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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
35/42

荒野の花 3

「それで?」

 真顔で聞き続ける咲哉(さくや)に、中年男は余計に視線を泳がせた。

「その……俺の借金はたった三百万だ。そのために人をさらおうなんて間違ってた。ましてや、街中のオカマに襲われるなんて考えたら――ずっと親に隠してたけど、借金の事を話して用立ててもらえる事になった。どうか、許してくれ」

 言い終えると、中年男は地べたに膝をつき、頭を振り下ろすように大袈裟な身振りで土下座して見せた。

 史佳(ふみか)と、流石(さすが)景都(けいと)も目を丸くする。

 ひとり冷静に咲哉は、

「目立つのウザいから、立ってくれる?」

 と、言った。

 中年男は驚いた表情を向けたが、すぐに立ち上がった。

「このお姉さんを狙えって言ったの、どこの闇金?」

「隣街の……それ以上は、勘弁してくれ」

「日本のヤクザの闇金だよね?」

「それは多分、店のヤクザたちはみんな日本人だったと思うけど」

「ふうん。店長に脅されてるって言うのも、闇金の人に言ったの?」

「言った」

「それで、他の方法で用意しろって言われたんだね」

 咲哉は頷きながら史佳に、

「土下座もしたし。許してあげる?」

 と、聞いた。

「私は、もちろん……」

「許してくれるって。よかったね。でも、おじさんの名前だけ聞かせてくれる? 名字だけでいい」

「ま、前田です」

「じゃあ、前田さん。この街には二度と関わらない方が良いね」

 中年男は深々と頭を下げると、踵を返して足早に去って行った。

「……街中のオカマって、うちの店長、何者なの」

 と、史佳は呆然と呟いた。

「違うよ。あの前田って人を脅してるのは、俺のバイト先の方の店長だよ」

「咲哉。昨日、あとをつけられてたのか」

 流石は中年男が去って行った道を眺めながら聞いた。

「そうみたいだね」

「あの、バイト先って……」

「オカマバーだよ」

「ええぇっ!?」

 史佳が、この日一番の驚きを見せた。

 どっこいしょと、咲哉はベンチから立ち上がると、

「そろそろ、うちの店長が店の掃除を始める時間だ。一緒に行こう」

 と、言った。



 史佳を連れて3人は一度、蕎麦屋へ戻った。

 店主に訳を説明し、そのままオカマバーへ向かった。

 繁華街は人通りが増えている。

 シックな木の扉の横に掲げられている看板を見て、流石と景都は首を傾げた。

「これ、なんて読むんだ?」

「お伽囃子(とぎばやし)

「おとぎばやし?」

「お伽話と祭囃子を合体させてるんだってさ。姐さんたちの源氏名も日本とか海外とか、色んなお伽話から取ってるんだよ。店長はかぐや姫のかぐやさん」

「へー」

「いつも裏口から入るんだけど、みんないるから表からで良いよな」

 と、言いながら、咲哉は重そうな扉を開けた。

 角度違いの二重扉になっている。

 暗い空間を抜けてもう一枚の扉を開けた先も、決して明るくはなかった。

 蛍光灯などの照明はない。壁にグラスや音符、花などを形取ったネオンが紫やピンクに灯されている。テーブルも椅子も、ネオンの映える黒色だ。

 カウンター席や各テーブルには、キノコや小人、妖精の形の小さなランプが置かれている。冬のイルミネーションとも違った世界だ。

 『暗い灯り』とでも表現するべきだろうか。その中で咲哉は、

「おはようございまーす」

 と、店の奥へ声をかけた。

 バーという場所に初めて入る流石と景都は、手をつないでポカンとしている。

 史佳も落ち着かない様子できょろきょろしていた。

 カウンターに4席、テーブル席が4か所、そして少し広いソファ席が1か所。店内に人影はない。

「店長、まだ来てないかな」

 咲哉が店の奥へ向かうと、すぐに暗がりから大きな人影が現れた。

「やだ、咲ちゃん。休んで良いって言ったのに」

 着物の衿合わせをイメージした作りの赤いドレスを身につけている。しかし声も骨格も男性だ。

 厚化粧の女装青年だが端正な面持ちをしている。厚化粧をしなければ、そこそこのイケメンなのではないか。

 女装青年は流石と景都、史佳にも目を向け、ニンマリと笑って見せた。

「店長。友だちに付き合ってもらって、お蕎麦屋の史佳さんと話をしてきたんだよ」

 と、咲哉は言った。史佳たちにも、

「この人がオカマバーの店長の、かぐやさんだよ」

 と、紹介した。

「あら、どうも。店長のかぐやです」

「あっ、綾瀬史佳です」

 緊張した様子で史佳は頭を下げる。

 流石と景都も呆然とした表情のまま、ペコリと頭を下げた。

「この暗さ、子どもには怖いかしらね」

 と、かぐや店長が言っている。咲哉は真顔で、

「暗さっていうか、この雰囲気は初体験じゃないかな」

 と、言っている。

 テーブル席に座り、咲哉は史佳の話と、先ほどの中年男に聞いた話を店長に伝えた。

 かぐや店長はバーカウンターに寄り掛かりながら、

「昨日、咲ちゃんが帰ってから、裏口でこそこそしてたのを、うちのラプンツェルが捕まえたのよ」

 と、言った。

「そう、あたしが捕まえたのよぉ」

 カウンター奥のバックヤードから、超ロングヘアーの店員が顔を出した。

 まだドレスに着替える前のようだが、私服も華やかな女物だ。しかし、がっしりした体格の高身長で、ひと目でオカマとわかる。

「ラプさん、ナイス」

 と、咲哉は親指を立ててグッドサインを見せた。

「お礼は、デート1回ね」

「デート場所が(あき)さんの店ならいいよ」

「嫌よぉ。また崩れた岩とか言われるじゃないの」

 あっはっはーと、豪快なオネエ笑いがバックヤードから聞こえてくる。奥にも数人の店員がいるらしい。

 秋と違ってイメージ通りのオカマたちのノリに、流石と景都はカチコチに動けなくなっていた。

「バックヤードで、たった3人のオカマに囲まれただけで泣きべそかいてたのよ。失礼しちゃうわ」

 と、店長はご立腹らしい抑揚で言う。咲哉は至って平常に、

「普通のマッチョより、店長みたいな女装マッチョの方が怖いって人もいるんじゃない?」

 と、言っている。

 もうひとり、優しそうな雰囲気の女装青年が顔を出した。こちらは落ち着いた緑色のスーツドレスだ。

「咲ちゃん、怪我は?」

 と、心配そうに尋ねた。

「ロッコさん。なんともないよ」

「よかった。あ、お蕎麦屋さんの」

 ロッコと呼ばれたスーツドレスの女装青年は、史佳に会釈した。

「ロッコさんはメイクと変装の達人なんだよ」

 と、咲哉が言う。

「ごめんなさいね。私が咲ちゃんを、あなたに似せて変装させてしまったから、変な事になっちゃって」

「あ、いえ、そうでなかったら、きっと私が襲われていたんです」

「えっ、そうなの?」

 と、ロッコが目を丸くした。

「店長が脅し効かせてくれたから、ほぼ解決だけどね」

 咲哉が言うと、史佳は肩を落として苦笑した。

「でも、やっぱり私は、この街にも居られないのね」

「どこに行っても、情報ってのは勝手について来るもんだよ。尾ひれとか付けながらさ。それより、事情を知ってて心強い味方もいるこの街にいた方が安全なんじゃないかな」

 咲哉が話すと、店長は頷きながら咲哉の頭を撫でた。

「味方……」

「とりあえず、街中のオカマ? もちろん、蕎麦屋の店長もだけど」

 店長は史佳に、

「咲ちゃんを正式に雇うわけにはいかないけど、オカマ以外の黒服ボーイも欲しいと思ってたのよね。史佳ちゃん、男装してうちで働かない?」

 と、聞いた。

「えっ?」

「いいね。男装の格好は、こんな感じ」

 と、咲哉がスマホ写真を見せる。

 黒スーツ姿で髪もオールバックに固めた咲哉だが、大人びた印象のメイクをしているようだ。

「これも俺だけど、ロッコさんの作品だよ。小柄な大人の女性が男装してるように見えるでしょ?」

 目を見張り、頷きながら史佳はロッコを見上げた。

「この店は安全だよ。これでも、みんな人としてまともな人たちだし、頭も回るし喧嘩も強いし」

「ちょっとぉ、これでもって何よぉ」

 などと言っているオカマ口調から急に声色を変え、店長は渋みのある男声で、

「その子の言う通り。この街も治安が良すぎるって訳でもないけど、このお店はまともだよ。ロッコに整形並みなメイクを教えてもらえば、顔バレの心配も減る。蕎麦屋も近くだし、店主には色々世話になってるからさ。どうかな」

 と、話した。

 史佳の目が潤みだす。

「……実年齢28歳のノンケの女ですが、黒服ボーイにしていただけますか」

 と、史佳は答えた。

「もちろんヨ。すぐお蕎麦屋の店主に電話しちゃうわ♪」

 オカマ口調に戻り、かぐや店長はパチパチッと手を打った。

 すぐに蕎麦屋の店主に電話をし、史佳自身も訳を話して了承を得た。

 史佳は、より安全なオネエバーで、咲哉の代わりに黒服ボーイとして働くことになった。

 蕎麦屋の店主と話し終えた史佳に、咲哉は、

「史佳さんのおかげで、一週間の予定が4日で自由になれたよ」

 と、言った。

「そんなに不自由だったかしら」

 と、かぐや店長がドスの利いた声を響かせる。

「だってヒヤヒヤするじゃん。中1ってバレたらさすがにまずいでしょ」

「中1っ? あの、家計が苦しいの?」

 と、史佳が聞く。

「ぜんぜん。俺も、店長に脅されてんの」

「人聞き悪いわね」

「でも、咲ちゃんも怪我しちゃったし、もう許してあげたら?」

 と、ロッコが苦笑している。

「しょうがないわねぇ」

「怪我って、襲われた時に?」

「ちょっと掠っただけだけどね」

「それなら働けるのかしら」

「あー、イタタ。やっぱ無理無理」

 全く話に参加できなかった流石と景都は、別のテーブル席でオレンジジュースを出してもらっていた。

「なんか咲哉、楽しそう」

「そうだな」

 景都と流石は、オカマたちに囲まれている咲哉を眺めている。

「でも、ああいうのを営業スマイルって言うんだぜ」

「うん。知ってるよ」

 景都は店の奥に目を向けた。

 決して明るくはない店内で、さらに奥まった暗い席。

 瓜子姫(うりこひめ)が微笑んでいた。

 ピンクの花柄ワンピースを身につけて、品良くソファに腰掛けている。咲哉の写真に写っていた、オカマバーの元店員の幽霊だ。

「見守ってくれてる人もいるし、店長さん強そうだし、ここなら史佳さんも安心だね」

 と、景都は小声で言った。

「そうだな。一件落着だ」

 出番の少なかった流石が、こっそりと話をまとめたのだった。


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