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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
18/42

ドッペルゲンガー 2

 帰りのホームルームで、個人のテスト順位が書かれた小さい紙が配られた。

 総合順位と、教科ごとの順位が書かれている。

 流石(さすが)景都(けいと)咲哉(さくや)の3人は順位表の紙を見せ合いながら、帰り道を歩いていた。

 景都は咲哉と手をつないでいる。

「なんか、僕と流石のは大きい数字ばっかりで、順位がぴんとこないよ」

「確かに。もう俺なんか、ビリの教科がないことの確認でしかねぇよ」

 流石が言うと、咲哉はフフッと笑った。

「期末はもう少し頑張ろうぜ?」

「咲哉は手ぇ抜くんだろ?」

 流石に言われ、

「もちろん。でも、順位3桁までは落とさないよ」

 と、咲哉は答える。

「咲哉、英語も国語も1位だね」

「一応、イギリス育ちだからな。小学校入る前までだけど。今は日本で生活してるしって感覚で、国語も頭に入りやすいんだと思う」

「へー」

 空き家と竹藪に挟まれた通路は、他に人通りもなく静かだ。

 自分の順位表をポケットに押し込んで、流石は、

「そういや、ドッペルの方が男子で2位だったってな」

 と、言った。

世津(せつ)も凄いよねー」

 景都は、まだ自分の順位表を眺めている。

 咲哉も小さく畳んだ順位表をポケットに入れ、

「塾行って、勉強ばっかりしてるってな」

 と、言った。

「咲哉は塾とか行かないの?」

「なんのために?」

 景都に聞かれ、咲哉は聞き返す。

「あー、必要ないかぁ」

「塾は塾なんだろうけど、やっぱり勉強は自分の好きな方法で進めるのが良いんじゃないかな」

「その自分の方法がしっくりこないから塾に行くんだろ? 逆に、俺とかそのうち塾行けって言われんのかな」

 と、流石が肩を落としている。

「学校の勉強なら俺が教えてやるって」

 と、咲哉は笑う。

「あ、そっか」

「塾行くより、お婆ちゃんとこでオヤツしながら勉強するほうがずっと楽しいよ」

 と、景都も言う。

「確かに」

 この日も、3人は学校帰りに不思議屋へ向かって行った。



 翌日、すでに中間テストの順位表は剥がされていた。

 過ぎればもう気にしない。次々に新しい授業もイベントも進んで行く。常に新鮮な生活ができるのも学生の若さというものだ。

 しかし、長野利津(ながの りつ)はまだ引きずるものがあった。

「栃木が塾行ってないって、世津が信じてくれない……」

 利津が、景都の後ろの席でぼやいていた。

「えー、なんで? 本当だよ?」

 と、景都が聞き返す。

「なんか、1位2位と4位も女子で、世津が5位だったろ。世津より上の男子は気になってたみたいでさ」

「あっ、咲哉と世津、男子で1番と2番の成績なんだね」

「別に競い合おうってんじゃなくてさ。たまたま俺と同じ2組だったから、どんな奴だって聞かれて、ドッペルゲンガーの話しした時に隣にいただろって言ったら驚いてた。でも確かに賢そうだったとは言ってたけどな」

「そっか。勉強が好きなら、やっぱ勉強の順位も気になるのかな。利津は、気にしてる世津が気になるの?」

 と、景都は聞いてみる。

 うんうんと頷きながら利津は、

「子どもがやることって、勉強だけじゃねぇじゃん。世津は勉強しかしてない」

 と、言った。

「そっかぁ。今の内に楽しむ練習もしてないと、人生つまんなくなっちゃうねぇ」

 しみじみと、景都が言う。

「それそれ。俺はそれが心配なの」

「お兄ちゃん、優しいじゃん」

「俺が一緒に遊びたいってのも本音だけどな」

「じゃあ今度、一緒に遊びに行こうよ。咲哉と世津もみんなで」

「おー。お前ら、いつも何して遊んでんの」

「山登ってったり、おやつ食べたり、お昼寝したり」

「へー……世津に聞いてみようかな。なんで順位気にしてるとか話しちゃうんだって怒られそうだけど」

 苦笑しながら、利津は景都の頭を撫でていた。



 帰り道。利津は、前を歩く世津を見付けて駆け寄った。

 大通り沿いの、商業ビルやマンションの建ち並ぶ街中が利津と世津の通学路だ。

「どんな奴かちょっと聞いただけじゃん。なんで、そういうの話しちゃうんだよ」

 利津は、まさに予想していたことを世津に言われていた。

「俺もちょっと聞いただけだよ。ドッペルにビビってた、ちっこいのいただろ」

「それで?」

「栃木はイギリス育ちで、両親は今もそっちにいるんだってさ」

「え?」

「飯食わせてくれる親戚はいるけど、でかい家にひとりで住んでる金持ちだってさ」

 広い歩道に、ふたりは並んで歩いている。

 世津は眉を寄せ、

「……どこから作り話?」

 と、聞いた。

「全部、本当だよ」

「うそだろ」

「ドッペル信じる富山が言ってたんだぜ」

 と、利津は真面目に言っている。

「……」

「今度、栃木も世津もみんなで遊ぼうってさ」

「利津が遊びたがるから誘ってくれたんだろ」

 少し呆れたように息をつく世津に、利津は真面目な顔を向け、

「中学はもう、ずっと勉強って感じだろ。小学校の後半からあんま遊んでないし、これから勉強も増えるばっかだ。今の内に遊んで欲しいんだよ」

 と、言った。

 世津は目をパチパチさせてから、顔を背け、

「……ちょっと遊ぶくらいは良いけどさ」

 と、答えた。

「マジで?」

「あいつら、なにして遊んでんの」

「なんか、山登って昼寝とか言ってた」

「アクティブだな。利津もそういう遊びしたいの?」

「あんま得意じゃねぇなぁ」

 と、利津は笑った。



 昼休みに英語の辞書を借りに来た利津は、面白そうな遊びを見付け、世津を廊下へ連れ出して来た。

 前半クラスと後半クラスの間に、渡り廊下とトイレがある。

 利津と世津が渡り廊下の陰からトイレを覗けば、ちょうど景都が出て来て水道で手を洗っているところだ。

 利津は壁に隠れながら、

「ここから『わっ』ってやってさ。富山を脅かしたら、どんな反応すると思う?」

 と、言った。世津は小さく溜め息を吐き出した。

「面白い遊びっつうから何かと思えば……そんなの、泣いちゃうんじゃないのか」

「さすがに、ちょっと脅かしたくらいじゃ泣かないだろ」

「じゃあ、驚きすぎてフリーズするとか」

「お。そうくるか。じゃあ俺は、キャーって女子みたいな悲鳴あげると思う」

 廊下を覗き見る利津の後ろから、

「いやいや」

 と、流石が声をかけた。

 休み時間、眠気覚ましに流石は廊下をふらふら歩いていたのだ。

「お。青森、いたのか」

 利津が言うと、世津は慌てて、

「いや、本当に脅かそうって話じゃないよ」

 と、言ったが、流石は笑いながら、

「べつに、ちょっと脅かすくらい良いんじゃね? この前も、怖いことも慣れたら怖くなくなるかなって言ってたし」

 と、言っている。

「へー」

「俺は咲哉に抱きつくに賭ける」

 流石も廊下を覗き見ながら言った。

「あー、よく栃木にしがみついてるよな。でも近くにいなかったら?」

「いなくても」

「いなくても?」

 とことこと、景都がこちらへ近づいて来る。

 ガヤガヤと賑やかな休み時間の廊下で、利津は、

「わっ!」

 と、声を出して飛び出した。

「――っ!」

 驚いて駆け出した景都は、すぐに咲哉に抱きついていた。

 いつの間にやら、咲哉が近くに来ていたのだ。

「栃木!」

「近くにいたのか」

 利津と世津が揃って目を丸くしている。

「いま来たところ」

 恐る恐る顔を上げる景都の頭を撫でてやりながら、咲哉は、

「脅かしてやんなよ」

 と、笑った。

「……もー。ビックリしたじゃんかぁ」

 と、景都は涙目になりながら口を尖らせている。

「ごめんごめん」

「ワッてやったら、キャーとか声出すと思ったんだけどな」

「……俺はビックリしすぎてフリーズするかと」

「富山を脅かすと栃木が現れるとは思い付かなかったな」

 と、利津が笑っている。

「栃木を見もせずに抱き付いただろ」

「空気でわかるもん」

 咲哉に抱きついたまま、景都が言う。

「空気?」

「咲哉が近くにいる空気」

気配(けはい)とかじゃなくて?」

「あ、そういうのかも」

「俺は普通に、景都を脅かしてみる相談が聞こえてたんだけどな」

 抱きつかれたまま咲哉は、景都の頭を撫でている。

「マジで?」

「流石が、ちょっと脅かすくらい良いんじゃねって言ってた」

「むー」

 と、景都は流石に頬を膨らませて見せた。

「ビックリした時、栃木がいなかったらどうするんだ?」

 と、利津が聞いた。

「抱きつける人に抱きついちゃうかも知んない」

 そう言いながら、景都は世津に両手を伸ばして抱きついてみる。

「ん。咲哉がいなかったら、世津に抱きついていい?」

 世津は目をパチパチさせてから、

「いいよ」

 と、答えた。咲哉が笑いながら、

「景都、流石が俺じゃないのかって顔してるよ」

 と、言った。景都は首を傾げている。

「流石には抱きつくじゃなくて、しがみつくって感じ。厚みがあるから」

「厚み……別に俺、太ってないだろ」

 と、流石は自分の腹など撫でている。咲哉も、

「俺は薄いってこと?」

 と、聞いた。

「うん。薄いから両腕で抱きついてる感がある。なんか咲哉の制服は肌触り良いし」

「デンマーク製の生地で、イタリアの職人がこの形に作ってくれた」

 さらりと言う咲哉に、4人が目を丸くする。

「デンマークとイタリアっ?」

「うん。UV加工がしっかりしてて、袖とか襟とか肌に擦れてもかぶれにくい素材なんだよ」

「……僕、高級制服に抱きついてたの」

「そんな事ないよ。母さんのお気に入りの職人さんが格安で作ってくれたから」

「へー」

「公立で制服特注する奴なんかいるんだな」

 と、利津が言っている。

「近所で売ってるのも買ってあったんだけどさ。首とか袖とか擦れてかぶれちゃってさ」

 首元を撫でながら咲哉が言う。

「咲哉、アレルギーだもんね」

 景都は、咲哉の制服の袖に触ってみながら言った。

「それは大変だなぁ」

 と、言う世津に、咲哉は、

「食べ物のアレルギーじゃなくて、紫外線アレルギーなんだけどさ。普通に色々かぶれやすくて、外でもあんまり遊べないから、日陰か屋内でばっか遊んでるよ」

 と、笑って話した。

「山登ってるとか聞いたけど」

「そういや、いい具合に木のトンネルになってるんだよな」

 と、流石が言っている。景都も、

「木のトンネルの獣道を登ってってね、不思議屋っていうお店でオヤツ食べたり宿題やったりして遊んでるんだよ」

 と、言った。

「不思議屋?」

「知らない? 北区だと有名なんだよ。お願いを叶えてくれて、色々不思議なの」

 楽しげに景都が言う。

「今度、一緒に行こうぜ」

 と、流石が誘った。

「おー、楽しそうだな」

 利津が言うと、世津も頷いた。

 満面の笑みを向ける利津に、世津がうっとうしそうな顔を向けていると、ポーンと、予鈴が鳴った。

「じゃあ、俺戻るから」

 と、歩き出す世津に、

「世津。今日も帰り、一緒に帰ろうぜ」

 と、利津が声をかけた。

「ちんたらしてたら置いてくから」

 そう言って、世津は6組へ戻って行った。

 流石、景都、咲哉に利津も2組の教室へ向かいながら、

「帰りも、うざがって一緒に帰ってくんなかったから、嬉しい」

 と、利津が言った。

「じゃあ、次の目標はおててつないで帰ることだね」

 などと景都が言うので、

「彼女かよ!」

 と、利津が突っ込みを入れ、流石と咲哉が吹き出して笑った。

「僕はいつも、咲哉とおててつないでるもーん」

 そう言って、景都は咲哉と手をつなぐ。

「なにそれ。うらやましいんだけど」

「じゃあ、次の目標だね」

 笑いながら、4人は教室へ戻った。

 淡々と授業の続く学校でも、楽しみは毎日どこかに転がっているのだ。


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