第3話「神在月」
2章序盤からギスギス展開をぶっこんでいきます。
日曜日。
男女6人という大所帯となったネコ達一行は、国内有数の敷地面積を誇る巨大なデパートへ来ていた。
「ゲーセン行ってきていいですか」
「ダメに決まってんでしょ」
早速、当初の趣旨から外れた行動を取ろうとする佳奈を縷々は押さえつけて、道行く先で義政の手を引くネコを眺めている。
「ほら、あそこがボクの好きなブランドで、向こうがキサラギグループ傘下のブランド。あっちはジーンズ専門店!」
「よく遠くから見ただけで分かるな……企業の事は神在月家として頭に入れておくべきなんだが……やはり興味が薄い物事だとどうしてもな」
「もう、また”神在月家として”とか言ってる! 今は関係無いよ! ほら、まずはあのお店に入ろう?」
そのやり取りを見て、佳奈は鼻息を荒くする。
「ねぇねぇねぇねぇ!!! あれ!! あれあれ!!! どうしよう、義政くんにネコくん取られちゃわないかなぁ!? ぶひょぉほぉ~~~!」
「なんで嬉しそうなのよ、腐ってるわね」
そんな佳奈たちはお構いなしにネコは服を見て回る。
本日のオーダー。
義継は、せめてセミフォーマルな物で、あまり突飛な物やハイカラなものは辞めて欲しい。とのこと。
トリシアは、動きやすい服装。なるべく下はズボンで。
各々のリクエストに沿ったコーディネートをネコは思案する。
「お、おい有坂! これって女物じゃないか!」
「甘い甘い! コーディネートに重要なのは”映え”! メンズもレディースも関係ないんだよ!」
「それでも俺にはたぶん合わないぞ!」
ネコは屈託のない笑顔でネコははしゃぎ通しだ。
最終的に、ストライプのブラウスにダズル柄のサルエルパンツ。秋ごろ羽織るのを見越してベージュの七分丈テーラードジャケット。
「夏だからちゃんと帽子も被らなきゃね」
そういって、ネコは手に取った麻の中折れハットを渡す。
「はぁ……これで全部か?」
「気に入らなかった?」
「いや、そういうわけじゃない……有坂が真剣に選んでくれたものだ、喜んで受け取るとも。だが……試着と店舗を渡り歩くのは流石に堪える! 体力には自信があったんだが……」
「あはは! ボクは慣れてるからね~! まだまだ全然いけるよ!」
「は、はは……その身体のどこにそれだけのスタミナがあるんだか……」
「それじゃあそろそろ、私の服を選んでくれるかな?」
そういって、頭を下げてネコの顔を覗き込むトリシア。
「ああ、ごめんごめん。あんまり試さないコーディネートだったから、つい楽しくなっちゃって! でもでも、ちゃんと目星はつけてあるから、お昼前には終わると思うよ!」
「そいつは重畳」
「トリシアもなんだかんだで後ろに着いていたよな、疲れていないか?」
「私は……ほら、試着はしていないし、ただ後ろに着いて歩いていただけだから」
「それは……確かにそうだな……」
「じゃあ、早速行こう!」
ネコは既に目をつけていた服に手を取った。
カーキのジョッキーパンツに都市迷彩柄で左と右で袖の丈が違うアシメデザインのブラウス。左の袖が半袖で、右の袖が七分丈だ。秋を見越した上着はブラウスと対になるように左がロング丈になっているミリタリージャケット。
一式揃えて試着してみると、まるで軍人のような出で立ちだ。
「うん。なんだかしっくりくるような……そんな感じがする」
そのブロンドヘアーを揺らしながら、トリシアは姿見の前で義足とは思えない軽やかな足取りで小躍り気味に自身の姿を眺める。
「素敵です、トリシアさん。とっても凛々しくて……なんていうか、勇ましいですし……あはは、言葉遣いが拙くて申し訳ないです」
「大丈夫、凄く褒めてくれているのは伝わる。あと、ルームメイトなんだから私のことはトリシアって呼んで欲しいな」
「え、えっと……じゃあ、トリシア……? なんだか、慣れません」
そういうと、円香は頬に手を当て、顔を赤くしながらはにかんだ。
「むひょひょひょ、向こうは百合ですなぁ百合ですなぁ!!」
「あんた、雑食を越えて悪食ね。あきれた」
雑な掛け合いは流して、時刻もお昼時。
人でごった返しているフードコート。レディファーストで女性陣が昼食の注文へ、男衆は6人分の席を取りに奔走。
10分20分ほどかけて、ようやく見つけた席に座り、ネコはにんまりと笑いながら義政が提げる戦利品。つまりは服たちを見つめる。
「お金ならボクが出したのに」
「何度も言ってるが、流石に自分の物だからな、人に出させる訳にはいかない」
料金を払うとき、どちらが払うかで揉めたのだ。
どっちも自分が払うと言って聞かず、最終的に義政が苦肉の策で「自分が払わなければ着ない」と断腸の思いで告げ、ようやくネコが折れたのだった。
「本当に、不思議な奴だ」
柔らかい笑みを浮かべ、義政が人混みを眺めたその時、フッとその笑みは消え失せて、凍り付いたような無表情に切り替わる。
だが、すぐに義政は元の笑みに戻る。
「すまない、少し……あ~……トイレに行ってくる」
そう言って、ネコを置いて義政は何処かへ行ってしまった。
入れ違いで佳奈と縷々が戻るが、その行く先を縷々は怪訝そうな表情で見つめる。
「向こうにトイレ無いような……」
「縷々ちゃん、何か言った?」
「いや……あぁ、私もちょっとトイレ行ってくるね」
そういって、縷々は駆け足で義政が向かった方へ行く。
すると、フードコートの外で、縷々は義政の姿を目にする。
「(トイレじゃなかったの?)」
より不審に思いながら近づくと、どうやら誰かと話をしているようで、そして、それは穏やかではない雰囲気であった。
「どうしてこんなところに来た。”裏”の人間風情が」
侮蔑、怨嗟、嫌悪。
そういった感情が、彼の声音に混じり聞こえ、それはあの爽やかな義政とは想像も着かないもので、縷々は思わず息を呑む。
そして、何より驚いたのがその感情の矛先が向けられたのは、あろうことかあの長身麗躯で何を考えているか分からない薄ら笑いで少女達をかどわかす義継だった。
「(義継センパイ!? っていうか私服……義政が買った奴とめっちゃ被ってるし!)」
さて、吐き捨てるような言葉を投げかけられた義継は、変わらない薄ら笑いを浮かべながら口を開く。
「ハハァ、”表”の義政様には大変お見苦しい所をお見せ致しました。わたくしめは今プライベートのお時間でございます」
いつもの耳を撫でる艶やかな声ではない(縷々はイライラとするが)、神経を逆撫でするような、トゲのある語気だ。
「ハッ、どうだか。汚らしい”裏”が、コソコソと嗅ぎまわらない日などないだろう」
「いえいえ滅相も無い。犬畜生めにも休息が必要でして」
「ハイエナの間違いじゃないか? それに聞いたぞ? どうやら女に現を抜かして、大層目立ちたがりだそうじゃないか。”裏”らしく日陰にいるべきじゃないか?」
「これがわたくしめの”やり方”でございます、義政様」
「フンッ。まぁいい。神在月家は同じ場に二人も要らない。お前はもう二度と近づくな」
「(やばっ!)」
すっかり夢中で聞いていた縷々。慌てて人混みに紛れて、適当なスムージーショップの列へと並ぶ。
「あぁ……絶対変に思われるよなぁ……仕方ない、ついでにスムージー買ったことにして……うぅ、カロリー高そう……」
好奇心に駆られた結果、散々な目に合う縷々であった。




