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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
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景都と咲哉の家事情 3

 お泊り二日目は、役割分担で家事をした。

 あきの小料理屋『女心と秋の空』ではタコ焼きパーティーを楽しみ、厨房で洗い物なども手伝った。

 そして咲哉さくやの家へ戻り、流石さすがは風呂掃除、景都けいとは冷蔵庫の中身を見て翌朝のメニューを考えている。

 学校の休み時間に3人で決めた分担だ。

 咲哉は洗濯やベッドメイキングをしながら、流石と景都の様子を眺めていた。

「目玉焼きと……キャベツとキュウリとハムのサラダかな。マヨネーズで混ぜれば美味しい」

「明日は学校から帰ったら、朝飯用の食材を買い出しに行こうか」

 と、咲哉はキッチンの景都に声をかけた。

「あ、そっか。いつもは、お買い物も咲哉がしてるんだね」

「いつもはネットスーパーで適当に頼んじゃうんだけどな。荷物持ちがいてくれるから、直接行って食べたいもの買って来よう」

 咲哉が言うと、景都も頷いて、

「流石、力持ちだもんね」

 と、言っている。

「おーい、掃除終わったぞ。風呂湧いたら入ろうぜ」

 と、流石が顔を出した。

「掃除、ありがとな」

「家でも風呂掃除はやってるけどさ。こんなデカい風呂の掃除したの初めてだよ」

「あ、僕も家でお風呂掃除してるよ」

「へー」

 ウィーンと音が聞こえ、3人が目を向けると猛スピードのお掃除ロボット、タンゴが廊下を通り過ぎて行った。

「タンゴに風呂掃除もやってくれる機能とか、あると良いんだけどな」

「……あのタンゴ、スピード出し過ぎだよ」

「設定とかいじっても、なんかあのスピードになっちゃうんだよ。うちのタンゴ、移動速度とかセンサーとか、みんなどっかおかしいんだ」

 そう言う咲哉の足元に、ゆっくりと近付いてきた別のタンゴが、ゴツンとぶつかった。

「……痛いし」

「痛い音したよぉ。大丈夫?」

「うん」

「母ちゃんが欲しがってたけど、タンゴってそんなに賢い訳じゃないのか」

 と、言う、流石の言葉にも反応するように、咲哉にぶつかったタンゴが流石の足元に突進していく。

「うわっ、言語理解してるっ。賢い!」

「いや、そんな機能ないし、人にぶつかるとか故障だから」

 などと言う咲哉にもタンゴが向かって行くので、景都は、

「AIって進化してるなぁ」

 と、感心するのだった。



 その夜も、3人はクイーンサイズベッドに川の字で横になった。

「リビングの本棚にあった」

 と、流石が、一冊のアルバムを持ち出して来ている。

 ベッドで3人は身を寄せ合い、アルバムを開いた。

「リビングなんかに置いてたのか。変な写真ないかな」

 と、咲哉が苦笑いしている。

「リビングに客が来たら、見せるために置いてるんだろ。変な写真は無いんじゃね?」

「それもそうか」

 小学校入学前の、幼い咲哉の写真が並ぶ。

「賢そうなガキだなぁ」

 などと、流石が言っている。

「それ、よく言われた」

 と、咲哉も自分で言っている。

 しかし、一緒に写っているのは外国人の子どもばかりだ。景都が写真を指差し、

「これ、幼稚園?」

 と、聞いた。

「うん。それは卒園式の写真だよ」

「外人の子ばっかりだな。インターナショナルスクールみたいなところ行ってたのか?」

 と、流石も聞く。

「いや、違うよ。ちょっと金持ちの子は多かったけど、普通の幼稚園だよ。エディンバラの」

 と、咲哉が答えた。

「……それ、どこ?」

「イギリス」

「イギリスっ?」

「うん。父さんの社宅の近くだった」

 流石と景都が目を丸くした。

「お前、帰国子女だったのか」

「幼稚園はそっちだったの?」

「あぁ、うん。言ってなかったっけ。日本に住むようになったの、小学校からなんだよ。それまではイギリスの父さんの所と、フランスにいた母さんの所を行ったり来たりしてた。違う国だけど、電車で行き来できるし」

「えっ? 陸続きだっけ?」

「いやいや、イギリスは島国だけど、特急が走ってるんだよ」

「マジか……」

「父さんが絶対にいつか帰って来たいって言ってこの家買ってあったから、日本にもちょくちょく帰って来てたけどな。その時に秋さんが作ってくれた飯食って、日本に住みたいって思ったんだよ」

「理由、それなのっ?」

 もう一度、ふたりが目を丸くする。

「それだけじゃないけど、大部分がそれだよ。食事って、子どもが育つために必要な栄養をとる事としか思ってなかったから、味がどうとか美味しいとかって感覚が無かったんだよ。秋さんのご飯がかなり衝撃だったんだ」

「いや、子どもがその感覚ってのもどうかと思うけど、秋さんすげえな」

「うん」

 流石に言われ、咲哉は真顔で頷いている。

「じゃあ、僕たちが咲哉と仲良くなれたのは秋さんのおかげなんだね」

 景都が言うと、咲哉はふふっと笑った。流石は首を傾げながら、

「ずっと外国に居て、よく普通に日本の小学校に入れたな」

 と、言った。

「それが実は日本語も微妙でさ。入学前、校長に呼ばれて色々聞かれたんだ。で、『お母さんにはちらし寿司と稲荷寿司の違いを説明できれば立派な日本人だって言われました』って校長に答えたのは覚えてる」

「発想がすでにインターナショナルじゃねえか?」

「とりあえず、俺が日本語で会話が出来るのかとか、保護者がインターナショナルなクレームを言い出しそうな様子はないかとか確認したかったんだと思うよ」

「で、ちらし寿司と稲荷寿司の違いを説明したの?」

「その時は、どっちも食った事なかったからさ。稲荷寿司の説明だけして、『ちらし寿司は小学校入学祝にお母さんが作ってくれると言ってました』って話したら、校長が『それは楽しみだね』っつって、入学できたんだよ」

「それ、小学校入る前でしょ? 5歳とか6歳の頃、僕だったら大人の人にそんなしっかりお話しできなかったよ」

 と、景都はアルバムをめくりながら言った。

「俺も。俺だったら、好きなのは稲荷寿司! とか言うくらいだったんじゃねぇかな」

 アルバムの写真は、小学校の入学式の様子になった。桜の木の下で、大きな茶色のランドセルを背負った咲哉と、今と変わらない美人の母、百合恵ゆりえが並んで写っている。

「そう言うさ、子どもらしい言葉とか日本の子ども同士の会話とかは全然わかんなかったから、しばらくはクラスの奴らの会話を聞いて覚えてた。流石のでかい声は聞き取りやすくて、実はいつも聞き耳たててたんだよ」

「マジか。俺なに言ってた?」

「サッカーする奴この指とまれー、とか?」

「あ、それ僕も覚えてる。男子がみんな駆け寄ってって指を掴んでる手を掴んで、手の団子みたいになっててちょっと気持ち悪かった」

 景都が言うと咲哉も笑いながら頷いた。

「僕たち、小学校1、2年の時は同じクラスだったんだよね。でも、あんまり一緒に遊んでなかったよね」

「そうだったな」

「よく覚えてるな。俺、小1の頃の事なんか、あんま覚えてねぇよ」

 と、流石は首を傾げている。

「でも楽しそうだったよ、流石は。いつもみんなの中心で目立ってた。だから生徒会長に指名したんだよ」

 と、言って、咲哉もアルバムのページをめくる。

「そんな理由だったのか」

「流石を指名したの、咲哉だったんだ」

「先に副会長を押し付けられてたからさ。先生に、じゃあ元気な生徒会長と、他のメンバーはどんな子が良いかなって聞かれて、あとは可愛い子ですかねって答えたら、景都が選ばれたんだよ」

「僕、可愛い子の枠だったんだ」

「町田先生のセンスもなかなか良いと思ったよ」

 町田先生は北小学校生徒会の顧問だ。

「お前は? 頭脳枠?」

「……あはは、言ってなかったっけ」

「聞いたっけ?」

 流石と景都が首を傾げた。

「小学校の生徒会なんて人気者が集まれば盛り上がるんだって言われて、流石の前の生徒会長も元気なタイプで、副会長が優しそうな女子だったから『次の副会長に必要なのはイケメンなんだ!』ってさ」

「まさかのイケメン枠だった」

 と、景都は目をパチパチさせる。

「イケメンで引き受けたのか、お前」

「それだけなら断るよ。でも、小学校の生徒会なんて重要なのはそういう部分だって説得されてさ。なんか学校の先生がそういういさぎよいのも面白いと思って、笑えたから引き受けた」

 と、言って、咲哉は笑った。

「すごいなぁ。僕なんか、なんとなく楽しそうで引き受けて、楽しいからやってたって感じだった」

「俺も」

「それで良いんだよ。小学生の生徒会は」

「確かに、そうかもな」

 アルバムのページは小学校の卒業式の写真になっていた。

「去年は、今が一番楽しいんだろうなって思ってたけど、普通に今の方が楽しい」

 咲哉が言いながら、小さくあくびをした。

「咲哉、眠くなってきたでしょ」

「うん。もう寝よう」

 そう言って、咲哉はアルバムを閉じた。

「不思議屋で、同じクラスにしてもらえて良かったよな。マジで」

 流石もしみじみ言いながら、大きなあくびをした。

「同じクラスになってなかったら、こうやってお泊りしたり、色々ビックリする事もなかったね」

 毛布の中で、景都は流石と咲哉の手を握った。

「きっと、これからもっと楽しい事があるんだぜ」

 流石が言うと、咲哉は景都に毛布を肩まで掛けてやりながら、

「うん」

 と、頷いた。

 景都も笑顔で頷いている。



 にぎやかな日々は、あっという間に過ぎた。

 月曜から金曜まで咲哉の家に泊まっていた景都は、自分の家に帰って来ている。土曜の昼に帰って来た母、宮子みやこと妹の京香きょうかを出迎えていた。

 小さい子どもではないのだが、まだまだ幼さの残る景都だ。数日ぶりに母の顔を見て泣きべそをかいていた。

「急に出かけちゃって寂しかったわね。でも、お泊りさせてもらって良かったわ」

 景都と面持ちのよく似た母、宮子は、泣きべそをかく景都を優しく抱きしめた。

「……やっぱり僕、お母さんが居ないとも明けない」

 と、泣きながら景都が言う。

「あら」

「お母さんがそういうこと言うから、自分でも言いだしちゃったよ」

 景都より頭ひとつ分大きく、しっかりした体格の妹、京香が景都の背後からその頭をぐりぐりと撫でている。スポーティーなジャージ姿がよく似合う少女だ。

「お母さん連れてっちゃってごめんね? 恥ずかしいから泣かないでくれる?」

 と、言って、大袈裟に溜め息を吐きだす京香の背後から、

「お父さんもひとりで寂しかった」

 と、父、昌侍しょうじも顔を出した。天井に届くと言っては大袈裟だが、長身巨体の父、昌侍も休日のためジャージ姿だ。妹の京香によく似た風貌ふうぼうだ。

「あっ、お父さんも、ごめんね。僕だけ友だちの家に行っちゃって」

「いいんだよ」

「じゃあ、景ちゃん。咲哉君の所にお土産持って行きましょうね」

「うん」

 両手で涙を擦ると、景都は元気に頷いた。

 『東京フルーツ』という関東の特産果物の形をした最中や饅頭のセットを、京香が土産に選んでいた。

 スッキリ青空が広がり、さわやかな陽気の休日。住宅街は静かだ。

 宮子と京香が、咲哉の家に目を丸くしている。

 景都がインターホンを押し、

「咲哉ー。お母さんたちと、東京のお土産持ってきた」

 と、声をかけた。

『わかった。ちょっと待ってて』

 カチャリと鍵の開く音が鳴ると、景都は通用門を開けて中に入った。

「門まで自動で鍵が開くんだ」

 と、京香が呟いている。

 初夏の花咲く庭を進んで行くと、玄関の前で咲哉が待っていた。

「こんにちは、咲哉君。景都がお世話掛けちゃって、ありがとうね」

 と、宮子は明るい笑顔で言った。「これ、東京のお土産なの」

「ありがとうございます。うちは今ひとりなんで、楽しかったです」

 と、咲哉は『東京フルーツ』の箱を受け取りながら答えた。

 景都と並んでいた京香は、ぺこりと頭を下げ、

「妹の京香です。兄がお世話になりました」

 と、言った。しっかりした妹だ。

「こちらこそ。言うほど似てなくないじゃないか、景都」

 と、咲哉が言うと、景都は嬉しそうな笑顔を見せる。

「本当?」

「うん」

「いつもありがとうね。咲哉君も、何かあったらいつでも声をかけてね。今度、うちにもご飯食べに来てね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、咲哉。また月曜日にね!」

「うん」

 景都は、頭ひとつ分大きな妹に手をつないでもらいながら、庭の通路を戻って行った。宮子ももう一度咲哉に会釈すると、ふたりの後を追って行く。

 庭の向こうから、

「キレイねぇ」

「うちもお花植えようよ」

 と、楽しげな声が聞こえてくる。

 景都たち3人が門を出ると、咲哉も薄く笑みを浮かべながら玄関の中へ戻って行った。



 門の前に、宮子の自転車がとめてある。

「冷蔵庫が空っぽだったから、お母さん、このままお買い物に行って来るわね。京ちゃん、景ちゃんとおうち帰っててね」

「わかった」

 妹の京香が、兄の景都と手をつないであげている。

「いってらっしゃい」

 慣れっこの景都も、素直に手をつないでもらっているのだ。

 宮子が自転車でスーパーへ出かけて行くと、京香は景都の手を引いて歩き出した。

「東京で、試合とかしたの?」

 歩きながら、景都が聞いた。

「した。また2位」

「すごいじゃん」

「すごくないよ。いつも同じ子に負けてるんだもん」

「柔道でも、そう言ってたね」

 水泳と柔道を習っている京香は、どちらも小学生の全国大会に出場している。

 そして、そのどちらでも準優勝が続いていた。

「景都」

「ん?」

 小学4年生の妹、京香は兄を景都と呼び捨てにしている。景都も慣れっこだ。

「景都は水泳と柔道、どっちやってる妹の方が良い?」

 と、京香が聞いた。

「水泳。柔道じゃ技かけられるから」

「あっそう」

「どっちかやめたいの?」

 と、景都も聞いてみる。

「やめたいわけないでしょ。でも両方やってちゃ専念できないの!」

「準優勝だったこと、気にしてるんだ」

「当り前でしょ。どっちも2位だもん。どっちかにすれば1位になれるんだよ」

「なに言ってんだよ。ひとつだけやってて優勝するより、ふたつ続けてどっちも準優勝の方がかっこいいじゃんか」

 力強く言う景都に、京香は真顔で目をパチパチさせた。

「……」

「どっちも諦めないのが京ちゃん。それでいいじゃん」

「まだ考え中だけどね……。東京フルーツ、もうひと箱うち用に買ってあるから。帰ったら食べていいよ」

「本当? あ、僕、埼玉ナシ食べる」

「茨城メロンじゃなかったの」

「最近は埼玉ナシがお気に入りなの」

「じゃあ、私は千葉ビワ食べる」

「東京フルーツって色々あって楽しいよね」

 姉弟に見える兄妹は、つないだ手を揺らしながら閑静な住宅地を歩いて行った。


次話は、しっかりホラーになります。

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