んだのだろう。


前世の記憶はほぼゲームのシナリオのみ。ゲーム通りの人との関係性や自分の能力は知っているけれど、そうでない部分の今世の記憶も殆ど無い。無理ゲーだ。それでも、2回も高校生のうちに死ぬなんてとんでもない。私は手をぐっと握りしめた。


「生き延びなきゃ………」「?何かおっしゃいましたか?」

「……リア、今私は何歳?今日は何月何日?」「フェリシア様は先日15歳になられました!今日は2月の10日でございます。」


(15歳………18歳の誕生日、フェリシア処刑の三年前…)



入学式の、2ヶ月前。



「………ハードモードすぎる!」


神様、私は前世で気づかないうちに何か大罪にでも手を染めていたのでしょうか。15歳じゃどうせ攻略対象達の好感度は既にマイナスをぶっちぎっているので、恋したいとか知識チートとか、もうそういうのは望みません。

どうか、どうか今世こそ大往生させてください!

いいねや感想励みになります、よければぜひ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ