僕の婚約者〜夜会でご飯を食べてたら婚約者できました〜
同じ作品名がいくつかありましたので、サブタイトルを足してみました。
内容に変更はありません。
この度、婚約者ができました。
え?お祝い?
いいよいいよ、気にしなくて。
なんて言うかさ、罰ゲームみたいな事からこうなってさ、相手も不本意なんじゃないかな。
うーん、ちょっと聞いてくれる?こうなった経緯をさ。
僕の名前はアルフレッド・サジ・マークロウ。
貴族で辺境伯爵やってます。ぶっちゃけ高位貴族ですよ。
辺境伯爵って国境の護りだからさ、一般の伯爵よりも位は上でね、侯爵と同列なのよ。
なんで伯爵なんだろうね。辺境侯爵で良くない?辺境侯って字面が悪いかな。
あ、話が逸れた。ごめんね。
うち、辺境だから政権争いっていう貴族同士の醜い争い事も少なくて建国の時から連綿と続く名家なわけよ。
王家の外戚でもあるしね。
特にうちは魔国に接してるから他の二領よりも重要なんだよ。
魔国って今は穏健派の魔王様がいるから戦争とかならないけど、管理外の魔獣って強い上に野生動物扱いだから定期的に討伐してんの。
初代ベイエット辺境伯は建国王の王弟で、その後も時折王族が嫁いでくるんだよ、うち。
ちなみに、曾祖母が王妹なので、僕にも王位継承権があるんだよね。行使する事は生涯ないぐらい遠いけどね。
そんな家に生まれた僕は去年、24歳で辺境伯を継いで、ベイエット辺境伯爵になりました。
あ、ベイエットってのは地名ね。うちは初代から治める領地と領主が代わってないけど、他は領主交代とか色々あるから爵位と名前って違うんだよ。
父上?元気ですよ。嫌になるくらい健康だよ。
それも聞いてよ。父上も早くに領主になってずっと頑張ってきたんだから、もういいだろ?って言ってさ、母上と優雅な隠居生活を始めたんだよ。ちなみに祖父母も健在で各地を旅行している。
そりゃあ、ね。うちって国境だからさ、魔獣が多くて人災よりも獣災?魔物災害?が多いから年食えばそりゃキツイよ。
50近いくせに年老いた感じが全くしない父上だけどね。うちの兵師団長と同等に渡り合える父上が隠居?笑っちゃうよね。
母上とイチャイチャしたいだけなんだよね。仲が良すぎて子どもとしては恥ずかしいぐらいだよ。
家だと更に糖度が増すから、僕と4つ下の弟は居た堪れなくて席を外す事が多い。
まぁ、それはいいよ。どうせ僕の継承は覆らないし、いずれ継ぐのが早くなっただけだしさ。
あ、ちなみに弟は留守番です。何かあれば緊急連絡してもらえるようにしている。辺境伯って24時間営業みたいなものだよね。ご飯中に出撃するのは本当に困る。ご飯はゆっくり食べたいよね。
そんなこんなで、辺境伯爵を継いだ報告をする為に父上と王宮に来たのが去年の秋。新年の挨拶にまた訪れて、今夜は建国祝いの夜会なんだよ。
成人してからまだ3回しか王宮に来た事ないんだよね。
うち辺境だしね。王都まで馬車だと1週間はかかるんだよ。けっこう遠いんだよね。
そんなに領地を離れられないんで、王都に来る事は滅多にない。ぶっちゃけ社交とかめんどくさいし、魔獣の襲来って時を選ばずだからね。
他の細々した付き合いは隠居した両親がやってくれる。有難いと思うが王都デートを満喫してる節があるから、まぁ半々かな。
そんな滅多に来ない王都の夜会で、第二王子の婚約破棄の現場に遭遇したわけよ。
いや、もお、ビックリ。
建国祭で他国を招いての夜会だって言うのに、第二王子ってバカなの?
食べてたチキンが落ちそうになったよ、危なかった。
美味しい食事を味わってる最中に寸劇始めちゃうとかやめてほしい。
要約すると、第二王子は婚約者の侯爵令嬢と婚約破棄して子爵令嬢と婚約したいって話だった。そんな内輪話を人前でやるとか正気か?って思うよね?恐ろしい事に本気らしい。
あれか、脳内お花畑ってやつか。人から聞いた事はあるけど初めて見たよ。
昔から馬鹿で鼻につく性格してるなぁとは思ってたけど、ここまでとは思わなかったよ。
第二王子と取り巻きから繰り出される侯爵令嬢の罪状ってのがまた笑えた。
なにそれ、罪っていう意味知ってる?それを罪とか言ったらマナー教師は犯罪者だよ。
しかも証拠が王子と取り巻き達と子爵令嬢の証言だけとかウケる。
えー、バカなの? ほら、王太子殿下も陛下も驚愕に赤くなったり青くなったりしてるじゃん。あ、王妃様が卒倒した。それより、バカ王子ちょっと横見ろや。侯爵がすっげえ顔で睨んでんだけど。うわぁ、うちの父上と張るわ、あの顔。
周囲に気がつかないおめでたい王子の妄言はまだ続く。これ、自分に酔ってんじゃない。王子って役者の才能あるかもね。大根だけどさ。あ、大根サラダ食べよう。
「このように卑劣極まりないお前にも温情をかけてやろう。仮にも侯爵令嬢が行き遅れては可哀想だからな、ベイエット辺境伯爵へ嫁がせてやる」
……………。
え、僕?
あ、チキンが落ちた。
クスクスと笑う殿下たちの表情には見覚えがある。
人を見下したり嘲ったりするような顔だ。
うん。見慣れてる。新年の挨拶とかでよくされる顔。王族だと第二王子と母親の側妃様だけなんだけどね。
僕の容姿って一言で言うと、デブなんだよね。顔は普通だと思うんだけど、体重が100kgあるんだ。
………。ごめん。見栄を張った。
本当は115kgです。
これでもさ、20kgぐらい減ったんだよ。
魔獣討伐に行くからさ。
父上みたいな剣士じゃなくて、僕は魔法使いなんだよ。だから多少太ってても大丈夫。
動けないデブじゃなく、動けるデブです。そこ間違えないで。
昔の名言にもあるじゃない。飛べない豚はただの豚だぜ。って。
飛ばないけどね。それ以前に豚じゃないしね。…あれ?名言って関係なくない?まぁ、いいや。
まぁ、そんな僕だし、領地は魔国との国境で危ないとこだし、未だに婚約者もいないんだよね。
そんな僕に嫁がせると言われた侯爵令嬢にとっては罰ゲームに等しいんじゃないかな。
まぁ、バカ王子の言い分が通るとは思えないけどさ。
そんなわけで。
僕が落としたチキンを未練がましく見ている間に、王太子殿下と侯爵によって喜劇は終幕したらしい。
第二王子と取り巻きと子爵令嬢は近衛兵によって会場から連れ出され、侯爵令嬢は侯爵と会場を後にした。
夜会は陛下と王太子殿下の取り成しで再開され、賑やかさを取り戻した会場で、なぜか周囲が余所余所しい。
僕、完全に巻き込まれだよね。なんの関係もないのに、罰ゲームの景品みたいな事に名前を出されただけだよね。
なのに、気の毒そうに接するのやめてほしい。せっかくの香草の包み焼きなのに美味しく感じないじゃないか。
なんだか気まずいので早々にデザートの焼き菓子を箱に詰めてもらって帰る事にしたら、会場を出たところで陛下の侍従に呼び止められ、王宮の小謁見室にいます。
なぜだ。
もう帰って、うちの料理長の超美味い夜食を食べてお風呂入って寝たいんですけど?
一応ね、タウンハウスっていう王都用の家があるんだよ。そこにうち自慢の料理人とメイドや侍従たちと来てるんだよね。
食事は大事。生きる糧だよ、生きていく目的だよ。
緊張してお腹空いたから、お持ち帰りした焼き菓子を食べようか真剣に悩む。
焼き菓子だと齧るとクズが落ちちゃうじゃん?
ピカピカ磨かれた床に食べこぼしちゃったらダメだよね。怒られるよね。
でも、一口で食べたら大丈夫じゃない?
うん。なんかイけそうな気がしてきた。
上着の内ポケットに手を伸ばしかけた時、侍従が陛下がやってくる告知をしたので泣く泣く手を元に戻した。
あぁ、焼き菓子。せめてお腹が鳴らない事を祈ろう。
陛下と王妃殿下、王太子殿下と一緒に侯爵までやってきた。
さっきの顔触れじゃん。
うわー、嫌な予感。
「急に招いて悪かった。堅苦しいのは抜きにしよう。ちと、其方に相談があるのだ」
いや、この面子で堅苦しいのは抜きって無理があるでしょう。父上じゃないんだよ。まだ辺境伯爵を継いだばかりのヒヨッコだよ、僕。
「先程は愚息が騒がせたな」
「陛下のご威光の前では些事でございましょう」
些事どころか醜聞だけどね。言わないよ、大人だし。
そこから陛下に侯爵令嬢と婚約してくれないかと打診された。しかも侯爵からも嘆願された。
ええぇぇ。気は確か?
曰く、バカ王子が勝手にやった事だが、婚約を継続するのは体面的にも無理だし何より侯爵が断固拒否らしい。それもそうだよね。
侯爵令嬢も17歳と若いけど、適齢期だし新しい婚約者を早々に見つけなきゃいけない。バカ王子のせいだから王家も手伝わなきゃいけない。
王太子はもう結婚してるし、王族にも貴族にも身分が釣り合う男子が他にいないらしい。
侯爵家にはもう後継がいるから、次男、三男は問題外なんだってさ。次男でも爵位持ちはいるけど、もう大抵の人は婚約者持ちだもんね。
うちなら王家との外戚にあたるし、年は範囲内だしいいんじゃないかと言う。
いいの?言っちゃなんだが女性に好かれる容姿じゃないよ?むしろ嫌われ気味だよ?
自分で言っておいて落ち込んできた。
陛下と侯爵の懇願と、王太子の後押しに、僕一人で勝てるはずもない。
「スタンリー侯爵令嬢が納得されているのなら、お受け致しましょう」
他に何と言えと?
と、いうか、早く帰りたい。
料理長、まだ起きてるかなぁ。
帰り道に食べた焼き菓子は美味しかったです。
その後の話をするとね。
後日、うちの領地にスタンリー侯爵夫妻と令嬢がやってきました。
改めて見ると侯爵令嬢のマグノリア様はとても美人だった。口調はキツイんだけど、言った後に後悔して視線を彷徨わせたり、言い訳しようとしてさらに墓穴を掘ったり、なんだかとても可愛かった。
そう言って褒めたら怒られた。
なんでかな。
僕は見た目も良くないし、これは無理だろ。と思ってたのに、なぜか婚約が確定してしまいました。
不思議だよね。
あれかな、うちの領地にある温泉が気に入ったとか?美肌効果あるらしいよ。母上も侍女たちも言ってたから間違いないんじゃないかな。
侯爵夫人もマグノリア様も喜んでたよ。
そして、1年後に僕はマグノリア様と結婚しちゃいました。
驚いた?僕が一番驚いてるよ。
彼女と結婚するにあたって、僕はかなり変身した。なんと体重が70kgまで落ちたのだ。
これはマグノリア様のおかげと言うか、猛特訓のおかげだ。
料理長とダイエット食を考案し、ダイエットの為の強化プログラムを教え込んでくれた。実際に教えてくれたのはスタンリー侯爵家の家令なんだけどね。
あの家令さん容赦ないよ。笑顔が怖い人ってお祖母様以外で初めて遭ったよ。
おかげで腹筋も割れたし、剣術も上達した。
……僕、魔法使いだったよね?
剣術も使えると色々便利だからいいけどさ。
物語みたいに、痩せたら美男子になるわけもなく、容姿は贅肉が減ってスッキリしたけど普通の顔立ちだ。平凡。普通よりはちょっと上?だといいなぁ。
父上と母上を見たら、子供の僕がイケメンなワケないよね。うん、知ってたから落胆はない。……ちょっとしか。
でも彼女にしたら、僕が夫ってどうなのかな。不本意じゃない?
「貴方の格好良さも、可愛さも、私だけが知っていればいいんですの」
そう言ってツンと澄ました彼女の赤い頰が可愛くて、抱きしめると首まで赤く染まった。
ああ、僕の奥さんが可愛すぎる。綺麗で可愛いとか最強だよね。
魔獣討伐にも力が出るってもんだよ。
最近、剣に魔法を纏わせる事もできた。剣も使える魔法使いってカッコいいよね。
新技を試したいけど、今は広範囲の殲滅魔法でサクッと退治して帰ろう。
可愛くて綺麗で素敵な奥さんが待ってるから、友達のドラゴンに乗せてもらい家路を急ぐ。
そんな僕の愛しの奥さんの話、聞く?聞いちゃう?
まぁ、遠慮しないで聞いていきなよ。美味しいお茶菓子と紅茶を出してあげるからさ。
*終わり*
お読みくださりありがとうございました。