君からもらった大切なオーパーツ
「なろうラジオ大賞」応募作品です。
字数が1000文字以内で、お題は「オーパーツ」
教室の席に座って、俺の宝物である不思議な水晶を手に見つめていた。
「あら秋人、それまだ持ってたんだ」
話しかけて来たのは隣の席の楓だ。
幼馴染みだが別に付き合っている訳でもなく、来年からは別の大学に進学する。
「この水晶、すごく不思議なんだ。力を加えると中に闇の渦が巻いて、力を強くすると渦も大きくなる」
「本当だ。それ私があげたやつだけど、前はこんなこと起きなかったよね」
この水晶は3年前、楓からもらった誕生日プレゼントだ。どこかで拾って来たらしく、綺麗だからと俺にくれた。
その頃から俺は楓を好きになっていた。
楓とは小さい頃からずっと一緒で家族のような関係。俺はそれが壊れてしまうのが恐く、ずっと告白できずにいた。
「ねえ秋人、私は東京の大学に通うから、離ればなれになっちゃうね」
「そうだな。でも帰省はしてくるんだろ。家も隣同士だし、今までと特に変わらないんじゃ」
「でも東京で彼氏ができたら、秋人とはもう会えなくなるかもね」
楓に彼氏。
楓は美人でこれまで何度も告白された。その度に俺は焦っていたが、楓の好みに合わなかったのかまだ誰とも付き合ったことがない。
そんな楓も大学生。すぐに彼氏もできるだろう。
俺は思わず、
「楓っ」
「何?」
楓が俺を見つめているが、相変わらず感情が推し量れない無表情な顔。
だから俺はその一歩が踏み出せず、
「なんでもない」
「そう」
普段から感情を表に出さない楓だが、その表情は少し曇って見えた。
「その水晶、私に返して」
「だってこれは俺にくれたものじゃ」
「東京で彼氏ができたら、その水晶をあげたいの。だから返して」
そう言って楓は俺から水晶を奪おうとする。
だが俺にとっても大切な水晶。いきなり返せと言われても困る。
水晶の奪い合いをしているうちに、二人の手から零れ落ちた水晶が、床に落ちて割れた。
「あっ!」
粉々に割れた水晶から黒い渦が現れ、大きく広がった。
「何よこれ?」
するとさっきまで騒々しかった教室は、俺と楓以外の時間が停止し、渦の中から声が聞こえる。
「やっと水晶を割ってくれた。お爺ちゃん、お婆ちゃん、早くその渦に飛び込んで未来の私たちを助けに来て」
「お婆ちゃんって、誰よあなた」
「私は二人の孫の雫。説明は後、早く来て」
「急にそんなこと言われても」
俺は戸惑う楓の手を握ると、渦に飛び込んだ。
「行こう」
「ちょっと、明人!」
俺は楓が好きだ。だから勇気をもって踏み出す。
ここから二人の冒険が始まる。