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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
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廃墟の晩餐 1

 今回はがっつりホラーです。


 合併新都市開発が始まる前、昭和後期にも都会からの移住計画があった。

 元々あったひとつの町を、発展させるというものだったらしい。

 マンションや雑居ビルも増えて、小さな町が栄え初めたのも束の間、移住計画は頓挫した。

 近くに高速道路が通り、車での移動は出来るものの、新幹線や特急が停まる大きな駅が作られなかったのだ。

 大企業の支社や大きな工場の建設も予定されていたはずが、決定には至らなかった。それでは職が不十分だ。

 長距離を車で移動して、街の外へ通勤しなくてはいけない。

 移住支援対策も考えられたが、給付金やら新築補助金やらは政治家の上辺主張に終わった。移住するほどの魅力はなかった。

 結局、人が集まらなかったため開発途中のまま、元々あった町ごと廃墟と化していった。

 開発を信じて土地を買ったり、元々の町に持っていたビルを新しく建て直し、丸損に終わった資産家も少なくはなかったという。

 そして、新たな都市開発の場となった四季深(しきふか)()とは、少々離れている。

 旧開発地区と呼ばれ、合併新都市開発と共に区分けされた、中央と東西南北5区のどこにも含まれていない。

 現在は廃ビルの放置地域になっている。

 フェンスで囲われて、出入りを制限されている不思議な閉鎖空間だ。

 大規模な施設ができる予定地という看板が立てられてから、しばらくそのまま放置されている。



 四季深市立中央中学校の昼休み。

 午後の授業が始まるまで、生徒たちは部活に出たり図書室で読書をしたり、自由に過ごしている。

 紫外線アレルギーの栃木咲哉(とちぎ さくや)は、午後の教室に入り込む日差し対策にトイレで日焼け止めクリームを塗り直すのが日課だ。

 咲哉はトイレ帰りの廊下で、首を傾げながらきょろきょろしていた。

 1年2組の教室に戻ると、富山景都(とやま けいと)が自分の席で泣きべそをかいている。

「あ、栃木ー。富山が怖い感じするって泣きだしたぞ」

 しくしくと泣いている景都を、後ろの席の長野利津(ながの りつ)がなだめてくれていた。

「景都」

 咲哉が声をかけると、景都は不安そうな泣き顔を上げ、

「咲哉……なんか飛んでった」

 と、呟いた。

「たぶん、俺も同じの感じたよ」

「例の、霊的な何かか」

 と、利津が言う。

 ダジャレのつもりだったかも知れない。咲哉はスルーして、

「利津。さっき世津(せつ)が、具合悪そうな奴を支えてやりながら、一緒に階段降りてったよ」

 と、話した。世津は利津の双子の弟だ。

「世津? 別に保健委員とかじゃないけどな」

「たぶん、俺らが感じた気配と関係ある。行ってみないか。保健室」

「世津が関わってるなら行くに決まってるだろ」

 と、利津はすぐに立ち上がった。お兄ちゃんだ。

 咲哉は景都の手も引いて立たせると、3人で保健室へ向かった。



 保健室には、世津と同じ1年6組の男子生徒、松本がベッドに寝かされていた。

 付き添いで世津と、上田というクラスメート、それにもうひとり、2年の男子生徒がベッドを囲んでいる。

「世津」

 利津が声をかけると、世津は少々驚いたような表情を見せた。

 白衣姿の養護教諭、福井(ふくい)真登香(まどか)もベッド脇から、

「あら、あんたたちも具合悪いの?」

 と、声をかけた。

「今日は違います」

 と、咲哉が答えると、福井教諭は、

「ちょっと、急病人がいるから、そっち座ってなさい」

 と、言った。

 利津と景都は大人しく丸テーブルに添えられたパイプ椅子に腰掛けたが、咲哉は気にせずベッドに歩み寄った。

 ベッドに眠る松本は苦しげな様子もなく、静かに横たわっている。

「変なもんが飛んでくの見て、気になったんで来たんです」

 と、咲哉は松本を見下ろしながら言った。

「あら、そう言えば。栃木君も見える性質(たち)だわね」

 福井教諭が言うと、松本を心配そうに見下ろしていた生徒、上田が顔を上げた。

「お前も見えんの?」

「うん。俺は2組の栃木。こっちは同じクラスの富山」

 背後にしがみついてきた景都の紹介も簡単にすると、

「見えるのは、松本だけ?」

 と、咲哉は聞いた。

「え、うん」

 上田が頷くと、ひとり混ざっていた2年生が、

「え、何が見えんの」

 と、眉を寄せている。

「先輩、関係あるんじゃないですか」

 と、咲哉が言う。

「は?」

 首を傾げながら、上田が、

「前にも、なんかに引っ張られたって、中身が抜けかけた? みたいなことあって、福井先生がなんとかしてくれたんだけど」

 と、言っている。福井教諭も困ったように首を傾げながら、

「前の時は体と繋がってて、よくある幽体離脱みたいな状態だったから手繰り寄せられたのよ。今は、すっぽり抜けちゃってて手繰り寄せるものがないの。遠隔で繋がってはいる感じだけど」

 と、話す。

「松本がこうなる前は、なにしてたんだ」

 と、咲哉はさらに聞いた。上田は2年生に目を向け、

「先輩が、うちのクラスの他の奴のところに用事かなんかで来てて」

 と、言った。2年生は、

「部活の連絡。用が済んで戻ろうとしたら、こいつと廊下ですれ違ったんだ」

 と、言う。

「なんか先輩に、行かない方がいいとか言いながら、しゃがみ込んじまって」

「なるほど」

「咲哉、なにかわかる?」

 数度頷く咲哉に、景都が聞いた。

「先輩も見えたり感じたりする事ありますよね」

「なにが見えるってんだよ」

 半笑いで聞き返す2年生に、咲哉は、

「俺は感情とか意思みたいなものを感じてから、その存在に気付くんです。こいつは、その存在が存在してるつもりの状態が目で見えるみたいな感じです」

 と、話した。上田が目をパチパチさせながら、

「見え方にも色々あるのか……」

 と、言っている。

「さっきは、急に現れたあんまり良くない存在が、誰かを連れてったようでした。そのあんまり良くない存在と同じ気配を、先輩から感じるんですけど」

 咲哉が話すと、福井教諭も頷きながら、

上高地(かみこうち)君、心当たりある?」

 と、聞いた。上高地と呼ばれた2年生が驚いた表情を見せる。

「先生まで?」

「教えてもらえませんか。松本がもし自分で戻れない状態になってたとしたら、迎えに行ってやらないとこのまま死んじまうんで」

 咲哉が言うと、上田と景都が蒼ざめた。それ以上に、上高地という2年生は落ち着かない様子で頭を掻いた。

「……どっから話せばいいか」

「事実的な部分を、できたら先輩が関わった時系列で」

「関わった時系列……えっと、親戚の伯父さんが自殺して」

「いつですか」

「半年ぐらい前。伯父さんが持ってた旧開発地区の廃ビルがずっと売り手つかなかったんだけど、やっと周りのビルが売れそうって話があったらしくて、伯父さんが持ってたビルも一緒に売れないかって言ってたんだけど、ダメだったらしくて。それを苦に、そのビルで首吊って自殺したんだ」

 上高地は、記憶をたどるように言葉を考えながら話した。

「ずっと売れてなかったのに、今になって、やっぱりダメだったという理由でですか」

 と、咲哉は上高地に聞いた。

「俺も、それが気になって調べたんだ。そうしたら、伯父さんが持ってたビルで昔、集団自殺があった事がわかって」

「集団自殺……」

「都市伝説みたいな話だけど、ネットで知り合った自殺志願者が、ある日曜日に集まって、練炭と睡眠薬で自殺したんだ。みんな一緒なら怖くないみたいな」

「その時に入り込んだのが、先輩の伯父さんのビルだったんですね」

「そうらしい。当時は入り込める状態にしておいた責任とか言われたらしいけど、町が閉鎖された後だし自殺者の中に廃ビルになる前にそこで働いてた人がいて、入り込み方を知ってたんだろうって、元従業員側の責任ってことにはなってたらしい」

「ある日曜日、というのは?」

 咲哉は質問を続ける。

「……」

「先輩の伯父さんが自殺したのも、その同じビルだったんですよね」

 少し気まずそうな表情で上高地は視線を逸らした。

「……そんなに親しかった訳じゃないけど、その伯父さんのビルがどういう状態になってるのか、興味がわいて」

「行ってみたんですね」

「たまたま予定が開いてた日曜日に、行ってみたんだ。警察の立ち入り禁止のテープみたいのが部分的に残ってたけど、ずっと野ざらしになってるっぽかったから、入った。そうしたら、人の気配がして……うすぼけた体の奴らがパーティーしてたんだ。今でも、なんか信じられない話だけどな」

 低い声で上高地は話す。

「パーティーですか?」

 と、上田も聞き返した。

「集団自殺した奴ら、日曜日に最後の晩餐(ばんさん)とか言ってパーティーしてたらしい。それで日付が変わって明るくなる頃、地下倉庫に移動して練炭焚いて、睡眠薬飲んで死んだんだ。死んだ奴ら、死んだ事に気付かずに今でもパーティーをやってるんだ。毎週日曜日に」

「先輩は毎週、見に行ってたんですか」

「初めに行ったのが日曜日だったのは、たまたまだった。でも、すぐに見つかって、一緒に楽しもうとか言われて」

 蒼い顔で上田が、

「それ、怖くないっすか」

 と、言った。

「怖いよ。でも普通に目の前に見えたんだ。冷たかったけど、ちゃんと俺の腕を掴んで飲み物が並んでるところに連れてったんだよ」

 上高地の表情も、徐々に蒼ざめていく。

 自殺や廃墟侵入という内容ですが、それらの行為を容認・推奨するものではありません。

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