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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
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思い出 1

 疲れやすい咲哉(さくや)を休憩させるため、3人は学校帰りに人気(ひとけ)のない公園のベンチに寄ることがある。

 ブランコと、すべり台と砂場。

 大きな木の下にはベンチがあり、近くには水道も設置されている。

 3人の住む北区に昔からある公園だが、周囲には空き家や(やぶ)も多く、人通りは少ない場所だ。

 人目を気にせずオバケの話もできる。3人にとっては穴場スポットなのだ。

「あ。あの女の人、今日もいる」

 歩道から公園のベンチに目を向け、景都(けいと)がつぶやいた。

「……本当だ」

 と、咲哉はくたびれた蒼い顔で溜め息を吐き出した。

 その横で、流石(さすが)はポケットから小さい水晶玉を取り出す。

 水晶越しにベンチを見て、

「昨日と同じ人だな」

 と、流石も頷いた。

 水晶玉から目を離せば、ベンチには誰の姿も見えない。

 流石には、不思議屋でもらった水晶玉を通さなければ見ることのできない、幽霊の女性だ。木陰のベンチに、ひとりで腰掛けている。

 空き家の影に入り、咲哉は足を止めて息をついた。

「……今日も休憩できないな」

 咲哉と手をつないでいる景都は、

「咲哉。お顔、真っ青だよ」

 と、咲哉の蒼い顔を覗き込む。

「あっちのベンチは?」

 と、流石が指さす方向には、地域放送のスピーカーと電柱が並ぶ手前、木の下と同じベンチが設置されている。

「電線の真下だから、あっちのベンチは鳥のフンがいっぱいなんだよ」

 と、景都が言う。

「ノートでも破って敷くか?」

「えー。鳥のフンって、すごくバッチイんだよ」

「じゃあ、ブランコはどうだ? 座って休むくらいできるだろ」

「あ。いいかも!」

 頷く景都に、咲哉は、

「ブランコって、座ると揺れるんじゃないの?」

 と、古い鉄のブランコに目を向けながら聞いた。

「こがなきゃ揺れないだろ」

「咲哉、ブランコ初めて?」

 目をパチパチさせながら、景都は咲哉の手を引いて公園の入り口に向かって歩き出した。

 元々は砂の敷かれていた公園だが、カチカチの土も見え、所々雑草も生えている。先日に降った雨で、水たまりもできていた。

 あまり手入れはされていない。

 鉄のブランコも錆は目立つが、座面は割ときれいに見えた。

 4つ並んだブランコの一番端の鎖を掴んでみながら、咲哉は、

「子どものころ、ちょっと座ってみた事があるだけだ」

 と、言った。揺れ方を確認するようにブランコを揺らし、ゆっくりと座面に腰を下ろしてみる。

「地面に足つけてれば揺れないでしょ。ひと休みできそう?」

「うん」

「鎖、持ってた方がいいぞ。後ろにひっくり返らないように」

「なるほど」

 喘息もちで紫外線アレルギーでもある咲哉は、小さいころから外遊びはほとんどしていない。おまけに帰国子女だ。

 流石と景都は、咲哉が知らないことをいつも丁寧にレクチャーする。

「でも、ブランコ久しぶりだ」

 と、流石は隣のブランコに足をかけ、バランス良く立ち漕ぎして見せる。

「子どものころは、足揺らしてもブランコ揺れなくてさ。漕ぐって感覚が理解できなかったよ」

 景都はブランコの前の囲いに腰掛けながら、

「じゃあ、咲哉が元気な時にやってみようね」

 と、言った。

「うん」

 梅雨入りしてから、雲の多い日が続いている。

 景都は灰色の空を見上げ、

「今日は曇ってるからいいけど、ここ日除けがないから晴れてる日は困っちゃうね」

 と、言った。

「そうだなぁ」

 景都と咲哉は、女の幽霊が座っているベンチに目を向けた。

 広くはない公園の中、ベンチに座る女性の霊は3人の姿に気付いていない様子だった。

 水晶玉がなければ幽霊の姿が見えない流石は、ブランコを漕ぎながら、

「怖い感じはするのか?」

 と、ふたりに聞いてみる。

「僕は怖い感じしないよ。普通のお姉さんが座ってるだけだと思ったし」

「俺も、悪いものには見えないな。何か考え事してるみたいだけど、恨みとかじゃなくて、どっちかって言うと悲しいことがあって気晴らししてる感じ?」

 と、咲哉も答える。

「僕、お話ししてこようかな」

 と、景都が立ち上がった。

「お。珍しいな」

「なんか、気になるから」

「俺も行こうか」

 と、咲哉が聞くが、景都は首を横に振った。

「咲哉じゃ、ダメなタイプの人だと思う」

 景都に言われ、咲哉はふっと笑って頷いた。

「うん。そうだな」

「ふたりはここに居て」

「変な様子だったら合図しろ。すぐ行くから」

 と、流石も言った。

「うん」

 頷き、景都は女性の霊の座るベンチに、トコトコと向かって行った。

 景都の後ろ姿を眺めながら、流石は、

「お前じゃダメなタイプってどんなだよ」

 と、聞いた。

「子どもらしい子どもひとりとは話せても、すかした中学生がいたら気まずくなっちまう感じ?」

 と、咲哉は自分で言って、薄い笑みを浮かべている。

「あー、なんとなくわかるけどさ。サイズは可愛くても、景都も学ラン着てるんだけどな」

「可愛いから大丈夫なんだろ」

 3人が公園に入っても気付かない様子だった女性が、景都に声をかけられ、顔を上げていた。



「こんにちは」

 景都は、思い切って声をかけた。

 見上げた女性の霊の目には、涙が浮かんでいた。

「こんにちは……あら、やだ。ごめんなさいね。子どもたちの公園なのに、こんなところで泣いてる大人がいたら、遊びにくいわよね」

 そう言って、女性の霊は笑いながら指で涙をぬぐった。

「ううん。隣、座ってもいい?」

「あら。どうぞ」

「うん」

 女性が横にずれてくれたので、景都は隣に腰掛けた。

 水色のブラウスに、シンプルなグレーのロングスカートを履いている。近くで見れば、確かに少しだけ透けている。

 セミロングの黒髪が、さらりと風に揺れた。

 若くして、病気や事故で亡くなったのだろうか。

 景都が何を話そうかと考えていると、

「いつも、この公園に遊びに来るの?」

 と、女性の方から聞いてくれた。

「小さいころは時々遊んでた。最近は、ちょっと休憩するくらいかな」

「そう。遊具も減ってしまったものね。昔は大きなジャングルジムがあったのよ」

「へー」

「大きすぎて危ないからって撤去されてしまったわ。その辺に、シーソーと鉄棒もあったのよ」

 と、女性は公園の中を指差して言う。

「鉄棒も危ないの?」

「ちょっと高さがあったのよ。低い鉄棒もあったけど、高い所によじ登って落ちたりしたら危ないんじゃない?」

「そっかぁ。みんなが体操選手みたいなわけじゃないもんね」

「そうね」

「お姉さんは? どうして泣いてたの?」

 と、景都は聞いてみた。

「あら。私はね、悲しくなると、この公園で気持ちの整理をするの」

「気持ちの整理?」

「夫がね。とてもいい人なのよ。でも最近は、家にいる時間はずっと寝てばかり。私と一緒に出掛けたりするのも億劫なのですって。それが悲しくてね」

 伏し目がちに、女性は話した。

「寂しいね」

「そうね。私の周りにはね、旦那さんに叩かれたり、嫌味ばかり言うような姑のいる家にお嫁に行ってしまった友達もいるの。私はそんなことない。夫はとても優しいわ。だけど……」

「寂しいものは寂しいよ」

「そうね。もう少し、活動的になってくれると嬉しいわ。散歩に誘っても、僕は良いよって断られてしまうし、庭で花が咲いたから見てって呼んでも、君が見て楽しんでくれれば良いよって。一緒に見てほしいのに……寂しいわ」

「そっか……」

 なんとなく景都も寂しい気持ちになり、流石と咲哉に目を向けた。

 ふたりは、こちらを見守ってくれている。

「寝てばかりだから、どこか具合でも悪いのか心配になるけど、そうではないのですって。でも、このまま歳を取って、いつか夫が目を覚まさない日がくるんじゃないかって想像してしまう。それがとても怖いの」

「お姉さんが、一緒に見たいと思ってること、伝わってないんじゃないかな」

 景都は、女性の目を見て言った。

「……そうね」

「じゃあさ。お花、抜いて持って行っちゃったら良いよ」

「え?」

「一緒に見たかったのに、来てくれないから抜いて来ちゃったって言うの」

「一緒に……」

 景都はベンチから立ち上がると、足元に目を向けた。

 雑草の花を見つけ、しゃがんで引っこ抜く。

「はい、カタバミだよ」

「カタバミ?」

 根に土もついた黄色いカタバミの花を、女は両手をお皿にして受け取った。

「花壇のお花は取ったら怒られそうだけど、雑草ならいいよね」

「これを、夫に見せるのね。一緒に、公園で見たいって」

「うん」

「素敵。カタバミを見せてくれたから十分なんて言ったら、花壇の花も引っこ抜いて来ちゃうわよって言おうかしら。そうしたら、渋々でもお散歩に付き合ってくれるかも知れないわ」

 そう言って、女性は明るい笑顔を見せた。景都もつられて笑顔になり、

「一緒に、お散歩してくれるといいね」

 と、言った。

「ありがとう」

 女性もベンチから立ち上がると、土のついたカタバミを大切そうに両手に包んで歩き出した。


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