2つの中二病たち。
これは不完全な小説ですが、これで完成形です。
しかし、あなたの少し想像で補完すれば、それは完全となります。
考えて読んでくれたら、それは作者にとって嬉しいことです。
それでは。
「我は誰もが恐れおののく存在、ラインハルト! さあ、我の前にひれ伏すがよい!」
彼の名前は泉田春来。どこにでもいる中学3年生で、今日は彼が在籍している卒業式の日。春来は最近の日課で、学校の裏門にてあのような中二病の演説のようなことをしている。当然、彼の行動は異端そのもの、悪口はかなりのものだった
中学3年になってあれじゃあ先が思いやられるな。
恥ずかしい、気持ち悪い。など。
春来は当然知っていた。彼に対してのきたない言葉を。それでも彼はやめない。そんなものではこの中二病はやめられないから。
「はっはっは!今宵は特別なショータイムだ! 我のこの全てを見透かせる力、スターアイ──」
「もう誰もいないし、いい加減校舎に入りなさい!」
ポコっと春来の頭を叩いて、彼を止めたのは硬派そうな黒髪ポニーテールの女の子。名前は飯塚夏葉。春来とは幼なじみである。
「はぁ。小学生の頃から中二病ではあったけど、こんなコッテコテのやつになるとは思わなかったよ」
「スマン」
夏葉はため息をつくも、すぐに校舎へ歩いていく。数歩遅れて春来も歩きだす。
「まあ、いいよ。どうせ今日までなんでしょ? だったら最後までやり切りなよ、私はどんなことがあっても離れるつもりなんてないんだからさ」
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卒業式は始まって、卒業証書授与の時間がきた。この時が彼にとって重要な時間。泉田春来の名前が呼ばれて、体育館のステージへとゆっくり上がっていく。
少し黄ばんだ紙切れが渡されようとした時、春来は卒業生の方へ振り向き、細かく一口サイズに切られた大量のメモ帳をにばら撒いた。
メモ帳には6人の名前、その中に1つだけ目立つように書かれている「糸井秋人」という4文字。
──今日は卒業式。お前がいたって証拠を少しは残せたかな。秋人。
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糸井秋人、春来と夏菜とは中学生のときからの親友だった。そして彼もまた中二病である。
春来は中二病を隠さずに周りとコミュニケーションをとっていたが、秋人は違った。彼はいわゆる隠し中二病というやつだ。親友には中二病の姿をあまり見せないのである。彼が中二病を発揮するのは照れ隠しなどの隠し事があるときなどだ。
「はっはっは、我が親友イズミール!元気にしてるか!?」
「イズミールってなんだよ……かっこよくない!もっとかっこいい呼び名にしてくれよ!」
というのは、嘘かもしれない。
2人とも抜け出せそうで抜けていない。特に秋人の中二病の全盛期はかなりなもので、後遺症は深いようだ。たまにでてくる中二病で完全に周りに引かれている。
春来、夏葉、秋人は同じ中学校そして高校へと共に上がっていった。仲は良かったものの、夏葉は2人の中二病のこじらせ具合に少しうんざりしていた。
「あのさ、アキくんに春来。2人とも、その中二病とかいうやつそろそろやめたほうがいいよ。慣れてるこっちからしたら面白いのはあるんだけど、さすがに周りの目をさ……」
「何言ってるんだ、夏葉。俺はとっくに卒業してるぞ? 引きづってるのはこの馬鹿だけだ」
春来はそう言うと、右隣にいる片目を左手で覆っていた青年を親指でつついた。
「んなっ!? 何をするんだ、イズミール! せっかくもう少しで『全てを見透かせる目』を発動できたというのに」
「あほか、そんなので発動するか。いいか秋人、まずこうやって腰をしっかり膝まで落としてだな──」
「あんたがそういうノリするから抜け出せないんでしょ!?」
バシっと二回、頭を叩く綺麗な音が鳴って、夏葉はそのまま歩き出す。叩かれた馬鹿の2人は走って彼女のにいき、一緒に学校へと向かっていく。
重度な中二病の白髪野郎に、中二病を微妙に忘れられてない赤みがかった黒髪男、そしてオカンみたいな黒髪ポニーテール少女の日常はおかしくはあったのかもしれないが、平和で楽しい日々だった。
──そう、だったのだ。
事が起こったのは、彼らが高校2年になった年の10月あたり。今まで一度も学校を休んだことがなかった秋人が、連絡もせずに急に学校にこなくなったのだ。
「秋人、大丈夫かなぁ。もしかして勉強嫌になっちゃった?」
「いや違うだろー。あいつがかなり前から楽しみにしてたゲームがこの前発売したから、夜通しでやってるんじゃないのか?」
2人も最初は心配こそすれど、あまり重くは感じていなかった。性格上は真面目だが、どこか引きこもり体質なところが、秋人には見受けられていたからだ。
しかし、そんな安易な考えはすぐに捨てられることになる。
11月になった。しかし、秋人は10月から一度も学校に顔を出さない。幼馴染の春来と夏葉にもほとんど顔を見せなかった。
「ねえ、ハルくん!さすがにおかしいよ。噂だと秋人が不良たちに絡まれてたのを見たっていうの聞いたし……もしかしたら!」
「……でも、あいつは連絡よこしてないんだろ?俺らに連絡がないんだったらそんな大層な理由じゃないんだって、きっと」
夏葉は顔を思いっきり歪めて、今にも泣きだしそうな顔をしている。春来はそんな表情をみたからなのか、顔を伏せた。
「とにかく、俺らはあいつを信じるしかないんだよ」
『信じるしかない』
その言葉は一体何に対してなのか、夏葉はもちろん、発言をした春来にもわからなかった。あまりにも意味がなく無責任な言葉。そして糸井秋人は、この世の存在ではなくなった。
──春来以外の人間全員から、秋人に関する記憶はすべて消えてなくなっていた。
────────
俺はいつも通り学校の帰り道で、小さな商店街の道を歩いていた。錆びれたシャッターがほとんどの店を構えていて、ここで賑やかなのは鳥と餌を取り合う野良猫だけ。自分が小さい頃は、驚くほど賑やかで歩くのも嫌になるぐらい人がいたというのに。
「少し寒くなってきたかな」
遠くに見える山は少し、淡い茶を含むようにそびえていた。それは少しづつ緑葉が紅葉へと近づいている証拠なのか、ただ夕方の太陽が山を照らしてそんなような景色を見せているのかはよくわからなかった。
下を向いてみるとその瞬間に水滴が地面に垂れて、コンクリートに小さなシミをつくった。
「あれ?雨……か?」
しかし、空は雲一つないくらいの綺麗な夕暮れ模様を描いている。何やら目頭が熱い。
「おいおい……俺泣いてるのかよ。もう未練ないはずじゃんか……」
「未練あるんだろ?」
後ろから声をかけてきたのは俺の大親友だった。その声を聞いて、何故かもっと目からは熱いものが溢れてくる。
「俺……お前らともっとバカしてたい……。一緒に過ごしてぇよ……。ここにいるはずじゃない存在だったとしても……!俺はお前たちのこと」
「大丈夫、俺がなんとかしてみせるさ。親友のためだ、命張ってでもお前を助けてみせるさ」
親友は俺の肩を抱き、ひたすら寄り添ってくれて、元気をださせようと声をかけてくれていた。
「それに元は俺がお前という存在をつくったんだ。これは俺の責任でもある。大丈夫だって誰にも感づかれずに動いてみせる」
彼は肩からそっと手を放し、足早に歩いていく。俺はそれを追ってはいけなかった。
「俺を消さないってそんなこと出来るのかよ?」
「俺だって全てを見透かせる力を持っているんだぜ?世界になんか屈しないさ」
若干理由になってないような気はするが、それでも彼の言葉は力強かった。そして俺は理由もなく信じてしまって安心してしまう。
大親友の言葉はそれほどに、何かやってくれるのではないかと思わせてくれるんだ。
「待ってろよ、世界。俺の中二病は親友を救えるってことを証明してやる……!」