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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
17/42

ドッペルゲンガー 1

 今回はホラー要素がありません。学校の兄弟ネタです。

 長野利津(ながの りつ)は中央中学校1年2組、出席番号は富山景都(とやま けいと)の後ろだ。

 新入学気分も抜けているが、席順は出席番号順のまま入学初日から替わっていない。

 休み時間にトイレから戻った景都は、後ろの席でぼんやりしていた長野利津をじっと見つめた。

「どした?」

「さっき、トイレにいなかった?」

 難しい表情をして、景都が聞いた。

「俺、ずっとここにいたぜ。あ、お前見たんだな。それ、俺のドッペルゲンガーだよ」

 と、利津は真顔で言った。

「えっ!」

「小学校の時からさ、ちょいちょい目撃されてるんだよな。中学にもついて来ちまって」

「それって……本人が見ると死んじゃうんじゃないの」

 開けっ放しの教室のドアに目を向けながら、景都が小声で言っている。

 利津は薄く笑いながら、

「よく知ってるな。今のところは大丈夫だけどさ。ばったり会っちまったら、どうなるかわかんねぇな」

 と、首を傾げて見せる。

「さっきは、トイレにいたけど」

「そっか。じゃあ、しばらく学校で便所行くのやめとこうかな」

「他の階のトイレとか行った方が良いよ」

「そうだな」

 出席番号順では、富山景都の前に栃木咲哉(とちぎ さくや)が並ぶ。

 しかし、咲哉は2列目の一番後ろの席で、景都は3列目の一番前だった。

 耳の良い咲哉は後ろの席から、景都と利津のやり取りを聞いていた。また、からかわれてるなぁと思いながら。

 そして、長野利津のドッペルゲンガーは、すぐに景都の前に現れたのだ。


 数学の授業が終了した。

 『2年3年の数学の基本になるところだから、ここはしっかり覚えてね』と、授業のたびに言われている。もう、どの部分のことを言っていたやら、わからなくなっている生徒が多い。すべてを完全に覚える気になどならないというものだ。

 そんな授業内容よりもドッペルゲンガーが気になって仕方ない景都は、次の休み時間もチラチラと教室のドアに目を向けていた。

 そのドアから、長野利津のドッペルゲンガーがひょっこりと顔を見せたのだ。

「えっ」

 と、目を丸くして景都は、後ろの席の利津に目を向ける。

 利津はドッペルゲンガーに手など振っているではないか。

 ドッペルゲンガーがトコトコと教室へ入って来た。

「えぇっ、待ってっ」

 動揺する景都に、もうひとりの長野は目をパチパチさせたが、すぐに気付いたようで、

「利津、こんな素直そうな奴をからかうなよ」

 と、言った。

 そこへ、くすくす笑いながら咲哉もやって来て景都の頭を撫でた。

「景都、普通に双子なんじゃないか?」

 と、咲哉が言う。

「……双子? ドッペルゲンガーじゃないの?」

「ドッペル……俺は6組の長野世津(せつ)。双子の兄が悪いことしたな」

「いやぁ、そこまで信じるとは思わなかったからさ。悪かったな、富山」

 と、双子兄の利津も景都の頭を撫でた。

「同じ学年にお化けがいるのかと思って怖かったじゃん」

 双子の弟、世津も兄の利津に視線を向けてから、景都の頭を撫でた。

「なんか可愛いな」

 世津が言うと、隣で咲哉がうんうんと頷いている。

「いいなぁ、兄弟でそっくり」

 と、景都がしみじみ言った。

「そりゃ、双子だからな」

 と、利津が言えば、

「双子だけど顔しか似てないよ」

 と、世津が言う。

「そんな事ないだろ」

「それより数学の教科書」

 と、世津が利津に手を差し出した。

「教科書?」

 景都に聞かれ、

「忘れたって言うから貸してたんだよ。うちのクラスの数学は次だから、取りに来た」

 と、世津が答えた。

「世津の方がしっかり者だね」

 景都が言うと、利津と世津は揃って頷いて見せた。

「もうすぐ中間なんだから、テスト範囲とかちゃんと聞いとけよ」

「へいへい」

 教科書を受け取ると、世津は自分の教室へ帰って行った。

 ちなみに仲良し3人組のもうひとり、青森流石(あおもり さすが)は出席番号順で前から3番目だ。

 廊下側の列の前から3番目で、休み時間はいつもグッスリだった。



 小学校と違い、遊ぶ時間はなく座学の授業が続く。

 体育や音楽、技術家庭など移動教室の授業もあるが、基本的には教室での座学だ。

 入学気分は抜けても、朝から午後まで続く座学授業には、まだ慣れていない生徒も多い。

 そんな中での、初めての中間テストだ。

 テスト期間中は部活動もなくなり、いかにも勉強週間という雰囲気になった。

 全ての教科が数日に分かれて一斉に試験を行う。小学校とはまるで違うテスト方法だった。

 流石と景都は勉強が好きではない。

「不思議屋でテスト勉強するか?」

 という、咲哉の提案は却下だ。

「テストがどんなもんかわかんないから、とりあえず最初は家で適当に勉強する」

 そういう事になっていた。

 咲哉は授業で習った内容を、理解し直す復習をした。

 流石と景都は、教科書と授業のノートを読み返してみた。ほとんど忘れている内容を、読むだけで覚えることは不可能だった。

 咲哉がほぼ満点で、流石と景都がその半分ほどの点数だったことも頷ける。

「次は一緒に勉強しような」

 そういう事になった。



 中間テストの返却も済み、週末はたっぷり遊んだ。

 そして、月曜日。

 1年生の教室がある2階へ上がった階段の正面に、中間テストの順位表が貼り出されていた。

 クラスと名前、総合点数がずらりと印字されている。

「ご時世的にさ……こういうの、無くなったんじゃねぇの」

 不機嫌そうに咲哉が言った。

「上位50人発表だって。ここに入れるように頑張ろうって、やる気出る生徒も多いんじゃん?」

 順位表を見上げる生徒の波に近寄りながら、景都が言っている。

 咲哉は溜め息を吐き出し、

「テスト前に言っといてくんねぇかなぁ。俺、先に教室行くから」

 と、さっさと廊下を歩いて行ってしまった。

 流石と景都が順位表を見ると、栃木咲哉の名前はすぐに見つかった。3位だ。

 1位と2位は、7組の知らない女子だ。3位の咲哉は男子で1位。当然、クラス内でも1位だ。

 流石と景都も教室へ向かいながら、

「これ、次から咲哉は手ぇ抜くんだろうな」

「そうだね」

 と、頷き合っていた。


 中央中学の給食は、ひとり分ずつ盛り付けられた弁当箱状の容器が配られる。

 大鍋から器へ、自分たちで配膳していた小学校とは大違いだ。

 それでも、美味しいと言う生徒もいれば不味いと言う生徒もいるのは、どちらの給食でも同じだった。

 朝から中間テストの順位表が貼り出された日、咲哉は給食もほとんど残して早々に片付け、休み時間中もずっと机に突っ伏していた。

 そして午後の授業も終わり、帰りのホームルームが始まるのを待っている時間だ。

 帰り支度も済み、教室内はおしゃべりで賑やかだった。

 流石は突っ伏している咲哉の様子を眺めながら、景都の席へやって来た。

「流石ぁ、まだ咲哉の機嫌が悪いよぉ」

 と、景都も後ろの席に目を向けている。

「中間の順位表で名前が目立ったの、めっちゃ嫌だったんだろな」

「咲哉、目立つの嫌いだもんね」

 長野利津も教室の後ろを振り返り、

「なんでだよ。ほら、見てみろ。周りで話しかけたそうにしてる女子共の目を。そして5位の弟と間違われてはガッカリされる俺の虚しさを考えてくれ」

 と、言った。

「世津は5位だったの?」

「うん。世津は勉強大好きでな」

「長野兄の順位は?」

 と、流石が聞いた。

「ランク外」

「双子なのに、ずいぶん違うんだね」

 と、景都が目をパチパチさせる。

「お前らもランク外だろ」

「うん」

「世津は勉強ばっかりしてるからな。小学校の頃から。遊びもしないで、俺がゲーム買ってもらう代わりに問題集とか買ってもらってた。一緒に遊ぶ相手がいなくて勉強するとか言ってんのかと思って遊びに誘ってもさ、面倒くさそうな顔して遊んでくんないし」

「お兄ちゃん、寂しいね」

「うん。中学んなってからは塾行くって言いだして、余計遊んでくんなくなった」

「咲哉は俺らと遊んでんのにな」

 と、流石が言う。

「夜は勉強じゃない本読んでるか、パソコンでなんか遊んでるかだよね」

「パソコンで何してんの」

 利津に聞かれ、景都は首を傾げる。

「よくわかんない」

「塾は?」

「行ってないよ」

「マジで? 世津はなんで俺と遊んでくんねぇの?」

「勉強してるからだろ」

 小声になって景都は、

「でも咲哉、耳良いからここで話してんの聞こえてるだろうね」

 と、言った。

「いやいや。こんだけガヤガヤしてんだから聞こえないだろ」

 と、利津は言うが、流石は、

「あいつ、めっちゃ耳良いんだよ」

 と、言った。

「へー」

 小声のまま景都は咲哉に向かって、

「さーくやっ。おててつないで帰ろうね」

 と、言った。

 教室の一番後ろの席で、咲哉はすぐに顔を上げた。景都と視線を交わし、口元だけ笑って見せる。

「マジか」

「ホームルーム終わったら、さっさと帰ろうぜ」

 と、流石が言うと、景都と後ろの席の咲哉も頷いた。

「仲良いな、お前ら」

「うん」

 利津に言われ、流石と景都、後ろの席で咲哉も頷いていた。


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