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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
21/42

残念な大人 1

 今回はホラー要素がほぼありません。

 中央中学の体育は、3クラス合同で行われている。

 流石(さすが)景都(けいと)咲哉(さくや)の1年2組は、1組、3組と合同で体育の授業を受ける。

 事件が起きたのは、4月も終わりに近付き日差しが強くなるころだった。


 人通りの多い指定通学路とは離れた、空き家通り裏手の竹藪沿いの道。

 椅子代わりに丁度いい土管が鎮座している。3人の朝の待ち合わせ場所だ。

 今朝は流石と景都が先に来て、咲哉を待っていた。

 道の向こうから、グレーの大きなタオルを頭からかぶった中学生が歩いて来る。

 痩せた背格好は、どう見ても咲哉だ。しかし、タオルにすっぽりと隠れて顔が見えない。

「よぉ、咲哉。大丈夫か?」

 と、流石が声をかけた。

「……今日は日差しが強いなぁ」

「そっか。咲哉、日差しが苦手なんだよね」

 竹藪の影に入り、やっと咲哉は顔を上げた。

「小学校は赤白帽があったのにね。どうして中学には無いんだろう」

 と、景都が首を傾げる。

「やめろよ。俺だけ麦わら被れとか言われそうだ」

 と、咲哉は薄く笑った。

「……咲哉、麦わらは似合わなそう」

 思い浮かべてみながら景都が言っている。

「今日は1時間目から体育だ」

「一番暑い時間じゃなくて良かったね」

「紫外線アレルギーだもんな。まだ、体育は見学じゃなくて大丈夫なのか?」

 と、流石が聞いた。

「うん。でも、そろそろかなぁ」

 通路に影を作ってくれている雑木林を見上げながら、咲哉は溜め息をついた。

「具合悪くなったら言えよ。すぐ日陰に連れてってやるから」

 と、流石が言う。

「ありがとう。でも、あんまり大袈裟にしないでくれよ」

「わかってるよ」

 流石もスッキリ晴れた青空を見上げた。今年は暑くなりそうだ。



 昇降口のすぐ近くに、上階へ続く階段がある。

 生徒たちの教室に続いているのは、昇降口から少し進んだ別の階段だ。

 上階には視聴覚室や多目的室などの特別教室がある。しかし、昇降口から直接行く事は少ないため、あまり使われていない階段だ。

 咲哉は体育の授業前に、昇降口の真上の階のトイレに寄った。

 かぶれやすいアレルギー肌の咲哉も使える日焼け止めは、こまめに塗り直す必要がある。体育の前には、階段を下りればすぐに昇降口へ行けるトイレで日焼け止めクリームを塗り直しているのだ。

「麦わらはないなぁ……」

 などと独り言を呟きながら咲哉が両手にも日焼け止めを塗っていると、男子トイレの入り口から、1組の生徒がやって来た。

 ジャージの左胸に『奈良(なら)』と名前が書かれていた。

 鏡越しに目が合い、奈良は、

「あ、ヴィネの日焼け止めだ」

 と、言った。

「使う?」

 咲哉が聞くと、奈良は首を横に振った。

「ううん。それ、1本3万円くらいするやつだろ。意味も無く高い金とらないってやつだよな」

「そうだなぁ」

「俺のはこれ」

 と、鏡の前に置いたボトルを見て、

「あぁ、皮膚科で出されるやつか」

 と、咲哉は言った。

 奈良もボトルから日焼け止めクリームを手に取り、顔に伸ばし始める。

「これ塗ってても、長いこと日差しは浴びられないんだけどね。栃木も紫外線アレルギー?」

「うん。俺はあんまり酷くないけどな。でも顔に赤いボツボツとか斑に変色とか勘弁だからさ」

 奈良は、首回りや耳の後ろにも念入りに塗りながら、

「本当、勘弁だよね。夏になると目薬とか飲み薬も増えるよ」

 と、言う。

「それは大変だな」

 クリームを塗り終えた咲哉がグレーのタオルを首に巻き付けると、

「あ、タオル首に巻くの良いね。体操着とジャージ以外って怒られるかと思ったけど」

 と、奈良が言う。

「普通に汗拭きタオルを首にかけて体育で走ってる先輩もいたから、こういうのは良いと思うよ」

 と、咲哉は答えた。

「そっか。俺も明日からタオル持って来よう」

「今日の体育は見学?」

「うん。紫外線が強い日の外体育は、日陰で見学させてもらえることになってるんだ。本当は屋内だと助かるんだけどさ」

「そっか。俺も、その内そうなる。今日はまだいけそうだけど」

「紫外線アレルギー仲間がいるとは思わなかったよ」

 と、奈良は笑顔を見せた。咲哉も笑みを合わせる。

「俺も。この場所もいいよな。そこの階段下りればすぐ昇降口だ」

「うん。静かだしね」

 人気(ひとけ)のない階段を下り、咲哉は奈良と一緒に校庭へ出た。日焼け止めクリームのボトルは靴箱に置いてきた。

「結構強いなぁ、日差し」

 と、咲哉は息をつく。

「そうだね」

「まだ、なんとかなるかな。じゃあな、奈良」

「うん」

 咲哉は、とことこと校庭へ歩いて行った。

 奈良は見学を伝えるため、体育教師を探した。

 若い女性の体育教師・徳島(とくしま)が校庭の奥で生徒たちとサッカーゴールの準備をしている。

 もうひとり、四十前後に見える男性の体育教師が、校庭のステージ横でファイルのようなものを眺めていた。

 奈良は、体育の男性教諭・数本(かずもと)に声をかけに行った。


 この日の体育は校庭でサッカーだ。

 予鈴が鳴り、サッカーボールで遊んでいた生徒たちはボールをカゴに戻して行く。

 すでに日陰にいるだろうと、咲哉は奈良の姿を探してみた。

 奈良はステージ横で陽を浴びていた。その顔は真っ赤に腫れあがっている。

 太陽を背に立つ数本教諭を見上げて、奈良は全身に陽を浴びている。目を開けているかどうかもわからないほど、眼球まで真っ赤だ。

「流石、これ」

 持っていたボールを流石に渡し、咲哉はすぐに走り出した。

 咲哉が駆け寄る前に、奈良はしゃがみ込んでしまった。

「なにしてんだ!」

 咲哉の声に振り返った数本の顔は、へらへらと笑っていた。

「日陰の次は貧血か? 現代っ子はしょうがないよな」

 咲哉が見物に来たとでも思ったのか、数本は同意を求めるように言う。

「嘘だろ。病院送りにする気かよっ」

 首に巻いていたグレーのタオルを、咲哉は奈良の頭から被せた。なにやら笑って話し続ける数本を無視して、

「徳島先生!」

 と、若い女性教諭・徳島を呼んだ。

 すでに徳島教諭も、近くまで駆け寄って来ていた。

「早く冷やさなくちゃダメだ。保健室に連れて行きます」

 徳島に言いながら咲哉は奈良の腕を肩にかけ、背中を支えて立ち上がらせた。

 数本は他人事のように、そっぽを向いてファイルを眺め始めた。

 徳島は数本にチラリと視線を向けながらも、

「お願いね、栃木君。1組の保健委員はっ?」

 と、生徒たちに声をかけた。

 すぐに、1組の保健委員の男子生徒が走って来た。咲哉と両脇から奈良を抱えて日陰に入る。

 何事かと目を向ける生徒たちに見送られながら、奈良を支える咲哉たちは保健室へ向かった。


 校庭から校舎に向かって正面に見える保健室は、外にも出入り口がある。

 奈良を支える咲哉と1組の保健委員男子は、校庭側から外靴を脱いで保健室に入っていた。

 丸テーブルに並べたパイプ椅子に腰かけている。

「そっか。それで暑いのにジャージだったんだな、奈良」

「うん」

 顔を冷やす濡れタオルの中から、奈良はこもった声で答えた。

「あれ、栃木もアレルギー?」

 と、保健委員男子は咲哉のジャージにも目を向ける。

「そうだよ。俺は奈良ほど重症じゃないけどね」

 男子保健委員は、

「俺もここにいちゃダメ?」

 と、養護教諭の福井(ふくい)に聞いた。

 三十歳ほどに見える白衣姿の福井教諭は、

「ダメよ。戻って徳島先生に、ふたりは保健室で休ませるって保健の先生が言ってたって伝えてね」

 と、言った。

「ういっす」

 軽く返事をして、保健委員男子は校庭へ戻って行った。

 今年の4月は気温が高くなるのも早く、保健室では早くも冷房が効いている。

 校庭側の窓や出入り口も締め切っているが、耳のいい咲哉にはサッカーボールを蹴る音や生徒たちの声が聞こえていた。

 そして、1時間目の体育の授業は、すぐに終了した。

「大丈夫か、咲哉っ」

 と、保健室に流石が駆け込んで来た。

 景都と、奈良の友人の男子生徒、体の大きな吉野(よしの)も一緒だ。

「青森君、保健室では静かに」

 と、養護教諭の福井が、口の前に指を立てて見せた。

 パイプ椅子に奈良と並んで座っていた咲哉は、

「大丈夫じゃないのは俺じゃなくて1組の奈良だよ、流石」

 と、言った。

 奈良の友人の吉野は、床に膝をついて、

「気が付かなくてごめんなぁ……」

 と、奈良の顔を見上げながら泣きべそをかき始めた。

 流石と景都、咲哉も目をパチパチさせた。

 奈良は慣れた様子で、

「4月の内からこんなになると思ってなかったんだよ。日焼け止め、ケチってたかも」

 と、苦笑している。

「大丈夫か? 次の授業、受けれるか?」

「うん」

 中1には見えない大柄な体格の吉野は、奈良の手を引いて立たせてやった。

 どっこらしょと、咲哉も立ち上がった。

「じゃあ、先に戻るよ」

 と、咲哉は奈良に声をかけた。

「うん。付き合わせて悪かったな、栃木」

「いいよ。保健室、涼しくて居心地良いし。次の体育から俺も見学するよ」

「そっか」

「じゃあ、福井先生。失礼します」

 咲哉は養護教諭の福井にも声をかけた。

「はいはい。ふたりとも、お大事にね」

 校庭側の出入り口に置いてある靴を履いて、流石と景都、咲哉も外へ出た。

「紫外線アレルギー仲間がいたんだな」

 と、歩きながら流石が言っている。

「うん。俺より重症みたいだ」

「そうか。あと、でかいやつ、吉野だっけ。景都以外であんなに泣く男子、初めて見た」

「僕も仲間を見付けた気分」

 と、景都も言っている。

 日陰を歩いているが、日除けのない校庭がまぶしく見える。

 まるで初夏のような青空が広がり、日差しがギラギラと照り付けていた。


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