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不思議屋と心霊探偵団  作者: 天西 照実
13/42

憑き渡り 1

 今回はしっかり怪談です。

 景都けいとが、生まれて初めて()()()を起こした。

 母の宮子みやこ、妹の京香きょうかと一緒に買い物へ出かけた帰り、めまいを起こし、そのまま高熱で寝込んでしまったのだという。


 景都と面持ちのよく似た母、宮子は、近所に住む流石さすがに電話をかけていた。

「お休みなのにごめんなさいね。景都が熱出しちゃって」

 心配そうな声が言う。流石も驚きの声で、

「熱?」

 と、聞き返した。

「なんだか、うなされながら流石君と咲哉さくや君のこと呼んでるのよ。風邪だったら、うつしちゃうといけないとは思うんだけど」

「じゃあ、マスクして行きますよ。咲哉も呼んで見舞い行きます」

「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ」

 電話を切ると、宮子は不安げに溜め息をついた。



 小学校の生徒会メンバーとして揃った流石、景都、咲哉の3人は、いつも小学校の生徒会室で遊んでいた。

 中学で同じクラスになってからは、登下校の道すがら話をしたり、帰り道の買い食いなども楽しんでいる。

 しかし、お互いの家へ遊びに行くのは、少し前に咲哉の家へ泊りに行ったきりだ。

 流石に呼ばれた咲哉も、マスクをして景都の家へやって来た。

 景都の家は昭和を感じる昔ながらの木造住宅だ。背後に雑木林があり、庭は広く季節の花木も手入れが行き届いている。

「ふたりとも、ありがとうね」

 流石と咲哉は、玄関で宮子に出迎えられた。

 横広の玄関の正面に、2階へ上がる階段が見える。

「ずっと元気だったのに、急に具合悪くなったからね。なにかの発作じゃないかって心配だったんだけど、お医者さんに行ったら、まずは熱冷ましで様子を見ましょうって。でも眠れないくらいつらいみたいだし、大きい病院に行った方がいいのかしらと思ってたのよ」

 不安の張り付いた表情で宮子が話す。

「俺たちを呼んでるんすよね。様子見てみます」

 と、流石が靴を脱ぎながら言った。咲哉も、

「ちょっと話したら、気が楽になって眠れるかもしれないですし」

 そう言って、屋内へ上がった。「おじゃまします」

けいちゃんのお部屋は、階段を上がってすぐのドアだからね」

 トコトコと階段を上がりながら、流石が、

「はーい」

 と、返事をした。

 決して新しくはない家だが、すみずみまで掃除が行き届いている。階段や廊下もピカピカだった。

 流石は、階段を上がったすぐそばの扉をノックした。

「景都、来たぞー」

 部屋の中から返事の代わりに、しくしくと泣いている声が聞こえた。

 流石は咲哉と顔を見合わせた。

「入るぞ」

 と、流石が扉を開けた。

 ベッドと勉強机とタンスの置かれた、小さな部屋だ。

 青い星柄の布団に包まって、景都はベッドの中で泣きべそをかいていた。

「熱でたって?」

 流石はベッドに腰掛けながら、景都の額に手を当てた。

 咲哉もベッド横に膝をつき、景都の顔を覗き込む。

 赤い顔をして涙を擦り、

「……ふたりとも、マスクだね」

 と、景都は目をうるうるさせながら言った。

「景都の母ちゃんも気にしてたから、一応な」

「俺たちを呼んでたって?」

 流石と咲哉が言うと、景都はまた涙をあふれさせてしまい、

「流石、咲哉ぁ……なんか怖いよぉ」

 と、泣きながら言った。

「怖い?」

「どんなふうに怖いんだ?」

 咲哉も景都の頭を撫でながら聞いていると、背後でガチャリと扉が開いた。

 顔を出したのは、妹の京香だ。

 京香は景都の勉強机から椅子を引きずって来ると、慣れた様子で腰掛け、

「すれ違った知らない女の子に、肩叩かれたの」

 と、言った。

「知らない女の子?」

「叩かれても景都は反応しなかったから、叩いたように見えただけかと思ったけど。そのあと何歩か歩いてから、グルグルして気持ち悪いって言い出した」

「なるほど」

 と、咲哉が頷いた。流石は首を傾げ、

「熱と関係あるのか?」

 と、聞いた。京香も首を傾げながら、

「さあ。でも景都が熱出すときは、いつも病院の薬もらったら死んだように眠って、次に起きた時は熱も引いておかゆ食べたいとか言い出すから。薬飲んでも寝れないで泣いてるのなんて初めてだし、買い物してる時は元気だったのに肩叩かれてからすぐ具合悪くなったみたいで、なんか変だった」

 と、話した。

 咲哉は景都の額を撫でてやりながら、

「熱冷ましも効いてこないだろうなぁ」

 と、言っている。

「咲哉ぁ……怖いよぉ」

「なんとかしなくちゃな」

「肩叩かれたのと、関係あるのか?」

 と、もう一度首を傾げる流石に、咲哉は頷いて見せ、

「流石。水晶玉、持ってるか」

 と、聞いた。

「へっ、なんか見えるのか?」

 と、流石はポケットをあさる。

 ピンポン玉サイズの、小さい水晶玉を取り出した。不思議屋でもらった、目に見えないものも見ることができる不思議アイテムだ。

「……なんだ、これ」

 水晶玉をかざして景都を見詰める流石に、京香がいぶかしげな顔を向けている。

「きっと、肩を叩かれてうつされたんだ」

「病気を?」

 と、京香が聞く。

「いや、移ってきたのは幽霊」

 と、咲哉が答えた。流石も頷いて見せる。

 京香はどんな反応をするだろうか。

「……」

 少し考えてから京香は、

「景都は、その幽霊に取り憑かれて熱を出してるってこと?」

 と、聞いた。

「お。信じるのか」

「嘘なんですか」

「いや、嘘じゃねぇよ。ほら。この中、見てみ?」

 流石が水晶玉を差し出すと、京香は流石と咲哉に目を向けてから、水晶玉の中を覗き込んだ。

「なにこれ……」

「どう見える?」

 咲哉に聞かれ、京香は眉を寄せて首を傾げながら、

「なんか布団越しに、お腹の辺りがもやもやして見える」

 と、答えた。流石も頷きながら、

「俺も同じに見える。なんなんだ、これ」

 と、聞いた。

「たぶん、何か目的があって景都の中に入ったんだ。でも景都が怖がって受け入れないから、幽霊も取り憑き切れてない感じなんじゃないかな」

 布団の上から景都の全身を眺め、咲哉は言った。

「追い出せないのか?」

「うーん、景都とは相性も良くないせいで、熱が出ちゃってるんだと思うんだよな」

「マジか」

 冷静な表情で小学4年生の京香は、

「なんか最近、あの人はお化けじゃないよねとか、景都が余所の人を見て失礼なこと言ってたけど、本当にお化けとか見てたんですか」

 と、聞いた。

「最近、気付いたばっかりなんだよ。景都は幽霊が見えてるって」

 と、咲哉も落ち着いた声で答えた。

「俺は見えないけど、この水晶越しだと見えるんだよ」

 流石は水晶玉を覗きながら言う。

「俺は景都とちょっと違う見え方だけど、感覚的に見えてる感じ」

 と、咲哉も言っている。

「……景都は、幽霊に取り憑かれてるの、わかってるの?」

 と、京香が聞いた。景都は小さく頷きながら、

「嘘じゃないもん」

 と、呟いた。

「わかったから。その幽霊を追い出さないと、熱も下がらないんですか」

「そうだろうな。幽霊も景都に取り憑いたはいいけど、相性が悪くてどうにもできないでいるんだ」

 布団越しに景都の腹部を見つめながら、咲哉が言っている。

「不思議屋に連れてけばなんとかなるか」

 と、流石は言うが、咲哉は首を横に振り、

「こんな状態で外には出せないだろ」

 と、言った。

「確かに。ひとっ走り、俺が不思議屋まで行って来るか」

「その前に、俺とは相性どうかな」

 咲哉は布団に腕を入れ、景都の手を持ち上げてみる。

「ダメだよ、咲哉」

 細い声で景都は言うが、咲哉はマスクをかけた顔で笑って見せ、

「相性がよければ、熱が出たりはしないはずだよ。景都の肩を叩いた女の子は普通に外を歩いてたんだろ」

 と、言った。

「大丈夫なのか」

「うん。もし動けなくなったら、不思議屋まで連れてってくれ」

「おう」

 咲哉は景都の腹部に向かって、

「このままじゃ何も出来ないでしょう。子どもを高熱状態にし続けるのは危険なので、俺の方に移ってみてくれませんか」

 と、声をかけた。景都の手で自分の肩をぽんと叩く。

「ひゃあっ」

 布団の中で、景都が声を上げた。

「景都っ?」

「抜けたっ。僕から、咲哉に移っちゃった!」

 赤い顔のまま、景都が起き上がった。

「咲哉、大丈夫か」

 咲哉は目を閉じている。軽く頷いて、

「うん。俺の方に入った。女の人だ」

 と、答えた。

 流石は咲哉にも水晶玉をかざしてみる。

「もやもやしてないぞ」

「もう少し馴染めば、俺と女の人がダブって見えるんじゃないかな」

「咲哉、お熱は?」

 と、咲哉の額に手を当てている景都の顔からは、赤みがすっかり引いていた。

「あれ、景都。もう元気になった」

 京香が、景都の顔を覗き込んだ。

「あ、うん。苦しくも気持ち悪くもなくなった。咲哉は? 大丈夫?」

 顔をぺたぺたと景都に触られながら、咲哉は目を開けた。

「大丈夫だよ。足の不自由な女の人だ。なんか、俺の肩こりにビビってるみたいだな」

「肩こり?」

 と、流石が眉を寄せる。

「そう言えば、体中グルグルして気持ち悪かったけど、足も痺れてる感じだったよ」

「そっか。景都とは相性が悪くて、足も痺れてるくらいだったんだろうな。俺とは馴染んで、足が動かないや」

 ベッド脇の床に座り込んだまま、咲哉は自分の足を撫でている。

「えっ、どうしよう」

「悪い霊じゃなさそうだよ。流石、不思議屋に連れてってくれないか」

「うん」

「景都は、お母さん心配してるから、熱下がったって伝えておいで」

「うん……でも、咲哉が歩けないのも、うちのお母さん心配するよ」

「あ、そうか。困ったな」

「咲哉は先に帰った事にして、どっか隠しとくか」

 流石は両腕で軽々と、咲哉をお姫様抱っこして立ち上がった。

「じゃあ、隣の私の部屋に」

 京香は扉を開け、廊下に誰もいないことを確認すると、すぐ隣の自分の部屋にふたりを呼んだ。

「お、サンキュー」

 2階には景都と京香の部屋と、小さな納戸と両親の寝室がある。

 京香が階段を降りていくと、宮子は台所で晩御飯の支度をしていた。

 玄関にある咲哉の靴を下駄箱の奥へ隠してから、

「お母さん。景都、熱下がったっぽい」

 と、京香は台所の母に声をかけた。

「えっ、本当に?」

 エプロンで手を拭いながら、スリッパで宮子はパタパタと階段を上がって来た。

 景都の寝ているベッドの足元に、流石だけが腰掛けている。

「あら、咲哉君は?」

「家の鍵閉めてくるの忘れたって、いったん帰りました」

 そういう事にした。

「あら。慌てて来てくれたのね。本当、顔色良くなったわね」

 と、宮子はエプロンのポケットから体温計を取り出している。

「ふたりの顔見たら、なんか安心した」

 パジャマの襟から体温計を差し込まれながら、景都は言った。

「安心ってすごいわねぇ。9度も熱あったのに」

 ピピっと音がして宮子が体温計を取り出すと、体温は36.5℃と表示されていた。

「……本当。平熱まで下がってるわね」

「やっと薬も効いたのかもな」

 と、流石も景都の頭を撫でている。

「お母さん、西区のスーパーの特売行きたいって言ってたでしょ。行ってくれば? 景都は私が見てるし」

 と、京香が言う。しっかりした妹だ。

「あらそう? 景ちゃん、お母さん、お買い物に行って来ても大丈夫?」

「うん。キュウちゃんのおかゆ食べたい」

 と、景都は笑顔で言った。

「オッケー。キュウちゃん買ってくるわね」

 と、宮子は立ち上がった。「変なお熱だったわねぇ。下がって良かった」

「心配かけてごめんなさい」

 景都が言うと、宮子は優しい笑顔を見せた。

「いいのよ。流石君も、ありがとうね」

「いえ。俺も、もう少し様子見てます」

 宮子は、またスリッパをパタパタさせて階段を下りて行った。

「よし。景都の母ちゃんが出かけたら、咲哉連れて行ってくる」

 流石が立ち上がると、景都もベッドから降り、

「僕も行きたい」

 と、言った。

 京香は扉の近くで、階段下の宮子の様子をうかがいながら、

「行ってくれば? 病気じゃなかったんでしょ。お母さんには適当にごまかしとくし」

 と、言った。

「ありがとう、京ちゃん」

 物音を立てないように、景都はパジャマから普段着のトレーナーに着替えた。

「じゃあ、行って来るわねー」

 階段下から宮子の声が聞こえると、景都と京香は揃って、

「行ってらっしゃーい!」

 と、答えた。

 息ぴったりの兄妹だ。


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