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僕は鈴木晴翔。
親善高校に通う、高校ニ年生だ。
特段、特質すべき点のない普通の高校で僕は普通の高校生活を送っていた。
近所の爺ちゃんがやってる古本屋さんでバイトをして、そのお金で好きなラノベや漫画を買う。
学校で友達はいないけど、特に気にしていない。休み時間も自分の机で本を読んでいればいいし、そもそも三年間くらいしか一緒にいない人達と仲良くなる必要も無いしな。
とまあ、長い文章で色々と書いたが、つまり僕は陰キャって事だ。
そんな僕だが、夜遅くまで起きて本を読んでいるため、すっかり夜型になってしまった。
いつもは朝礼ギリギリになって教室に入るのだが、今日は母さんに「早起きしろ」と叩き起こされてしまった。
学校に到着したけど、まだ七時半だ。
学校が始まるのが八時半だから、一時間以上も余裕がある。
いくらなんでも早すぎるよ。
下駄箱で外靴と上履きを履き替えて、教室に向かう。まだ誰も学校にいないからか、いつもとは違って静かな空気だった。
ある意味、夜に来ても一緒なんだろうけど、夜の暗さは不気味過ぎる。逆に今は朝日が窓から差し込んで、鳥の鳴き声が聞こえるくらい爽やかだ。
たまには早起きもいいな、と考えながら僕の教室、2ーCの扉を開いた。
「あれ、鈴木じゃん。おは〜」
ギャルがいた。
いや、そうじゃない。確かにギャルなのは間違いないんだが、彼女の名前は沢田莉乃。同じ2年C組のクラスメイトだ。
まさかこの時間から教室に人がいると思っていないし、さらには話し掛けられるとも思ってなかったので、かなり驚いた。
「お、おはよう……」
普段学校で口を開かないため、心臓がバックンバックン鳴らしながら何とか挨拶を返した。
さっさと席に座る。が、そこで思い出した。僕の隣の席、沢田さんじゃん。と。
「座らないの?」
「え、あ、いや……」
結局、座った。
何故か背筋を正して手を両膝を上に乗せてしまった。
何だこの面接の時とかに使う正しい姿勢は。
これも沢田さんのオーラのせいなのかな?なんて事を考えながら、チラッと横目で沢田さんを見た。
金髪と毛先をピンクに染めた派手目な髪、そしてギラギラなネイル、イヤリングまで付けていた(前にクラスの女子が大声でピアスの穴空けてないの!?と叫んでいたので知っている)。
ピンク色のスマホの他に巨大なぬいぐるみ?のキーホルダーを付けている。使いにくくないのかな?とも思ったが、ギャルなら使いこなせるのだろう。知らんけど。
制服を着崩してスカートを短くし、手首にシュシュを通して、典型的なギャルだ。
そして途轍もない美少女である。彼女は生徒会長と並んで学校二大美少女と呼ばれている。
噂では大学生の彼氏が何人もいるとか、IT企業の社長と婚約までしてるとか、噂は尽きない。
とまあ、友達がいない僕にすら耳に入ってくる程、彼女は学校で人気者だ。
僕とは住む世界が違う。
彼女の事を考えても仕方がない。
それよりも今は早く読み掛けのラノベの続きが読みたいんだ。
それから十頁くらい読み進めて、ふと良い香りがするのに気付いた。
何だろう?と思って顔を上げると目の前に沢田さんがいた。
近くで見てもやっぱり凄い美人だな、まつ毛長っ……!と考えてぼーっとしていると沢田さんが口を開いた。
「ねえ、何読んでるの?」
たった一言。
沢田さんからすると何気なく聞いた事なのかもしれない。
でも、僕の様な隠キャには興味を持たれるだけでも嬉しく思った。
「『ダンジョンで出会いを求めても間違いでは無いと証明するのは間違っているだろうか?』っていうライトノベルだけど……」
「ライトノベル?」
「えっと、漫画の小説みたいなやつかな」
漫画の小説。この表現はあまり僕は好きじゃなかった。ラノベは小説として、しっかりとした分類があるし、何より漫画とラノベじゃ大きく違う。
けれどこうしてラノベを一般人に分かりやすく伝えるには、やはりこの表し方が一番良いのかもしれない。
とりあえず「漫画の小説」という表現を考えた人に初めて感謝した。
「ふうん。それ、2巻? 一巻はあるの?」
「あるけど……」
「貸して」
「え、うん」
鞄の中から『ダンまち』の一巻を取り出して沢田さんに渡した。
普段から読んでいる本を読み終えたら、すぐに続きを読める様に数冊鞄に入れているのはオタクあるあるでは無いだろうか?
それから沢田さんは一人、自分の席で黙々と『ダンまち』を読み進めて行った。
パラパラと頁をめくふ音だけが暫くの間、朝の教室に響いた。
自分以外の人が本を捲っている音を聞いていると何故か照れ臭くて、そして心地が良かった。
八時十分頃になるとちらほらと生徒達が登校し出して、
友達が来ると沢田さんは『ダンまち』に栞を挟んで机の中に入れた。
それから一週間、沢田さんと会話は無かった。
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