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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
19/42

蝕場霊(じきばれい) 1

 今回は怪談です。

 桜は散っても、花曇りの空が続いている。

 その日も厚い雲に覆われて、ひんやりとした一日だった。

 流石(さすが)景都(けいと)咲哉(さくや)の仲良し3人組は、いつもの帰り道を歩いていた。

 雑木林と空き家群の間に通路があり、3人横に並べる道もあれば、生垣が出っ張って縦一列にならないと通れない狭い場所もある。

 狭い道では流石を先頭に、景都が真ん中で最後を咲哉が歩いている。

 手入れのされていない雑木林には、枯れ木も雑草もごちゃまぜに()()()()()いる。それほど広い訳でもないが、雑木林の向こうがどうなっているのかを見に行ったことはない。

 空き家群と雑木林の間の通路も古く、咲哉はひび割れたコンクリートで転ばないように足元を見て歩いていた。

 視界の先を行く景都の運動靴が、突然向きを変えた。

「……景都?」

 咲哉が声をかけると、前を行く流石が気付いて振り返ったが、景都本人は無反応で(やぶ)の奥へと進みだす。

「景都、どうしたんだ」

 と、流石が声をかけても、

「えー、なーにー?」

 と、景都は呑気な声を出しながら、ガサガサと枝を分けて進んで行く。

「だめだ、景都っ、戻れ!」

 咲哉が声を上げた。

 その慌てるような声に驚きつつ流石は、景都を追って行こうとする咲哉の腕を掴んだ。

「待てよ、咲哉。お前かぶれるから。止めた方が良いんだな?」

「うん……」

 珍しく慌てた様子の咲哉を通路に待たせ、流石は藪に入った。

 大きな枯れ枝や雑草が入り混じって、地面も見えないほどだ。

「うわ、けっこう足取られる。景都、よく進んでくな」

 流石は足元を確かめてバランスを取りながら歩いた。

 軽快に進んでいた景都も、大枝に引っかかって足を止めている。

 枝を避けることは諦め、流石はザクザクと枝や雑草を踏みつけて進み、景都の腕を掴んだ。

「景都!」

 しかし景都は、

「いや!」

 と、流石の腕を振り払った。

「うわっ。おい、景都っ。そっちに何があるってんだよっ」

「なんで止めるのっ。あっち行くの!」

 振り向きもせず、景都は流石の手を逃れて進もうとする。

「行っちゃだめだ!」

 咲哉も通路から叫んでいる。

「とにかく、いったん戻るぞ!」

 と、流石は後ろから景都を捕まえ、そのまま抱えて通路へ向きを変えた。

「あーっ、やだやだぁっ」

「大人しくしろってばっ」

 バキバキ、ガサガサと枝を踏む音が雑木林に響く。

 暴れる景都を抱きかかえたまま進み、なんとか流石は通路へ戻った。

 景都の腕を掴もうとする咲哉の手も振りほどかれる。

「どうしちまったってんだよっ」

 抱えられて足をバタバタさせる景都を、ひび割れたコンクリートの上に押さえつけた。

 それでも藪へ向かって行こうとする景都を、流石が羽交(はが)()めにしている。

「おい、景都っ!」

「行ってやるから出てってくれ!」

 咲哉が叫びながら、景都の背中をバンバンっと叩いた。

「――けほっ、けほけほっ」

 叩かれて咳き込む景都の背中を撫でてやりながら、咲哉は蒼い顔で溜め息をついた。

「出てった……」

「……なんだったんだ?」

 抵抗していた力がなくなり、流石は押さえつけていた景都から手を離した。

「景都に動物霊が入っちまって、たぶん追い出せた」

 と、咲哉が言う。

「動物霊っ?」

「……ふえ? いま、なにしてたの?」

 咳き込んで涙目になりながら、景都が顔を上げて咲哉と流石に目を向けた。

「景都、大丈夫か」

「なにが?」

 首を傾げる景都に、流石も首を傾げながら、

「いきなり藪に突っ込んでっちまったんだぜ。覚えてないのか」

 と、聞いた。

「僕が?」

 制服についた小枝や枯れ葉を見て、景都はポカンとしてしまっている。

「……行ってやるって言っちゃったから、行かねぇと」

 藪の奥を見つめる咲哉の腕も押さえ、流石は、

「だめだってば。かぶれるだろ」

 と、言った。

 アレルギー肌の咲哉は、葉っぱでも枯れ枝でも擦れればかぶれやすい。

「うん……それより、急にでかい声出したから、なんか目ぇ回っちゃった」

 と、しゃがみ込んだまま項垂れてしまう。

「咲哉……ごめん、僕、なにしたの?」

 景都が咲哉の肩を支え、一緒に並んで地面にへたり込む。

 ゆっくりと瞬きをしながら、咲哉は景都の体に目を向けている。

「急に、動物霊が景都に取り憑いたんだよ。たぶん小さい子ネコと、でっかいネズミだ」

 と、咲哉が言った。

「えっ」

「まだ近くにいるのか?」

 と、流石がポケットから小さい水晶玉を出している。

 不思議屋でもらった、霊感のない者にも霊の姿が見える不思議アイテムだ。

「今はもう見えない。たぶん、あの場所に戻ったんだ」

 と、咲哉は景都が進んでいた方向を指差した。

 水晶越しに見ても、藪が広がるばかりだ。霊の見える景都も首を傾げている。

「あの場所ってなんなんだ」

 霊の姿ではなく感情や意志を見る咲哉は、藪の奥を見つめ、

「でかいカラスが2羽、子ネコとネズミを捕まえて来て、同じ場所で喰ってたっぽい。喰い散らかされたまま、虫にたかられてるのをなんとかしてほしくて、景都を呼んだんだ」

 と、話した。

「……」

「埋めて来てやればいいのか」

 と、流石が聞いた。咲哉はゆっくりと頷いた。

「落ち葉を被せるくらいでも満足するんじゃないかな」

「あ、流石。軍手、軍手」

 景都が自分のリュックから、不思議屋の草むしり用に常備している軍手を出した。

「おー、ちょっと借りるな」

 自分の通学リュックを下ろし、軍手をはめながら流石は、

「お前らはそこにいろよ」

 と、言って、藪に入った。

「うん」

 威勢のいい雑草を掻き分け、枯れ枝を跨ぎながら藪を進むと、落ち葉の吹き溜まりのような小さい空間が見えた。

「……ここか」

 ハエがぶんぶんと飛び回り、枯れ葉の上に生き物の体が散らばっていた。

 まさに、喰い散らかすという状態だった。

「……」

 流石は足元の枯れ葉を除け、枯れ枝で地面を掘った。

 小さな動物たちの死骸が乗った枯れ葉ごと、土に埋めた。

 通路に残るふたりから、藪の中の流石が手を合わせているのが見えた。

 景都と咲哉も、そっと手を合わせて目を閉じた。



 空き家群と藪の間の通路を途中で曲がらず進むと、楓山へ続く山道に出る。

 景都に取り憑いた動物霊を追い出した咲哉は、立てずに目を回していた。

 ぐったりしている咲哉を流石が背負い、楓山の不思議屋へ向かっている。

 景都は流石の通学リュックを両腕で抱えながら、

「カラス、生ゴミあさるだけじゃないの……」

 と、思い出して泣きべそをかいていた。

「カラスは雑食だろ。肉も野菜も果物も喰い荒らすらしいぞ」

 と、流石が言っている。

 流石に背負われ、目を閉じたまま咲哉は、

「鳥はあんまり詳しくないから、黒っぽく見えたトンビとかタカだったかも知れないけどな」

 と、言っている。

猛禽類(もうきんるい)は地面に降りないで、木の上で獲物を食ってるイメージだけどな」

 と、流石が言う。景都は、

「もーきん?」

 と、首を傾げた。

「タカとかワシとか、肉食の鳥のことだよ」

「へー」

 春の風が、3人の背中を促すように流れていく。

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