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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
30/42

梅雨のサクラと冬瓜鍋 1

 今回は少々ホラー要素ありです。

 6月に入っても、ヒンヤリした日の続く入梅時だ。

 栃木咲哉(とちぎ さくや)はいつも通り、自分の席でウトウトしていた。

 昼休み、短時間だが部活の練習に参加する生徒もいれば、図書室で読書をする生徒もいる。教室内も生徒たちのおしゃべりで賑やかだ。

 突然、前の席の椅子がギシギシっと音を立てた。

 珍しい音に咲哉が目を開けると、そこには学年で1,2を争うほどの巨体を誇る女子生徒、川越(かわごえ)が座っていた。隣の3組の生徒だ。

「あ、起きた。栃木君」

 咲哉に用があるらしい。

「……なに?」

「ちょっと、相談に乗って欲しいの」

「ん……眠いんだけど」

 と、言ってみるが、

「あのね、私、同じ塾で気になる男子がいるんだけど」

 と、川越は話しだした。

「何の話?」

「その男子ね、栃木君みたいにガリガリなの。そういう男の子は、私みたいなデブってどう思うの?」

 窓際でじゃれ合っていた青森流石(あおもり さすが)富山景都(とやま けいと)長野利津(ながの りつ)が、興味津々に咲哉と川越の様子を眺めている。

 その様子をちらりと横目に見ながら咲哉は、

「俺は別にガリガリ代表ってわけじゃないけどさ」

 と、言ってみる。

「言ってみてよ」

「……まぁ、自分の体型は自覚してるみたいだけどさ。川越は健康なのか?」

 眠い目を擦りながら、咲哉は聞いてみた。

「別に、デブだからって健康に問題はないわよ」

「それなら良いんじゃないか。俺はどっちかって言うと年上が好みなんだけどさ。大人の場合は横にでかいと高血圧だの高脂血症だの、健康に影響が出てるだろ。脳梗塞とか心筋梗塞なんかに直結するものだ。それでも定期健診とか受けて自分の身体と相談しながら食べるのも楽しんでるなら、どこも悪くない事にして食べるばっかりな人とは違うなって思うよ」

 と、咲哉は話した。

「……予想以上に真面目な答えを言ってくれるのね」

「言ってみろって言うから」

「ありがとう。うん、もう少し私、自分の体と向き合って考えてみる」

 頷くたびに、頬の肉が揺れる。

「俺にも教えてくれないか」

 と、咲哉は聞いてみた。

「なに?」

「川越は食べるのが好きなのか」

「好きよ。食べることが好きで、動くのが嫌いだからこの体型なのよね」

「俺も動くのは好きじゃないけど、食べるのもそんなに好きじゃないからこの体型なんだよな」

「……食べるのが好きじゃない人なんて実在したの?」

 川越が目を見張る。

「今の時期、お勧めの食材は?」

 と、咲哉は聞いた。

「食材?」

「最近、インスタントとか多くてさ」

「それはデブより体に悪いんじゃない? 私は最近、冬瓜を入れた鍋料理にはまってる。作るのはママだけど」

「トウガン……でかくて中が白いやつだっけ?」

「そう。大根みたいな使い方が出来る野菜だけど、煮物が美味しいわ。味がしみ込みやすいから鍋料理にも美味しいの」

 嬉々として話す川越に、咲哉はもうひとつ、

「鍋の味は?」

 と、質問した。

「私は味噌鍋が好き。でも薄味もこってりも、なんでも合うわよ」

「そうか。じゃあ、今度試してみるよ」

「うん。じゃあ、ありがとう」

「こちらこそ」

 川越は戸を大きく開けて2組の教室を出て行った。すぐに流石と景都、利津も咲哉の席にやって来た。

 欠伸(あくび)する咲哉の顔を覗き込んでやりながら、流石が、

「味噌鍋の話してなかったか。愛の告白じゃなかったのか」

 と、聞いた。

「違うよ。聞くならちゃんと聞いとけよ」

「お前ほど耳よくねぇから、遠くて聞こえなかったんだよ」

「塾に、俺みたいなガリガリの男子で気になる奴がいるんだってさ。で、ガリガリ男子はデブについてどう思うかって聞くから、自分の健康について理解してるなら良いんじゃないかって答えたんだよ」

 と、咲哉が話すと、流石と景都は目をパチパチさせた。

「まともな答えだな」

「うん。珍しい」

「でも、なんで鍋の話が出て来るんだよ」

 と、利津も聞いた。

「俺も聞いたんだよ。食べることが好きな奴のお勧め食材は何かと思って」

「咲哉も太りたいの?」

 遠慮しない表現で景都は聞く。咲哉は薄く笑った。

「最近、秋さんが忙しくて店に食いに行けないんだ。インスタントかコンビニばっかだから、なんか作ろうと思うんだけどさ」

「インスタントかコンビニばっか?」

「雨の中、外食とか面倒だし、出前も飽きてきたし」

「体に悪いよぉ」

 と、景都が言い、流石も、

「たまには俺んち食べに来いよ」

 と、言う。

「いや、別に自炊できない訳じゃないんだけどさ」

「じゃあ、今夜は咲哉んちで鍋パーティーしようぜ」

 楽しげに流石が言った。

「今夜?」

「明日休みだし、そのままお泊りとか」

「賛成!」

 と、手を伸ばしたのは利津だ。

「お鍋はみんなでつつくと美味しいんだよ」

 景都も楽しげに目をキラキラさせている。

「じゃあ、世津(せつ)も誘っていいよな」

 と、利津が言う。世津は利津の双子の弟で6組の生徒だ。

「帰ったら、冬瓜買いに行こうね」

 そういう事になった。

 窓の外に目を向ければ、今日もシトシトと梅雨時期らしい雨が降り続いている。



 長野利津と双子の弟の世津は、咲哉の家の前で立ち尽くしていた。

 シンプルで落ち着いた洋風の門構え。その向こうには、雨に濡れる花の庭が広がっている。

 ノートの切れ端に咲哉が書いた地図を、世津が見下ろしている。表札に目を向ければ『栃木』の名前がある。

 お揃いのグレーの傘を差したふたりは、無言で顔を見合わせた。

 利津はポケットからスマホを取り出した。咲哉に電話をしてみる。

「なぁ、ここんちで合ってんの?」

 と、利津は聞いた。

 家の中で咲哉は、インターフォンのモニターを見た。

「あってるよ。門の鍵開いてるから、通路沿いに歩いて来いよ。玄関も開いてるし」

 と、咲哉は答えた。

 雨に濡れる庭で、紫色のアジサイが良く映えている。

 広々とした玄関ホールでも、利津と世津は揃って立ち尽くしていた。

 咲哉と、流石に景都も玄関ホールでふたりを出迎えた。

「あ、傘はそこ置いてね」

 と、言うのは景都だ。

「うち、すぐわかったか?」

「うん。書いてくれた地図、わかりやすかったよ。あ、お邪魔します」

「いらっしゃい。リビング、こっち」

 玄関ホールを見回す利津と世津に、流石が、

「わかるぜ。すげぇ家だよな」

 と、頷いて見せる。

「金持ちとは聞いてたけど、ここまでとはな」

「中古で買った家だよ」

「リノベーションってやつ?」

「うん。そんな感じ」

 大きなソファーの並ぶリビングも見渡す広さだ。その向こうに、キッチンとダイニングテーブルが見える。

 リビングで景都が、私服の長野双子を見比べている。

「顔しか同じじゃない」

 兄の利津はウィンドブレーカーのような上着を脱いで、泊り用の荷物を入れた布鞄もソファに置いた。ロゴの入ったTシャツにダメージジーンズを履いて、少しチャラチャラした印象だ。

 弟の世津は薄手のトレンチコートに黒のリュックを背負っていた。その下にはYシャツにニットベスト、スッキリしたチノパンを履いて、優等生らしい印象だった。

 普段は制服しか見ていない友だちの私服を見るのは新鮮だ。

 流石は動きやすいスポーツメーカーのジャージ上下、景都は猫の絵の描かれた薄手のトレーナーだ。咲哉はグレーのパーカーに黒のスキニーを履いている。

 リビングを眺めている利津と流石、景都を横目に、世津はキッチンへ向かう咲哉に、

「悪いな、栃木。余所のクラスの俺まで来ちゃって」

 と、声をかけた。

「いや、助かるよ。野菜とか買い過ぎたから」

 大きなダイニングテーブルには、買って来たばかりの野菜が並んでいる。

 近所に住む流石、景都、咲哉の3人で先に買い出しをして来たのだ。家が少し離れている長野双子は後から合流した。

「あ、お茶とジュース買って来たんだけど」

「おー、助かる。飲み物は忘れてたよ」

 流石と景都、利津もキッチンへやって来た。

「冷凍庫の松坂牛で焼き肉もしようって言ってたんだぜ」

 と、流石が言う。長野双子は目を丸くした。

「そんな高級食材、使っちゃっていいのっ?」

「いや、冷凍庫に3か月くらい入れっぱなしだったから、もう高級な味じゃなくなってるんじゃないか」

「そんな事ないだろ」

「じゃあ、準備するか」

 と、流石が言った。

「うん」

「コンロとホットプレートは物置部屋だよな」

「うん。手前の棚にあると思う。あと、テーブルの椅子4つしか出てないから、もうひとつ出して来てくれ」

「よっしゃ。じゃあ、俺と景都と利津はそっちの準備だ」

 と、流石が言うと景都と利津が頷いた。

「世津は俺と食材の準備だな」

 と、咲哉も言うと、世津が頷く。

「美味い鍋と焼き肉作るぞ!」

「おー!」

 作業開始だ。


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