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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
33/42

荒野の花 1

 今回のホラー要素は少なめです。


 枯れ木、崩れた岩、倒れて腐りかけの雑草……。

 見渡す限り荒れ果てた風景に、一輪の花が咲いている。

 それがどんな花でも、美しく見えない者はいないだろう。

 僕が見たのはそんな風景だった。


 咲哉(さくや)は重い溜め息を吐き出した。

「……とかいう、ポエミーなコメントと一緒にさ。(あき)さんのオネエ仲間に囲まれてゴチになってる俺の写真を、お店のブログにお便りしてきた客がいてさ」

「咲哉が一輪の花ってことだね!」

 と、景都(けいと)が力強く言う。流石(さすが)も、

「俺もそれはわかる」

 と、言っている。

 朝の通学路。と、言っても、雑木林と空き家群の間の通路は人通りもなく静かだ。

 初夏の爽やかな風が、雑木林の木々を揺らしている。

 しかし咲哉の表情は、くたびれて見えた。

「……それで秋さんのオネエ仲間が怒っちゃってさ。客の肖像権なんかに触れる写真は削除させてもらうって注意書きしてあるから、ブログからは写真だけ削除したんだけどさ。俺が」

「咲哉が?」

「うん。お店のブログは俺が作ってるんだよ。秋さん、パソコン苦手だから」

「そうなんだ」

 生垣が通路まで伸び広がる狭い道では流石が先頭を行く。流石は振り返りながら、

「それで、なんでお前がぐったりしてんだよ。写真削除された客がゴネてんのか?」

 と、聞いた。

「いや。ゴネてんのは秋さんのオネエ仲間たちの方でさ。中央駅の方のオカマバーのママが俺の隣に写ってて、オカマバーのお客さんがその写真見てたらしいんだよ。削除前に写真をコピーしてた客が、バーの客たちにポエムごと拡散して面白がってるんだってさ」

「容赦ねえな」

「そっちは秋さんと違って、見るからにオカマな女装の人たちだからなのかなぁ。見た目とか面白がりに来る客も少なくはないんだろうなぁ……」

 景都は咲哉と手をつないで歩きながら首を傾げている。

「咲哉が一輪の花の写真、見てみたい」

 と、景都が言う。

「んーと、これなんだけど」

 と、咲哉はスマホを見せた。

 景都の持つスマホを流石も覗き込んだ。

「秋さんの店の座敷席か」

 座敷席で咲哉を囲み、見るからに女装とわかる5人が楽しげに談笑している。

「これ、みんなオカマさんなの?」

「うん」

「このカメラ目線の人とか、普通に女の人に見えるよ」

 と、景都が楽しげに言う。

「……ん?」

「カメラ目線の人いるか?」

 流石と咲哉も覗き込む。

「咲哉抜いて6人のオカマさんの、向かって一番右のこの人」

 と、景都が指差している座布団には、誰も座っていない。

「座敷にいる人だろ? 俺には、咲哉以外5人に見えるんだけど」

 と、流石が言う。咲哉は、

「何色の服の人?」

 と、聞いた。

「ピンクの花柄」

「あー、瓜子姫(うりこひめ)だ」

 と、咲哉が言った。

「うりこひめ?」

「バーで働いてたんだけど、結構前に亡くなったオカマさんだ」

「えっ」

 流石も、不思議屋でもらった小さい水晶玉を出している。

「おー、本当だ」

「……この人、幽霊さんなの?」

「うん。来てるの気付かなかったな。バーでは見かけた事あるんだけど」

「スマホ写真に写ってる幽霊も水晶で見えるんだなぁ」

 と、流石は水晶玉を眺めている。

「便利な水晶だな」

「……」

「あ、お店のみんなを見守ってる系の人だから怖くないよ」

 と、咲哉が言うと、景都は表情を和らげた。

 人通りもなく、横に広くなる道では3人横に並んで歩いている。

「でも、まぁ、そういう訳で。その写真を俺に送りつけて来てさ。『この子はオカマバーの養成店員だから法的にOKな年齢になったらうちの店で働く事になってるのでお楽しみに~』ってデマを流されたくなければ、一週間オカマバーでボランティアしろって脅されてんだよ」

 と、咲哉は話し、溜め息をついた。

「……それは恐ろしいな」

「うん。あっちも半分冗談ではあるけどね」

「冗談は半分だけなの? もう半分は?」

「ガチギレ」

「……」

 もう一度溜め息を吐き出してから、咲哉は、

「っつーわけだから。俺、今日から学校終わったらボランティア行くからさ」

 と、言った。

「行くの?」

「まあ、一週間だけだし。一応、法的にOKな年齢がOKな時間まで。未成年だと深夜はNGだからさ」

「ふーん。僕たちが遊びに行ける感じのお店?」

「いや。十八禁っていうか、酒飲ます店だから未成年じゃダメなのかな」

「大人のお店かぁ」

 と、流石が言っている。景都も、

「サクラちゃんで行くの?」

 と、聞いた。

「いや、黒服でボーイ」

「くろふくでぼーい?」

 オウム返しする景都に咲哉は笑って見せ、

「御用聞きって言うか、姐さんたちのパシリみたいな?」

 と、言った。

「ふーん?」

「中学生で店に出るのはまずくねぇの?」

「俺もそう言ったんだけどさ。姐さんたちの中に、メイクの達人がいるんだよ。十八歳女子が男装してるように見えるメイクしてくれるって」

「マジか。体力無いんだから、あんま無理すんなよ」

 と、流石が言う。

「うん」

「じゃあ、一週間は一緒に遊べないね」

 と、景都も言うと、咲哉は軽く笑い、

「うん。来週になったら遊んでくれよ」

 と、言った。



 咲哉が学校を休んだのは、ボランティアが始まって4日が過ぎた日だった。

 3人が持つトランシーバーで連絡を受けた流石と景都は、ふたりで登校しながら心配していた。

「ファミレスとか喫茶店もそうだけどさ。飲食店の店員さんって歩き回ってるだろ。疲れちまったんじゃないかな」

 と、流石が言っている。景都も、

「そうだね。お酒飲むお店ってタバコ吸う人多いイメージじゃん。喘息も、酷くなっちゃったのかな」

 と、不安げに言う。

「朝、話してた時はそんな感じじゃなかっただろ」

「でも咲哉、咳出ないように我慢するじゃん」

「まあ、そうだけどさ。帰ったら見舞い行ってやろうぜ」

「頼みたい事があるって言ってたね」


 『体調不良で学校は休むけど、ふたりに頼みたい事があるから、帰りにうちに寄ってくれないか』


 トランシーバーで、咲哉はそう言っていた。

「頼みたい事ってなにかな」

 景都が首を傾げている。

「オネエバーに届け物して欲しいとかかな。貸出しの制服とか」

「あ、それあるかも」

「だとしたら、オネエバーがどんなとこかわかるかもな」

「そうだね」

 いつも3人で歩く狭い通路が、ふたりではずいぶんと広く感じた。



 両親が海外勤めのため、咲哉は庭も広々とした豪邸にひとり暮らし状態だ。

 一度、家に帰ったふたりは制服を着替え、学校からの配布物を持って咲哉の家にやって来た。

 流石がインターフォンを鳴らすと、すぐに咲哉の声が聞こえた。

『お帰り、ふたりとも。鍵開いてるから、入って来てくれ』

「はいよ」

 流石が軽く返事をして、ふたりは門を開けて庭へ進んだ。

 花壇にはダリアとユリが咲き始めていた。

 季節の花が咲く庭を進むと、やっと玄関が見える。

 まだ明るい時間だが、窓には早くも防犯シャッターが閉められていた。

「さーくーやー!」

 大きな扉を開け、玄関ホールで景都が声をかけた。

「おー。悪いな、ふたりとも」

 リビングから咲哉が顔を出し、手招きしている。

「お邪魔しまーす」

 流石が言うと、返事でもするように、お掃除ロボットのタンゴが目の前を横切って行った。

「寝てなくて大丈夫なのか?」

「うん」

 リビングに入ったふたりは、大きなソファに並んで座った。

 テーブルに並ぶペットボトルのジュースを指差し、

「オカマバーの姐さんたちが、ジュースとかいつも持たせてくれてさ。良かったら飲んでくれ」

 と、言って、咲哉もソファに並んで腰かけた。

「咲哉、炭酸苦手じゃん。コーラもらうな」

「うん」

「僕はメロンソーダ」

 流石はペットボトルのフタを開けながら、

「で、どうしたんだよ。頼みたいことがあるって言ってただろ?」

 と、聞いた。

「うん。それがさ」

「あっ、咲哉、お怪我してる!」

 突然、景都が叫んだ。

「ん? マジで?」

 3人の真ん中に座る景都の肩越しに、流石も咲哉の全身を見た。

「よくわかったな。シップ臭かったか?」

 と、咲哉は自分の左腕のにおいを嗅いでいる。

「においはわかんない。なんとなく」

 そう言って景都は咲哉の手を取り、左腕の袖をまくり上げてみた。

 手首から肘まで、包帯が巻かれている。

「いたいのいたいの、飛んでけっ」

 包帯を撫でていた景都が、何かを掴んで天井へ放り投げる仕草をした。

「わっ、飛んでった」

 咲哉が天井を見上げる。

「あ、急にやってごめんね」

「いや、ありがとう。痛くなくなったよ」

「そうだ、景都は得意技あったな」

 不思議屋で教えてもらった、景都の特技『いたいのいたいの飛んでけ』だ。相性のいい咲哉には景都の治癒力が発動するそうだ。痛みを空へ飛ばしてしまう。

「中はどうなってるのかな」

 と、咲哉は包帯の腕を撫でている。

「火傷でもしたのか?」

「いや、ちょっと困った事になってさ」

 と、咲哉は肩を落として見せた。

「客とトラブルか?」

「いやいや。これ、俺がボランティア行く時の格好なんだけどさ」

 と、咲哉はスマホの写真を見せた。

「えっ、これ咲哉?」

 写真には、少々暗めに見える女子高生のような格好をした咲哉が写っている。薄手の黒いトレンチコートに膝丈のデニムスカートを履いている。

「お前、生足かよ」

「いや、見て欲しいのはそんな所じゃなくてな」

 と、咲哉は苦笑いだ。「この格好で、店の帰りに襲われてさ」

「えぇっ?」

「人通り多い道は空気悪いから、ビルの裏道みたいなところ歩いてたんだよ。いつも通ってる道だったんだけど、横道の角で待ち伏せされてて、いきなり鉄パイプみたいの降り下ろして来てさ。腕で受け流し損ねて、痣になっちゃったんだよ」

 包帯の腕を眺めながら咲哉が話す。

「大丈夫かよ、お前」

「うん。初めは普通に変質者か強盗かなんかだと思って、撃退しかけたんだけどさ」

「咲哉、強いもんね」

 と、目をパチパチさせながら景都が言う。

「別に強くはないけどな。でも、誰かと勘違いしてたらしくてさ」

「人違いで襲われたの?」

「なんか、そうらしい。ワイヤレスホンみたいなので誰かと話してたんだよ。なんか『話が違う』とか『確かに写真の女』とか言いながら、こっちに鉄パイプぶん投げて逃げてった。家までつけられても面倒だから、オカマバーに戻って訳を話したんだよ。そうしたら俺の通勤用の変装は、オカマバーの姐さんたち行きつけの蕎麦屋の女性店員をイメージしてたんだって」

 テーブルに並べたジュースの中から、咲哉はオレンジジュースを選んでひと口飲んだ。

 流石もコーラを飲みながら、

「よく無事だったな、お前」

 と、言っている。

 景都はメロンソーダを飲むのも忘れて目をパチパチするばかりだ。

 咲哉はオレンジジュースをもうひと口飲み、

「うっかり撃退しちゃったけどさ。今度は俺じゃなくて、仲間でも引き連れて蕎麦屋の店員さんが襲われたりしたらまずいだろ」

 と、話し、溜め息をついた。

「確かに、それはまずいな」

「昼飯と晩飯の間は準備中になる店でさ。もうすぐその蕎麦屋さんが開く時間だから、行ってみようと思うんだけど、付き合ってくれないか」

 咲哉が聞くと、流石と景都は大きく頷いた。

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