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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
34/42

荒野の花 2

 もうすぐ日も傾き始める時間だが、屋外はまだまだ明るい。

 中央駅は新幹線も停まる大きな駅だ。流石(さすが)たちの住む北区の北駅からはローカル線でひと駅だ。

 3人はローカル線で中央駅へやって来た。

 駅前繁華街は学生や買い物客で賑やかだ。

 流石は不審人物がいないか周囲に目を向けながら、

「いつも電車で通ってるのか?」

 と、聞いた。

「あの格好で電車に乗る気にはなれないよ。行き帰りタクシー乗ってた」

 咲哉(さくや)は、景都(けいと)と手をつないで歩きながら答えた。

 本日の服装は、3人とも少年らしい普段着だ。景都は、

「人が多いね。迷子になりそう」

 と、言ってきょろきょろしている。

「大丈夫だよ。トランシーバー、持ってるだろ」

「あ、そっか」

 大通りには飲食店やカラオケ、ドラッグストアやコンビニなども軒を連ねているが、横道を見れば、大人向けの店が開店準備を始めているのもうかがえる。

「あっちの道を曲がるとオカマバーがあるんだよ。お蕎麦屋さんはこっち」

 そう言って咲哉は、大通りより静かな横道を曲がった。

 雑居ビルの一階に、長年続けているような印象の蕎麦屋があった。

 目の前には小さな児童公園があり、子どもたちの遊ぶ姿も見える。買い物帰りの母親たちが井戸端会議をしていた。

 蕎麦屋の引き戸からは、テーブルと椅子の並ぶ店内が見えた。

 咲哉は日除けに被っていたパーカーのフードを背に落とし、準備中の札が掛けられた引き戸を開けた。

 ガラガラと戸が音をたてると、店の奥から中年女性が顔を出した。

「あら、ごめんなさいね。まだ準備中なんですよ。もう少しお待ちいただけます?」

 奥に見える厨房では、初老の男が蕎麦打ちをしているらしい。トントンと、蕎麦を切っている様子が見えた。

「すみません。ちょっと伺いたい事があって、この女性をご存じですか」

 エプロン姿の中年女性に咲哉は、女装姿の写真を見せた。

「あら、史佳(ふみか)ちゃんかしら」

 と、女性が言うと、店主らしい初老の男が、蕎麦を切っていた手を止めた。

「お前は店開ける準備してろ。何の用だ」

 女性を急かすように押しやり、店主は不機嫌そうに厨房から出て来た。

 咲哉は、店主にもスマホの写真を見せた。

「お仕事中にすみません。これは、この近くのバーでバイトをしている店員なんですが」

 咲哉の話途中に、店主は目を見張り、

「これ、お前か」

 と、聞き、写真と咲哉の顔を見比べた。

「あ、はい。ちょっと訳ありで、十八歳の女性に変装しているんですが、メイクや衣装を選んでくれた先輩店員が、このお蕎麦屋さんの店員さんをイメージしていたそうなんです。それで、昨日、人違いをされたんです。それを伝えたくて、こちらの店員さんと少しお話をさせていただきたいんですが」

「……お前、かぐやさんとこの子か」

 眉を寄せて考え込むように店主は聞いた。

「あ、はい。うちの店長をご存じでしたか」

「うちは蕎麦屋だが、近所の店長同士だからな。店の姐さんたちは仕事前によく来てくれる」

「そうでしたか」

 店の奥から、

「おはようございまーす」

 と、若い女性の声が聞こえた。すぐに店主が、

「史佳、ちょっと来てくれ」

 と、声をかけた。

「なんですか?」

 顔を見せたのは、小柄で童顔の女性だ。背も咲哉とあまり変わらず、咲哉の変装と雰囲気もよく似ていた。

 3人の少年たちに不思議そうな顔を向けている。

「話があるそうだ。時間使って構わねぇから、そこの公園で聞いてやれ」

 店主は店の前の児童公園に視線を向けて言った。

「わかりました」

 史佳という女性が会釈すると咲哉が頭を下げ、後ろに並んでいた流石と景都もペコリとお辞儀した。



 流石と景都、咲哉に史佳という女性は、蕎麦屋の目の前の児童公園にやって来た。

「私、こんなに若く見えるかしら」

 児童公園のベンチに座り、スマホの写真を見て史佳は苦笑している。

 その隣に腰掛けた景都は、

「お外で大丈夫かな」

 と、周囲に目を向けている。

 体力のない咲哉も立ちっぱなしはつらいので、反対隣に腰掛けながら、

「まだ人通りも多い時間だし、あっちじゃチビっこも遊んでるから大丈夫だろう」

 と、言った。流石はひとり、ベンチの前で仁王立ちしながら、

「さっきの話だけど、姉ちゃんは襲われた事とかなかったのか?」

 と、聞いた。史佳は肩を落として見せた。

 蕎麦屋の店員、綾瀬(あやせ)史佳は小柄で童顔だが、実年齢は28歳と聞いて驚いたところだ。

「この街では、ないわ」

 と、史佳が言った。

「この街では?」

「……私、こんなんだけど、前にいた街ではヤクザの幹部候補と付き合ってたの」

「えぇっ」

 スマホ写真から視線を上げず、史佳は、

「小さい組だったけど、その街では堅気(かたぎ)に迷惑かけないっていう極道の掟みたいのがあってね。私は組の人たちと会う事もなかったんだけど、ある日、さらわれてしまったの」

 と、話した。

「えぇっ」

 景都は驚くばかりだ。

「他の組のヤクザにか」

 と、流石が聞く。

「ううん。新しくその街で幅を効かせるようになってた、チーマーみたいな不良グループだった。でも、ドラマとかで見るヤクザみたいな事をしててね。昔からあるお店に嫌がらせしたり、脅されて()()()()を払ってしまうお店に、別のチームを装って何重にもみかじめを要求したり。地元の組員と揉める事もあって、掟も関係ない不良グループには、私なんかいいカモだったの。私を人質にとって、なにを要求していたのかもよくわからなかったんだけど、彼の組の組長さんが堅気に迷惑をかけるなって言って、私なんかのために一千万円も出してくれたの」

「いっせんまん……」

「すぐに開放してもらえた。私にも迷惑料をくれるって言われたけど、断ったわ。その代わり、組長さんの堅気の知り合いがこの街でお蕎麦屋さんをしてるからって、新しい働き口を紹介してくれたの」

 静かに聞いていた咲哉が、

「それが、さっきの蕎麦屋の店長さん?」

 と、聞いた。史佳はゆっくり頷いた。

「昨日、咲哉を襲ったのは誰だったんだろうな」

 腕を組んで、流石が首を傾げている。

「あの不良グループが私の居所を突き止めて、また身代金を請求するつもりだったのかしら」

 悲しげな表情で史佳は言った。

「そんな感じじゃなかったけどな。仕事できなそうな会社員ってイメージの、中年男ひとりだった」

 咲哉も首を傾げている。

「中年男か。一千万の話を聞き付けた、この街のヤクザとかでもないんだよな」

 流石に聞かれ、咲哉は苦笑する。

「本職さんだったら、あんな簡単に撃退できなかったと思うよ」

 夕日が児童公園をオレンジ色に照らし始めた。3人と史佳のいるベンチは、雑居ビルの影に入っている。

 砂の敷かれた児童公園の広場を、サラリーマン風の中年男が横切って来る。

「あれ。昨日の変質者だ」

 中年男に気付いた咲哉が、平然と言った。

「えぇっ」

 サラリーマン風の中年男は、ベンチから3メートルほど離れた場所で足を止めた。

 ベンチの前に立つ流石が身構える。

「昨日は悪かった」

 と、中年男が言った。

「あんたが、この人を狙ったのか」

 と、流石が聞くと、男は頷き、

「もう、あんたを狙ったりしない。勘弁してくれ」

 と、気まずそうに視線を泳がせながら言った。

「どういうこと?」

 と、咲哉が聞く。

「あんたの店の店長に、脅された……」

「えっ」

「なんて?」

 と、もう一度、咲哉が聞き返す。

「うちの店員に下手な真似したら、この街中のオカマを敵に回す事になるから覚悟しろって――」

 蒼ざめながら言う男の言葉に、咲哉が小さく噴き出した。

「店長、ナイス」

 と、呟いて頷きながら咲哉は、

「どうしてこの人を狙ったの」

 と、中年男に聞いた。

「……闇金って言われてるとこで借金が返せなくて、この街で良い仕事があるって言われたんだ。あんたが、大金になるって」

「どういうこと?」

「OLのSNSで、あんみつの奥に、あんたが写ってる写真が載ってるんだ。ヤクザの幹部の女で、さらわれて身代金一千万も支払われた事があるって。また誘拐できれば大金が手に入るから、さらって来いって言われたんだ。だけど、堅気の女って聞かされてたんだ。なにか武術を身につけてるなんて聞かされてなかった。それを言ったら、じゃあ別の方法で金を用意しろって言われて……」

 首を捻り、もじもじするような仕草を見せながら中年男は話す。

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